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▼ at heart1

「しのぶ…起きて?朝だよ」

昨日の夜が相当疲れたのだろう。
ぐっすりと眠ってしまっている愛しい人へと声をかける。

「…!?ごめんなさい!私、寝坊しちゃって…」

俺の声に反応して飛び起きる様子は可愛い。
レースのカーテン越しに差し込む朝日の光が、君の肌を白く照らしているのは幻想的で美しかった。

「いいよ、昨日は激しくしちゃったし。こっちこそごめんね?」

「ちょっ!そんな事…!」

赤くなる君が可愛くて笑みを深める。
完璧にスーツを纏った俺と、まだ素肌でシーツに包まっている彼女の姿。
寝室には俺達二人だけのこの状況に、優越感に似た少し歪んだ満足感を覚える。

君を此処に閉じ込めて、
君の為に働き、
君の世界を彩るのは
まるで自分だけだと言わんばかりの嬉しさ。

「それより朝御飯は!?」

「大丈夫だよ。いつも二人とも朝はコーヒーだけだから。で、しのぶの分の朝食は俺が作ってテーブルに置いておいたから食べてね」

幸せだと思う。本当に。
望んだ人がすぐに手に届く距離にいるのは。
彼女の為に朝食を作るのは、本当に楽しかった。
新婚のお嫁さんが料理を作って旦那さんを待つ心境がわかったよ。
美味しく食べてくれる姿を想像してはわくわくしたんだ。

「環…ありがとう」

「気にしないで?俺が好きでやってる事なんだから。それよりも、ちゃんと全部食べてね?美味しいはずだからさ」

そうおどけて笑いかければ、しのぶも段々と顔が緩んでいく。
すると、いきなり寝室のドアが開いた。

「…明日からはちゃんと先に起きて準備しろよ」

やっと着替えを済ませて自室から出てきた徹が不機嫌な顔を覗かせて彼女を一瞥すると、すぐに行ってしまった。
その態度に、せっかく笑顔をみせてくれたしのぶもまた沈んだ表情に戻ってしまう。
本当に困ったものだ。

「徹の奴…」

「本当にごめんね。明日からはちゃんとするから…」

溜息を吐く俺に再び謝罪する君。

「気にしないで。アイツ低血圧で朝が弱いだけだから。じゃあ、そろそろ俺も行かなきゃ…っとその前に」

俺を見上げている恋人の顔に近付き、唇を重ねる。
そのまま、舌を入れて朝から深く甘い口付けを味わった。

「行ってきます」

トロンとした顔で俺を見つめる君に満足して、家を後にする。地下の駐車場に行けば、アイツの車はすでに出発していた。



「だから、俺がいいっていってんだからやれよ!金もあるんだ、何が文句あんだよ!?」

徹の怒鳴り声に続いて、ホワイトボードをバンッと激しく叩く音が響いたミーティングルーム。

「でも、社長、それだとウチの会社にもリスクが…!」

企画会議を行っている真っ最中、 徹の決定に部下の山下が異論を唱えて対立が起きていた。いつもは強く意見を通そうとしない彼が珍しく折れないから、徹もヒートアップしている。

「山下君、この件だけど、徹が調べたらさ…」

仕方ないから、俺が助け舟を出す。
コイツが独自に調べていた資料を取り出して広げた。
口論の行方を固唾を飲んで見守っていた他の社員達もそれを覗き込む。
そこに載っている情報を見て、皆、感嘆の声を上げた。

「このデータがあるから、大丈夫なんだよ」

「確かにこれだけの展望があれば、さらに収益も上がりそうですね!」

山下も納得をした様だった。
当の本人はここまでの資料を出さなくても、企画を通す事は出来ると思ってたみたいだったけど、やっぱり上手くいかない時もある。
俺はどっちかと言えば心配性だから、準備は怠らないけど。
ったく、それにしてもコイツは…
賢いし論理的な筈なのに、口下手で感情で左右される部分があるから、たまにこうした衝突が起こる。

「社長、早速、先方に連絡してもいいですか?」

「おう!お前の営業なら間違いなく大丈夫だろ!頼んだぞ!」

トップの言葉に直ぐに彼は電話をかけに部屋を出て行く。
徹は言葉遣いはキツくてぶっきらぼうだけど、こうやって部下の能力を認めて信頼して仕事を任せるから、信頼も厚い。


「あ、社長…」

「重いな。俺が持つわ。何処の荷物だ?」

こんな風に女子社員が宅配便で受け取った大きな荷物を運んでいるのを見つければ、代わりに運んだりとかそういう些細な事気遣いも見せる。

「ありがとうございます!」

そのお礼にフッと口角だけ上げて去って行く徹。
末端の部下の事もよく見ていてさりげない優しさを見せる。

だからこそ、不思議なんだ。


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