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▼ wish1

「そういえばさ、今度、母さんの誕生日プレゼントを選ぶのに付き合って欲しいんだけど…」

学食で二人でランチを食べている時に、思い切ってしのぶを誘う。
距離が縮まって、二人だけで話す機会が増えてきたからそろそろいいタイミングなんじゃないかと思ってさ。

「えっ!?私でいいの?彼女さんに選んでもらった方がいいんじゃない?」

「いや、就活始まる時に別れたんだ。そっちに集中したくて」

角が立たない様に上手く適当な理由をつけて別れた。下手に他に女がいるとか要らぬ疑いをかけられたくなかったから。
そんな事が彼女の耳に入ってしまったらたまったもんじゃない。

「じゃあ、今いないの?フリーの環なんて珍しいね」

「ん…まぁね。おかげでちゃんと行きたい会社に決まったからよかったよ」

「そうだね。あんな大きい会社から内定貰えるなんてさすがだもん。
 まぁ、でもすぐにまたかわいい彼女できるよ」

彼女の他意のないコメントに対して曖昧に微笑む。

どうだろうか?
すぐに、想いが通じるなんて思えない。
それでも、代わりなんてないと分かっているから、長期戦は覚悟の上。
だって、見つけてしまったんだから。
もう、他の女の子なんて目に入らなくなるさ。

人を見下してた癖に寂しくて、本当は理解者が欲しかったかつての自分。
今は自分が認めた人に受け止めて欲しいと願っていた。


「待った!?遅れてごめんね!!」

「大丈夫、俺も今来たところだから」

長い髪を揺らして彼女が走ってくる。
今日はしのぶだけ午前中に講義があったから、その後に待ち合わせ場所のデパートの前で合流。
君は黒いシャツにジーンズでヒールの高めのパンプス。
バングルを重ね付けして、コンタクトの調子が悪い時の定番の黒ぶちの大きなメガネをしている。
俺はいつもよりもおしゃれをして、白いジャケットにストライプのシャツ、ジーンズに革靴と畏まって来たけれど、向こうが極めていつも通りの恰好すぎて、少し残念だった。

「ねぇ、どういうものを贈りたいとか決めてる?」

「それがさ、何をあげようか迷ってて…」

ひとまず、婦人雑貨のコーナーを見て回りながら相談を始める。

「じゃあさ、お母さんはどんなものが好き?最近欲しいって言ってたものは?」

俺が答えあぐねていると、矢継ぎ早に質問を投げかけてくる。

「息子さんからのプレゼントなら、化粧品はちょっと違うかなぁ…」

売場の地図を見ながら、色々考えているしのぶ。

「そういえば、フードプロセッサーが欲しいって言ってたけど…」

「そっか、じゃあそれ見にいってみよう!」

彼女に引っ張られる形で調理器具のコーナーを見たり、それ以外にも何かあるかもしれないからと雑貨屋にも足を運ぶ。
自分の事の様に真剣に考えてくれて、終始、俺よりも積極的に動いてくれた彼女を間近で見ていると、付き合っているのではないかと錯覚に陥りそうになった。


「なんか環ってもっと喋るのかと思ったら意外と口数少ないね」

結局、フードプロセッサーを購入した後に、休憩に入ったカフェでお茶をしてるとそんな事を不意に言われた。
母親の誕生日プレゼントを選びたいという口実に誘ったデートは実に穏やかな時間だった。

「そう?」

「うん。いつもゼミの飲み会や勉強会でもすっごく喋ってるから、二人だけでももっと喋るのかと思ってた」

「まぁ、場を盛り上げたり皆で騒ぐのも好きだからさ。でも、普段は俺、こーゆー感じだよ?ダメ?」

そう。本当は無理しているんだけなんだ。
いい人に見られたくて、皆に好かれたくて、脚光を浴びるために。

「ダメじゃなくて、びっくりしただけ。テンション高すぎてついていけなかったらどうしようって思ってただけだから」

「何それ」

思わず笑ってしまうと、彼女も楽しそうに笑顔を見せる。

「なんか、今日は環の意外な姿が見れてよかった。
 こーゆー風にあんまり話さなくても一緒にいて、穏やかな気持ちになれるっていいね」

「なんで?彼氏とはこんな感じじゃないの?」

「ん…どうだったのかなぁ?もう別れるし…」

ずっと気になっていた事を問いかけてみたけれど、窓から差し込む光に優しく溶けている君に見惚れてしまい、それ以上踏み込めなかった。

いつもそうだ。

自身の恋愛の話になると途端に口数が減る。
恋人といるところを何度か見た事あるけれども、笑顔でいる様で壁を作っている様なそんな印象だった。
しかも、だいたい数か月で変わっている。
長身で細めの何だか大人しそうな冴えない奴って言うのが共通点だった。

まぁ、そもそも周囲の全ての人間に対して壁を作っていた俺が言うなよって話だけどさ。

肝心な事を聞きたいのに聞けなくて。
大切な事を伝えたいのに伝えられなくて。

抱いてしまった恋心に気づくのは早くて。
けれども、この関係が心地よくてずっと言えなかった。

こんな風にある一点から先に進めないまま、時間だけが過ぎていった。


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