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▼ suppression

「お願いだから!今すぐ来て!!」

「えっ…!?ちょっと!?」

玄から夜中に突然電話がかかってきたかと思えば、何やらすごく切羽つまった様子。
しかも、その一言だけで電話は切れてしまった。
玄の悲鳴らしきものも後ろから聞こえた気がするけど…
とりあえず、何やらアクシデントがあったらしい。
会社の付近に住んでる私達は、玄のマンションもすぐに行ける距離だったので、適当に着替えて向かった。


「遅い!!」

インターホンを鳴らせば速攻でドアが開いて、開口一番に文句を言われた。
今までに見た事ないくらいに焦った様子の玄。
普段は待ち合わせに1時間遅れてもそんな事を言わないのに。

「何よ!いきなり来いって言われても準備ってもんがあるでしょ!」

「んな事どーでもいいから早く上がれ!」

せっかく来たのに文句を言われて頭に来たから反論したら、玄の後ろから顔を出した累が怒号を飛ばす。
しぶしぶ靴を脱いで上がったけど、二人は玄関から動こうとしない。
…よく考えてみれば、普段は私が来ても廊下まで出迎える事なんてないのにおかしい。
しかも、廊下をリビングへ歩いていこうとすると、奴らは私の後ろに身を隠すようにしてついてくる。

何なの?この二人。

そんな事を考えながら、リビングへの扉を開けようとドアノブに手をかけると

「「ストップ!」」

いきなり二人が大声を上げるからビクッとして固まる。

「お前、いつも乱暴にドアあけるだろ!そうすると気づかれちまうだろ!」

「は?何に気づかれるってのよ。あんた達、なんか今日変だよ?」

累ですら、いつもの変さとは違う。
本当に様子がおかしい。
まるで何かに怯えている様。

「…出たんだよ」

累がため息をつく。

「さっきまで、二人で飲んでたんだけどそうしたらリビングの床をアイツが…」

玄の顔も青ざめている。

「アイツ?」

さっぱり訳がわからず、首をかしげる。

「「ゴキブリだよ!!」」

二人がまた声を揃えて大きく叫ぶ。

…話が繋がった。
私はゴキブリ退治に召喚されたのだ。
だから、玄にあんなに怒られたのだ。
確かに、二人とも汚いものとか触れそうにないタイプの男だし。
に、してもヘタレすぎるでしょ。

「私、あんた達の便利屋じゃないのよ!」

「そんな事言わないで!彼氏の一大事だよ!助けてよ!」

玄が若干涙をためながら、必死に訴えてくる。

「お前、そんな事言ってどうなるか分かってんだろうな…」

「うっ…」

しかし、それとは逆になぜか強気な累に凄まれてたじろいでしまう。
結局、しぶしぶ私が退治する事になった。

「いないわよ」

リビングを歩き回ってクッションをよけたり、ソファの下の隙間や棚の裏とかも調べるけどでてこない。

「絶対いるから!ほら、そっちも見てよ!」

「お前、手抜きしてんじゃないだろうな!」

廊下から顔だけリビングに覗かせて指示だけ飛ばしてくる玄と累。
偉そうに色々言ってくるけど、ゴキブリが出た途端、パニックになって二人とも部屋にいられなくなったみたい。
私は、実家暮らしの時に「害虫は見つけた人が退治する」ってゆう暗黙のルールで何度も退治してたから特に何とも思わない。
というか、見るとファイティングスピリッツが湧いて来る。

「あ…!壁だ!!」

玄の声に振り返ると、カサカサと黒い塊が壁を登っている。
その瞬間、丸めた新聞紙でパーンと一叩き。
床にポトリと落ちたところを間髪いれずに数回叩く。

完全に息の根を止めたのを確認して、トイレットペーパーで摘まんでトイレに流して永久にさよならした。

「終わったわよ」

わずか、数分であっという間に始末した手際の良さに自分で感動。
けれども、依頼してきたはずの二人はまだリビングに入ってこない。

「…ありがとう。すごいね」

玄はなぜかひきつった笑顔だし

「…女とは思えねぇ」

累に至ってはお礼すらなく、ど失礼な言葉を浴びせる。
そして、二人とも遠巻きに恐ろしいものを見る目つきで私を見てるだけ。

「何なのよ!せっかく夜中に来て退治してあげたのに!えいっ!」

いらっとした私は、さっきゴキブリを叩いた新聞紙を奴らにめがけて投げてやった。

「「おい!マジで止めろって!」」

すると累と玄が慌ててよけようとしてまた大騒ぎに。
こうして、秋の夜長は虫の音ではなく、男二人の叫び声が鳴り響いて更けていくのだった。

2017.1.26
天野屋 遥か



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