少女は哀しみに沈み



あの日以来、更に純君とは仲良くなった。

補習の帰りは危ないからと毎回家まで送ってくれる。

「真央、よく俺の補習みてくれるよね。」

夕日が空に別れを告げる頃、私達は帰り道を歩いていた。
初夏の爽やかな風が私達の間を吹き抜ける。

「純君が、先生に言ったんでしょ?
    私がいいって」

「でも、なんでOKしたの?
    普通、学校残るの嫌じゃないの?
    彼氏とかいないの?」

「友達は皆いるけど…
    私は今、好きな人いないかな。
   興味ないわけじゃないけど、自分が誰かと
   付き合うって、正直ピンとこないの」

「…そうなんだ」

何となく、湯野君の事は言いたくなかった。
ただの憧れで、彼と付き合いたいなんて思ってる訳じゃないから…

「ねぇ、真央。今度一緒に何処か行こう?」

「え…?でも…」

突然の誘いに固まってしまう。
男の子からこんな風に誘われるのは初めてで、しかもあの純君からなんて…
どうしていいかわからなくて困っていると、不意に手が温かく包まれた。

「俺なんかとじゃ嫌?」

私の手を優しく握って、悲しそうに眉を下げる彼。
白い肌が紫色に染まった町に浮かび上がって、酷く寂しそうで
そのまま消えてしまいそうに儚かった。

「そんな事ないよ!だって、純君は…」

彼が消えてしまわない様にと、思わず大声を上げて手を思い切り握り返してしまう。
が、その後に続けるべき言葉が分からなかった。

「俺は…?」

手の力も緩み、勢いがしぼんでしまった私に続きを促す様に、顔を覗き込んで来るクラスメイト。

「…大切な…友達」

「…うん。じゃあ、今度どこ行くか決めような」

そのまま、手を握る力を強める彼。
タイミングを失った私はそのまま手を繋いだまま。
二人の影は同じ歩幅で道路に映っていた。



「パスパス!」

「おーっ!」

放課後の校庭からは部活のかけ声が聞こえる。
補習の日、純君が問題を解いてる間、私は窓からサッカー部の練習を見ていた。
今日は試合をしていて、グランドに散らばった皆がボールを蹴り合って駆けまわっている。
その中でも、湯野君は誰よりも輝いていた。
背が高くて、小麦色の肌は健康的。
太い眉にくりっとしたアーモンド形の目と通った鼻筋。
整った顔を崩す位に顔を崩しながら声を出して、長い手足を惜しげもなく使って走り回っている。
真剣に部活に取り組むその姿は、本当にかっこいいと思う。
彼を見学に来ている女子生徒も何人かいるし。

「ねぇ」

呼ばれた声に振り返ると、少し寂しそうな純君がいる。

「あ…どこかわからないとこある?」

「いや…違うけど…」

何だかいつもと違って、歯切れが悪い。

「そう?…「行け!湯野!」

グランドから、突然歓声が聞こえてきたので気を取られてしまう。
湯野君のプレーから目が離せなくて、純君の言葉を適当に聞き流して窓の方へ身体を向ける。

「あっ!!」

再び窓からサッカー部を見ると湯野君がシュートを決めて、他のチームメイト達と喜んでいた。
その姿を見ていると私も自然と顔が綻んでくる。
すごいな湯野君。
2年で唯一のレギュラーだし。
真剣にボールを追ってる姿は凄くかっこいい。

なんて見入っていると…

「真央、できた」

「あ、ありがと。って、ちょっと!?純君!」

ジョンス君が不機嫌そうに私を呼ぶ。
振り返るとすぐ後ろに立っていて、プリントを押し付けてきた。
そして、そのまま帰ってしまった。

「…どうしたんだろ?用事かな?」

なんてその時は気に留めなかったけど、それから彼の様子は変で

「純君、おはよ!」

「……」

話かけても、私を一瞥しただけで言葉は返ってこない。


「今日も来ない…」

そして放課後も、いつもの席で待っていても彼が現れる事はなくなってしまった。
誰もいない教室に残されているのは私だけ。


どうしたんだろう…?
私、何か気にさわる事したのかな?
それとも家の事で何かあったのかな?

考えても原因は解らなくて。
せっかく仲のいい男友達ができたと思ったのに…

そんな風に激変してしまった彼との関係のまま数週間が過ぎた。



「二宮、悪いけど伊藤を探してきてくれないか?」

「わかりました。」

放課後、職員室に呼び出された私は、仕事から手が離せない担任に言われて純君を探しに行く。
最近、補習をサボってばかりでそろそろ単位がマズイらしい。

今日は学校には来てたはずだから、絶対見つけて補習受けさせよう!
それに、ちゃんと話がしたい。
なんで私の事を避けるのか聞きたい。


パタパタと校内を走り回る。
ジョンス君がよくサボりに使う空き教室、保健室、校庭や校舎の裏に行ったけどどこにもいなかった。

最後にたどり着いたのは屋上―――
ドアを開けて見渡すけど、広がるのは青い空と街並みだけで誰もいない。

…もう帰っちゃったのかな?

踵を返して戻ろうとすると

「…ここじゃマズイって」

水道タンクの裏から聞き覚えのある声。
思わず足を止めて背中越しに耳を傾けて確認する。

直感的に近づいてはいけない気がした。
けれど、探していた張本人がこの裏にいると思うと見過ごす訳にはいかなくて。

意を決して声のする方へ足を伸ばすと…

「……!」

タンクの影で純君が女の子と抱き合ってキスをしていた。
しかも、彼は女の子のはだけたブラウスの中に手を入れている。

恋愛に免疫のない私には衝撃的な光景で、その場から離れたいのに縫い付けられた様に足が動かない。

すると純君と目が合ってしまった。

彼は目線を私に残したまま、見せつけるかの様に再び女の子にキスをして

「真央も仲間に入る?」

にっこりと微笑んだ。
それは、今まで見たことない様な綺麗で妖しくてそしてどこか非難の色が滲み見下す様な歪んだ笑顔。

私は何も言うことが出来ず、その場から駆け出した。


prev next


back

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -