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▼ decision1

つい、数日前までただのOLだった私がこんな事になるなんて。

人生ってなんて不思議なんだろう。

塞ぎ込んだ心とは真逆の迷いなく晴れた青空を見上げながら、センチメンタルな気持ちになる。

あっという間に荷解きは終わってしまったので、近所に買い物に出ていた。


夕飯の食材を買うために入ったスーパーは土地柄のせいか、置いてある品物も高価で質の良いものばかり。
カートを押して食材を手に取り吟味しつつ、夕飯のメニューを考えながら買い物を終えた。

そして通りを歩けば、道路を挟んだ向かいに再会を果たしたレストランが目に入る。

あの日の電話で指定されたのはこの高級なフレンチのレストランで、驚きながらも店内へと足を踏み入れた。
個室に案内されれば、既に二人がテーブルについていた。
真っ白なスーツに相変わらず明るい髪色の環と、男性にしては少し長めの黒髪に漆黒のスーツで派手な柄シャツを覗かせている徹。
2人共、学生時代よりも精悍な顔つきになっていた。
そんな二人の姿に流れた時間の大きさを改めて思い知らされる。

「久しぶりだね。しのぶ」

「うん」

大学時代の三人でつるんでいた頃と変わらない笑顔を向けてくれる環。
その横で無言のまま煙草をつまらなさそうに吹かす徹もまたあの頃と何も変わっていない。
 
「徹も久しぶりだね」

テーブルの正面にいる彼にそう言葉をかければ、 ”おう”とそっけない返事をする。
年齢を重ねて上質なスーツを身につけているのに、あまりに変わっていなくて思わず微笑みが溢れる。

「…なに笑ってんだよ」

「別に。懐かしいなって思って。いつもそうやってゼミでもつまんなそうにしてたの変わってないなって思ってさ」

それを発端にあの頃の話に花が咲く。
時の流れは私達のわだかまりを溶かして無くしてくれたのだとわかった。

「そういえば、二人で会社設立したんでしょ?すごく注目されてるみたいじゃない。雑誌に載ってるの、私も見たよ」

そう、IT企業を興し、順調に事業を拡大している2人の美しい男達はその業界の注目株となっている。
そして、同窓会に出る度に欠席のはずの目の前の二人の話題は必ず出ていた。

「そんな事ないよ。まだまだだよ」

嬉しそうに笑窪を深めながらも謙遜する環と

「そりゃ、俺にかかりゃ当然だろ。もっとすごいことやってやるからみてろよ」

強気な発言と共にニヤリと歯を見せる徹。
この対象的な態度も全くあの頃と変わっていない。

「しのぶはどうなの?たしか、メーカーに就職したよね?続けてるの?」

今度は環が質問をしてくる。

「うん。営業に配属だったんだけど、今は内勤で企画に関わってるの。2人に比べたら本当に普通のOLだよ」

「ふーん…」

食事を終えた徹が頬杖をつきながら素っ気ない返事をする。
その表情は乏しく、私をただ見つめていた。

「そういえば、話って何?」

食後のコーヒーが並んだところで、本題を切り出す。
そう、今日は環から話があると呼び出されていたのだった。

「俺達の会社が投資事業もしてるの知ってる?」

「うん。それが会社の収益の大きな割合占めてるんだよね?」

雑誌の情報の受け売りでそう答えた。

「だから、俺等の許には様々な情報が入る」

「…何が言いたいの?」

  徹の意味深な言葉に、眉を顰める。

「…君のお父様の会社、経営がかなり苦しいよね?」

「…!?」

その後の環の言葉に思わず目を大きく見開き、持っていたカップを落としてしまう。
ガチャンと音を立てて、溢れたコーヒーがテーブルにじわじわと広がっていた。
テーブルに両肘をつき、口元で両手を組んでいる環がその私の反応をただじっと見つめていた。



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