Night still young | ナノ


▼ all things go後編1

いつもの様に笑いかける俺と固まったままの君。

テレビの音だけが絶えず流れてくるけれど、それはまるで遠い海の小波と変わりなくて。
一瞬にして世界は俺とコイツだけとなる。
削ぎ落とされて余計なものは一切ない。
逃げる事も出来なければ、勿論、逃がすつもりもなかった。

どうしてそれを…

声にならない声。
震えるコイツの唇からそんな言葉が零れた気がした。

まだ逃避を願っているのか。

その往生際の悪さと愚かさすらも可愛く思える。

自分自身の口で起きた事実を俺へと伝えてしまえば、それを認めてしまった事になるのが怖いから何も言わないんだろう。
その位の事が分かる位にはずっと傍にいたつもりだ。


冴子と初めて会ったのは、新入社員研修だった。
グループが同じで、2ヶ月間毎日顔を合わせて一緒にワークに取り組んだ仲だ。
企画をしたり、プレゼンしたりして、1位になりたいって全員で知恵を出し合って頑張っていた。
メンバーの中でも、特に、冴子とは話が合ったし、好きな歌手だったり映画とか、そういうものが一致することが多くて、自然と親近感が湧いた。

そして、ある出来事で冴子への想いは決定的なものへとなる。
俺が仕事にかまけてた所為で大学の頃から付き合ってきた彼女と別れた時に、ずっと話を聞いてくれていたのは冴子だった。
仕事に夢中になってはいたけれど、本気で愛していて、数年後には結婚したいとさえ思っていた人に振られた事は本当にショックだった。
普段からは考えられない位に弱ってしまい、使い物にならなくなっていた俺を心配した冴子が連絡をくれて、話を聞いてくれたりした事は本当に俺にとって有難かったんだ。

「悪い…俺、本気でアイツの事好きだったのに。こんな事になってさ。仕事頑張ってただけなのに、どうしてなんだろうな?」

「鶴木が一生懸命頑張っていた事は皆知ってるよ?きっと次はちゃんとわかってくれる人は現れるから…」

飲みに行っては、焼酎を飲みながらグダグダと女々しくくだを巻く俺の話に耳を傾けてくれていた冴子。
見返りを求める事なく、純粋に友人として心配してくれていた彼女のその直向きさに救われたし、特別に思う様になった。

残念だったのは、冴子が本当に恋人を作る気がなかった事だ。
俺の事は”同期のライバルで親友”。
そんな認識だった。
それでもよいと思っていた。
物理的にも、精神的にも一番近くにいたのは俺だと自負出来る位に仲がよかったのは確かだからだ。

けれども、あの男の登場で状況は一変した。

「宗方先輩!飲みに連れて行って下さいよー!」

「あぁ。いいぞ。今日はどこへ行こうか?」

先輩がどんな人かも知らない、知っているかもしれないけれど、きっとそんな事は関係なくて。
仕事で圧倒的なリーダーシップや的確な分析や指摘を行い、結果を出していく宗方先輩を純粋に尊敬し、慕っていた。
あの人がそんなお前をどんな目で見ているかも気づいてなかったんだろう。
冴子みたいな、素直で純朴な人間に俺達の様な人間の狡猾さなんて分かるはずがない。


「無理矢理抱かれてショックを受けたのに、それを隠して皆の前ではいつもと変わらず気丈に振舞っているお前の姿は見てて本当にいじらしくて可愛そうで…楽しかった」

固まったままの冴子の腕を引っ張り、自身の胸の中へと納める。
先ほど、電源をオフにしたテレビの画面に浮かぶのは俺が冴子を抱き締める影。
その肌の熱が俺に馴染んでくるのを感じて、やっと欲しかったものが手に入ったと実感が湧いてきた。

「しかも、それでも隠しきれずにたまに暗い表情を見せるのも最高だったよ」

そのまま、背後から抱きすくめて耳許で囁いた。呆然として、ただ、瞳孔を開くだけの冴子。

「で、そこで次は俺の番。種明かしをして、こうやって驚くお前の顔が見れる。まさにこの瞬間を楽しみにしてたんだ。本当、予想通りの大きな反応で俺は嬉しいよ」

そのままお構いなく喜びを素直に口にすれば、冴子が振り返って俺を睨む。

いい目だ。

ぞくぞくする。

こんな風に強い眼差しを向ける女を自分の手で弱らせる事が出来る事に恍惚が沸き上がってくる。


「こんな写真も持ってるぜ?」

見せつけたのは先日、宗方先輩に抱かれた後の写真だった。
自身の乱れた姿を見せつけられた彼女は、瞳孔を大きく開き、短く息を飲んだかと思えばガタガタと震え始めた。

「…私にどうしろって言うのよ」

瞳を潤ませ、小さくぽつりと呟く愛しい女。

「今更、そんな野暮な事を聞くのか?」

いつもよりも数段低めた声で囁き、返事の代わりにポロリと零れた涙を舌で拭った。

そのまま、横抱きにしてベッドに連れて行く。
無理矢理犯すような真似はしたくなくて。
せめてもの償いにと、そっとベッドに寝かせた。

俺の影に染まった冴子を見下ろす。
諦めの中に、悲しさを含んだ瞳で俺を見上げる彼女の顔を見ないふりして、パーカーに手をかける。
ファスナーを開いて、Tシャツを捲りあげて顕れた胸元が視界に入った。


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