▼ 01
「やっ…!」
「あ?反抗すんの?借金のカタのくせに?」
目の前の男が脅しを
鋭い刃物を突き付けられている心地。
短い金髪を逆立てて、細い身体を黒いスーツに黒いカッターシャツとネクタイで覆っている。まるで喪服の様な出で立ち。
今、私は知らない男の人に見知らぬ部屋で組み敷かれていた。
知らなかった両親の借金。
負債の返済が出来ずに、その代わりとしてやくざの屋敷に連れてこられた私。
私何てことのないただのOLで、親の借金を初めて知ったのはさっき会社から家に帰宅した際だった。
家はもぬけの殻になっており、そこに居たのは両親ではなく目の前でスーツを脱ぐこの男とその部下と思われる男たち。
一目見ただけで普通でない、いわゆる"その筋"の人達であることがわかった。
「借金返済が出来ないなら身体で返してもらうしかない」
まるでドラマの様なセリフで、そのまま拉致同然で大きな屋敷へと連れ込まれたのはつい数時間前の話。
金ぴかで装飾の激しい壷や同じく過剰な装飾の施された屏風などが置いてある趣味の悪い大きな部屋に引き込まれて、そのまま広いベッドに押し倒された。男は馬乗りになり、無理矢理私の衣服を剥ぎ取る。
「やだ…お願いです…止めてください…」
無言で見つめるその男は震える私をベッドに縫い付けて、首筋に舌を這わせる。
「…お前、経験少ないだろ」
動きを止めて、射抜くような視線で見つめられる。
一重の大きな瞳が私を真っ直ぐ捉えていた。
「…だったら…どうだっていうんですか…?」
恐怖に震え、それでも精一杯抵抗を試みる。
「別に…」
そして、無表情にそのまま胸の先端に少し厚い唇を寄せて吸い始める。
もう片方は細く長い指先でグリグリと押し潰してきた。
「やっ…痛っ…」
まるで噛みつく様に刺々しい愛撫と呼ぶのすら疑問を感じる彼の行動。筋肉質な腕が何かを確かめる様に身体中を這い回った。
「やぁっ…!あっ…!」
「ほら、もっと鳴いてみろ」
上から見下す名前も知らない人。
性急に侵入して激しく中で暴れる。
私の事など全く考えてない、ただ性欲を満たすための気持ちのないセックス。押さえ付けられた両腕が痛い。ガツガツと奥を抉る衝動で身体全体が揺さぶられる。
ベッドが軋み外まで響く大きな音を立てていた。
ひどく乱暴で悲しさすら感じているのに、何故か濡れて腰の中はピクピクと反応してしまっていた。
「っ…そろそろ…」
彼の熱の籠った吐息が耳許に吹きかけられる。
「やっ…やだぁ…!」
悲しく叫んだ声も虚しく、中でドクンと脈を打つ感覚がした。
「ひどい…」
涙が溢れて止まらない。
突然、何もわからないまま、ヤクザに連れ去られて無理矢理抱かれて心はズタズタになってしまった。
「お前は俺の所有物だ。
何しようと俺の自由なんだよ」
冷たく吐き捨てられる言葉。
それと共に彼から解放されて、不意に身体が軽くなる。
「今日からお前の居場所はこの部屋だけだからな」
「えっ…?」
突然の宣告に目の前が真っ暗になる。
「借金のカタなんだ。当然だろ。俺のペットになるんだよ」
彼の言葉に自分の未来が暗黒であることを突き付けられる。希望を失って抜け殻のようになっている私に彼は意地を悪く歯茎を見せる。まるでコメディでも見てるようなそんな心底楽しいといった表情。
ズボンをだけを履いて、そのまま部屋を出ていく彼。私は何も言えなかった。
ぼやけた視界で見送るその背中には大きくて鮮やかな美しい龍が円を描いていた。
2016.3.15
天野屋 遥か
天野屋 遥か
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