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▼ turn me on

「もう、無理だよ玄…」

せっかくの金曜なのに飲みに行く元気もなく、自宅のマンションに真っ直ぐ帰る。
自称"彼氏"の仲良し同期達も家に一緒にやってきた。
最近、仕事で配置換えや新しい案件と仕事上での変化が一気に押し寄せて怒涛の忙しさを迎えており、毎日毎日残業で、イライラすることが多くて精神的に限界がきている私。

「でも、真帆はよく頑張ってるんでしょ?俺は部署違うから詳しい事わかんないけど、累はそう言ってたよ?」

「…累に比べたら誰でも頑張ってるよ」

お酒を飲む気にもなれず、部屋着のジャージに早々に着替えてソファの下で体育座りをする。
前後にゆらゆらと揺れながら唇を尖らせている私を、持ち込んだ部屋着に着替えてソファに座ってビール缶に口をつけている玄が心配そうに見つめてきた。
企画部長だから、頑張ってない訳はないのは分かってるけど、私達の見てる前ではふらふらして偉そうに企画にダメ出ししてくるだけなんだから今日くらいは悪口を言わせてほしい。
しかも、何回もダメ出しをされた事もこの忙しさの一因だったんだし。

「おい!聞こえてんだよてめー!だいたいお前は…」

ベランダで煙草を吸ってる奴の怒号が夜風と共に室内へと流れ込んでくる。

「はぁ…」

いつもなら応戦するけど、そんな元気もなくて溜め息を溢す。

「ねぇ、真帆。どう辛いの?俺にもわかるように教えて?」

隣に座った玄が目線を合わせて、優しく頭を撫でてくれる。
その瞳は不安げで、本当に私を心配してくれている事が伝わってきた。

「上手く回らないんだよね。今担当してる案件が。自分も初めてのケースだからどうやっていいかわからなくて、手探りだし…上司ともぶつかるしさ、人が減っちゃったから負担も大きくて…今までに無い事もしないといけなくなっちゃったから…」

「累は助けてくれないの?」

いつの間にか肩を抱いて、私の髪の毛を撫でている玄。

「だって、累は部全体の事を考えないといけないからさぁ…私達のチームの事にばかりかまってられないよ…」

そう言って、玄の胸元にもたれかかれば、微かに香る甘い香りに安心する。

「そっか…俺が助けてあげられたらいいけど…」

「営業でNo1の人が何言ってんのよ…異動出来るわけないじゃん…」

「「……」」

二人とも無言になってしまう。
自分でも解ってる。
皆、色んな壁にぶつかりながらそれでも毎日頑張って仕事してるって…
だから、甘えて弱音を吐くことは自分自身が許せなかった。


「何だよ。俺が一服してる間にずいぶん仲良くしてんじゃねーか」

ベランダから戻ってきた累が不機嫌そうに私たちを見下ろしてきた。
勝手に置いてる部屋着のショッキングピンクのジャージが目に痛い。

「…玄は誰かさんと違って優しいから」

視線を床に落としたままそう呟く。

「あ〜めんどくせ」

溜め息をつきながら、私の隣に胡座をかく累。
二人に挟まれてしまった私。

「お前さぁ、ちょっとは他人頼れって。少なくとも俺と玄位には」

ぶっきらぼうな累の口調と裏腹に温かい手が私の手を包む。

「そうだよ。俺達真帆の事甘えさせてあげられるだけの器は持ってるつもりだよ?」

それに加えて玄のどこまでも優しい言葉。

「累…玄…ありがとう…ずっと辛かったの…誰かに聞いて欲しくて…」

堪えてたものが溢れ出す。
子供みたいに声を上げて泣き続ける私を二人は何も言わずにただ見つめて寄り添ってくれていた。

久しぶりにこんなに自分の感情を表に出す事が出来て、とてもすっきりした。


「ったく、初めっから素直に泣けばいいのによぉ!」

「うるさい!!」

泣き晴らして真っ赤な顔をして奴を睨むと、それでも柔らかく見守るような笑顔を見せる。
その表情にドキッとしてしまった。
あまりに綺麗で言葉を失って見入ってしまう。

「んだよ、俺の美しさに見惚れてんのか?」

しかし、次の瞬間にはいつものあの悪魔の歪んだ微笑みに変わってしまった。

「違うわよ!このナルシスト!」

「あ"ぁっ!?何だと!?」

奴の顔が怒りに歪む。
このままいつもの口論が始まりそうになる流れ。

「ストーップ!ダメダメ!」

玄が慌てて私達の間に入ってそれを止める。

「真帆、とりあえず冷たいタオル持ってきたから目を冷やそ?そのままだとかわいいお目目が腫れちゃうから!ね?」

そう言って、ソファに座った玄が私の腕を引いて自分の膝枕に私の頭を乗せさせた。

「気持ちいい…ありがと…」

瞼の上にタオルをのせてもらい、ひんやりとした感触で目元がすっきりしていく。
柔らかいソファの感触と膝枕の温かさに段々と気持ちがほぐれていく。

「真帆、お疲れ様…」

頭をポンポンと心地よいリズムで叩いてくれる玄の手のひらが温かくて、うとうととまどろんでしまう。

「ゆっくり休んで、明日は一緒に出かけようね?」

「うん…」

夢と現をさ迷いながら、私の王子様は玄だと思いその言葉に返事をする。

「ったく、しゃーねぇなぁ。俺もお前を労ってやるよ!」

そんな2人の世界を邪魔するような累の言葉の後、突如、足の裏に激痛が走った。

「痛っ!何すんのよ!」

あまりの痛さに勢いよく飛び起きる。

「痛っ!」

しかも、突然起き上がったせいで玄の顎に私の頭がぶつかってしまい、彼も悶絶していた。

「お前ら二人ともアホすぎだろ!」

”奇跡の10秒間”だとバカにしながら、累は不幸に見舞われた私と玄を見て笑い転げている。

「なんでいきなり足つぼマッサージすんのよ!」

私が足つぼ苦手なの知ってて、痛いところを思いきり押してきたからひとたまりもない。
まだ足の裏がじんじんしている。

「俺もお前を労ってやろうと思っただけだよって…痛ってぇ!」

「よし!!」

ソファに置いてあったクッションを累めがけて投げてやった。

「てめぇ!真帆!」

「何よ!」

「ちょっと!2人とも!落ち着いて!」

そのまま、結局、私と累のくだらないケンカが始まって、玄が仲裁に入ってってゆういつもの流れになったんだけど、落ち込んだ気持ちは消えて、いつの間にか気分が軽くなっていた。


2016.11.7
天野屋 遥か



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