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▼ at the begining1


「徹もこのゼミ選んだんだ…」

「まぁな。お前もここにしたんだな。当然だろうけど」

2回生の夏休み明けに行われたゼミの顔合わせ。
長期休暇の最後に、面接試験を受けて見事に一員となる事が出来た。
これから卒業まで共に切磋琢磨していく仲間になるメンバーの中に、不意に見知った顔があってびっくりしたが、そのまま奴の隣の空いている席に腰を下ろす。

「意外。あんまり学校来てなかったし、興味あるとも思えなかったけど」

学校に来なくて有名なこの男が学部内でも断トツ人気のこのゼミを希望していたのは驚きだった。

「まぁ、俺も色々考える事があんだわ」

ぼんやりと前を見つめたまま答える友人。
もちろん、このゼミは学部内でも1,2を争う程に人気が高くて、毎年希望人数も多い。
学部は1000人近い学生がいて、その中の約1割がこのゼミを志望してくる。
そんな激戦を勝ち抜いたメンバーは優秀で個性も豊か、しかも、就職にも強くて、歴代の先輩たちも名だたる大企業に就職を決めている。

自分にふさわしい場所だと思った。

だから、逆にそんな事に全く興味の無さそうな奴がいる事が何だか腑に落ちない。

「徹の知り合い?」

なんて、そんな事を考えていたら、不意に親友の奥から女の子の顔が出てくる。可愛いというよりも、和装がよく似合いそうな綺麗な顔をしていた。

「一応な。英語のクラスが一緒だったんだよ」

「そうなんだ!あ、私、佐藤しのぶっていいます。よろしくお願いします!徹位しか知ってる人がいなくて…不安だったんですけどよかった」

「俺は見城 環です。よろしくお願いします」

俺の事、知らないんだ。
それに、全く知ってる人がいないって…
このゼミ見るとだいたい学部でも目立つメンツが多いと思うけど。
不思議な人だと思った。

これがしのぶとの出会い。

そのあと、すぐに教授が教室に入ってきて、ゼミの方針などの説明が始まる。
そして、野心の強い俺はもちろんゼミの代表にも立候補して見事就任した訳で。

「これから、親睦会を始めまーす!!」

有志で飲み会を企画して段取りを決める、店もちゃんとおしゃれで値段もリーズナブルな所を選んだ。
そして、当日も司会を行って中心で動いている。
ゼミ内仮装大会と称して、男女何人かが事前に考えてきたコスプレを披露して、皆に審査をしてもらうというもの。
流行りのアイドルやヒーロー、動物などみんな様々な恰好を披露し、一人ずつ登場する度に歓声や笑い声が響いていた。

「環君!すごーい!」

「マジですげーわ!これは気づかずにナンパしそう」

俺はメイドの恰好をしてたんだけど、中途半端では面白くないと、女子にメイクを施してもらい女と見間違えるだろう完璧な状態で皆の前へと出たのだ。
そうしたら、期待以上の反応で、今日一番の驚きの声をもらった。
しのぶは後ろの方の席で、騒いでいる俺達の様子を見ていた。
その隣には、徹がいて、俺たちの方を見ながら楽しそうに何かを話している。
しかも、アイツは俺のぶりっ子ポーズを真似して、彼女はそれを見て大笑いしていた。

しのぶはゼミのイベントにはちゃんと出席していたけれども、輪の中心には入らずに、騒いでいる俺達の様子を少し離れたところから見ているタイプだった。
だから、彼女とは二回生の内は特に関わる事もなかった。
たまに話す程度で、綺麗だとは思っていたけどアイツの女友達、ただ、それだけだった。

ところが、三回生の秋のゼミの集大成となるグループ活動で転機が訪れる。

ゼミの代表と言っても、対外的な事がなければそこまで仕事が多い訳ではないから、グループワークもリーダーになって。
結成された五人メンバーのグループに、徹としのぶもいた。


「ちょっと、徹!グループワークなんだから、用事がないならちゃんと顔出してよ!」

数回目の集まりの日に、自習室にしのぶが現れた途端、第一声がそれだった。
あの男に余りにずけずけとものを言う態度に驚いた。

「うっせーよ!ちゃんと調べものとかやってんだから問題ねーだろ!」

さぼったりはするけど、ちゃんと調べものはしてくる徹。一応、あいつなりにはグループに参加する気はあるのはわかってる。
けれども、皆、気まぐれで気難しい奴に気を使って話しかけてるし、徹自身も自分が認めた人間以外には壁を作っているのは周知の事実。
それで、今日は、集まりをすぐにさぼる親友を見かねて、俺が奴のマンションまで迎えに行ったのだ。

「そーゆー問題じゃないって!!何バカいってんのよ!皆で集まって話し合わないとグループワークの意味ないじゃん!」

「お前、そんなに固いことばっか言ってるから、男に振られるんだろ!?」

「今はその話は関係ないでしょ!?皆いるんだからやめてよ!恥ずかしい!」

彼女がそう訴えれば、徹を筆頭に皆が大爆笑。
当の本人さえも笑っていた。

グループで集まる度に、こんなしょうもない言い合いが行われ、それはもはや名物になっていた。
アイツにこんなに、はっきりいう人間がいるとは思わなかった。
それに、徹自身もそれを許してるというか、面白がってるのがわかる。
しのぶと話す時は雰囲気がいつもよりも柔らかく、自然に笑っていた。
それは、奴と数年の友人関係を続けているから分かるもので。
そして、真面目で、だけど冗談もわかるしのぶの印象はとても好ましいものへと変わっていった。



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