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▼ encounter1

真っ青な空を見上げながら、細く紫煙を燻らす。
人気のない喫煙場所で一人で休憩している。 自分だけの空間が心地よかった。

普段、絶えず自分の周りに人がいるから、たまには息抜きが必要だ。
大学に入学したばかりで、まだ慣れない環境。
始まった生活に早く慣れて、自分のものにしていかないといけない。その場の主導権を握れる位に早くなりたい…

なんて、そんな事を考えていた時だった。

「あれ?お前も吸うのか」

まるで顔見知りの様に声をかけてくる目の前の男。声から同性だと判断がつくが、その見た目は女と見間違える様に線が細く、繊細で綺麗だった。

「…そうだけど」

「ふーん。"王子様"が意外だな」

人の心を見知ったかの様にニヤリと歯を覗かせる。
しかも、女子達が付けたあだ名で小馬鹿にするように俺を呼ぶ。
その外見に反して、性格は悪い。
非常に不愉快だった。

あぁ、そうだ…
この男は確か兼平徹という奴。
同じ学部で、確か講義も一緒だ。
女子達が騒いでた気がする。
女みたいに綺麗な奴がいるって。
それがコイツか。

これが、徹との出会いだった。


「環、頼むよ。お前が来るなら向こうの子達が合コンするって言うんだ」

同じサークルの奴に廊下で声をかけたられた。なにかと思えば、どうやら他の大学に狙ってる子がいて合コンを取り付けようとしてるみたいだけど、中々上手くいかないらしい。

「俺、一応彼女いるんだけど…」

「そこを何とか頼む!この通り!」

「…わかったよ」

両手を合わせて拝むように俺に頭を下げる友人に笑顔で返事をする。
ここまで頼み込まれては断れない。
今の彼女ともそろそろマンネリだし、いいなと思う子がいればアプローチしてもいいかもしれないなんて打算的な考えまでも瞬時に浮かぶ。

自分で言うのも何だけど、昔から俺はどうやら目立つ存在らしく、女の子達も沢山寄ってくるし、それを目当てにこうやって俺と仲良くしようとする奴もいた。

まぁ、でもそんな周りの奴らを上手く使って世渡りして行くのは俺に許された特権であり、持ちつ持たれつといったとこだろうと思う。
ある意味孤独なこの状況に別に不満はないし、自分自身も甘い汁を吸っているから何も思っていなかった。


「あれ?環じゃね?」

ある日のバイト明け、駅へ向かう途中に橋を歩いていると、聞き覚えのある声で名前を呼ばれた。
振り返れば、鮮やかな赤のジャージを着て煙草をくわえた兼平が立っていた。
コイツは顔がいいだけで、ファッションセンスはぶっ飛んでいる。オレンジの髪に赤のジャージってヤンキーかよ。

「お前、何してんの?」

「兼平君こそ何してんの?」

「俺はパチンコ行って、ネカフェでマンガ読みながらゲームしてその帰りだよ。で、お前は?」

ある意味羨ましいハードスケジュールに溜め息が出る。

「…バイト終わって、これからサークルの飲み会の二次会に行くところなんだよ」

「はぁ!?これからか?すげーなお前!」

質問に答えてやれば、驚いて、大きな声を出すと同時に口から煙草を落とす兼平。

「まぁね。忙しいんだよ、ヘラヘラしてるように見えても俺は」

そう。冗談でなくほんとにキツい。
実家暮らしで、母子家庭だから学費ももちろん、生活費も負担をかけたくないからバイトも沢山入ってて、サークルも1年の代表になったから、こまめに飲み会とかにも顔を出さなきゃいけない。おまけに、奨学金も貰ってるから、成績も落とせなくて。
色々やることが積み重なっていた。

「大丈夫かよ、お前」

苦手な奴だから、かわして歩こうとしたとこで、不意にそんな言葉をかけられる。
思わず足を止めてしまった。

「疲れた顔してるけど、ほんとにそのまま飲み会行っていいのか?余計なお世話かもしんねぇけどさ」

橋にもたれ掛かって、再び取り出した煙草に火を点ける兼平。
そして、俺に向かって煙草の箱を差し出す。夜の闇に浮かぶその白い顔は俺への気遣いを写しており、女と見間違う様に美しかった。

「…大丈夫じゃないかもしんないな」

差し出された煙草を受け取り、火をつけて肺に煙を踊らすと、少しだけ気分が良くなる。

「そんな事してると、そのうちぶっ倒れるぞ」

「分かってるんだけどさ…でも必要とされてるからさ」

そんな訳にはいかないと反論すれば、この男は溜め息の様に煙を吐いた。

「お前、よくやるよな。英語のクラスでも飲み会企画したりとかしてんじゃん。俺は他人になんて興味ねぇし、キライな奴と一緒空間にいるのも嫌だ」

納得の答え。
これは嫌味じゃなくて本音だと思う。
コイツは英語のクラスが一緒だけど、ほとんど来てないし、来ても俺以外と口もきかない。
かといって、俺ともそんなに話す訳じゃないけどさ。主にノートとかの事だけだし。

「初めて見たときから不思議だったんだけどよ、お前さ、いつも笑顔を貼り付けて皆にいい顔ばっかしてそれでいいのか?ほんとは他人をよせつけない癖に、人侍らせてそれの何が楽しいんだ?必要にされてるからか?」

目を大きく開いて兼平の顔を見る。
怒りも何もかもを通り越していて、ただただ驚くばかりだった。

「…なんで、そんな風に俺の事思ったんだ?」

「別に。何となく見ててそう思ったんだ。感じたことを言っただけだ」

通じあったと思った。
コイツになら、飾る事なく本音で話せると。
それは、初めての感覚だった。
表面じゃなくて、俺の心の内側がすでに奴には見えていた。

普段、自分の周りにいる人間とは全く種類が違う。性格が合うわけでもないし、寧ろそれどころか正反対とさえ思う。
しかし、それを飛び越えた、本質が合うを思った。細いけれども強固な糸で繋がっている様なそんな印象。

あの後、結局、サークルの飲み会は断って、徹と二人で飲みに行った。


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