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▼ remembrance

一人になったところで改めて部屋を見渡す。

凄い場所に住んでるな…

自分が住んでいたワンルームマンションとは違いすぎて、本当にかつて同じ大学で共に学んだ仲間だったのかさえ疑いたくなってしまう。

様々な事があまりに変わり過ぎてしまった。



「環!徹!一緒にご飯食べて帰ろ!!」

「うん!」

「おー」

三人で自習室から学食へと向かう。

思い出す、懐かしい光景。

二人とは大学のゼミで同じプレゼングループだった。
高い能力を秘めているのにサボりがちな徹と、皆が認める能力の高さに加えて更に頑張りすぎてしまう環。
正反対な二人と共同で作業するのは楽しかったし、段々仲が深まるにつれてプライベートでも一緒にいる時間が多くなっていった。
私はあまり男友達が多くはなかったけれど、この二人は同性の親友と比べても遜色が無い位に親しかった。

いつも三人で楽しく笑ってた遠いあの日。

懐かしさと寂しさが入り混じる複雑な気持ちが心の中に広がりゆく中、自身の荷物を解き始めた。
あの頃を思い出しながら、クローゼットに持ってきた服を 片付けていく。


永遠に変わらないものなんてあるはずも無くて。

ずっと続くと思っていた私達の友人関係にも転機が訪れる。

あれは卒業式の後だった。
呼び出されて人気のない教室に行けば、彼等が待っていた。環はグレーのスーツに黒のネクタイ、徹はネイビーに赤いネクタイを身に付けている。

「どうしたの?こんな所に呼び出して…」

壁にもたれたままの二人が神妙な顔で私を見つめる。
明らかにいつもと様子が違い、重々しい空気が流れていて戸惑いを隠せない。
そのまま、三人とも無言で対峙をする。

「…お前の事がずっと好きだった」

しばらく続いた沈黙を破ったのは、徹からの突然の告白だった。

「何?こんなところに呼び出してまで私の事をからかいたいの?」

何かの冗談だとしか思えなかった。
これまでも時折、徹はそうやって私をからかって遊んでいたから。最初は真に受けて戸惑ったけれど、慣れてしまった今は軽く受け流していた。
だから、いきなりそんな事を言われても今更信じられる訳はない。

「違ぇよ。今日は本気だ」
 
けれども、予想に反して私の反応に語気を強める。
 
「俺もしのぶの事が好きだった」

一方の環からもいつもの微笑みが消えていた。

「二人とも本気で言ってるの…?」

「当たり前だろ。んなの」

頭をがしがしと掻きながら私から視線を反らす徹。
 
「ずっと言いたくて…でも俺達の今の関係が崩れるのが怖くて言えなかったんだ」

その隣で環は、悲しそうに眉を下げていた。

「「俺達のどちらかを選んでほしい」」

彼等の強すぎる視線に私は磔にされているかの様な錯覚に陥る。更に二人の真剣な声にその覚悟と想いの強さを嫌でも自覚させられてしまう。

「…環の事も徹の事もそんな風に考えた事なかった」

「じゃあ、今からでいいから考えて?」

「お前、今、男いないんだよな?だったら、俺達なら彼氏にしても申し分ねぇだろ?」
  
突然の事に頭の整理がつくはずもなく、率直に自分の気持ちを述べればここぞとばかりに押しを強めてくる二人。

「そんなに難しく考えんな。彼氏になったからって今と何も変わんねぇよ」

普段と違い、優しく誘う様な笑みを浮かべる徹。

「次までの繋ぎでも構わないから、付き合ってくれないかなぁ?」

一方で、顔の前で両手を合わせて笑顔で頼み事をする環。

この二人がここまで言うなんて思わなかった。
学内でも美形と有名で、自身で特に行動を起こさなくても女の子に困らない彼等がこんな風に必死に頼み込んでくるとは正直かなり驚いた。

けれども…私の気持ちは初めから決まっていた。
それは何を言われても揺るがない。

「…ごめんなさい。環も徹も大切だけど…友達としてしか見れない」

だからこそ、誠心誠意に頭を下げた。
どちらとも付き合えないと。
彼等の想いが真剣だと分かれば分かる程にきちんと断らなければならないと決意は固まった。私は二人のそんな真摯な気持ちに応えられないから。
そして、有能で美しいこの2人に釣り合う価値もない女だから。
大切な友人を一気に二人も失うのは辛い事だったけれど、それでも私は応じるつもりはなかった。
 
しばらくして顔を上げれば、二人とも大きく目を見開いてショックを受けて固まっていた。
気性の激しいあの徹が激昂することもなく俯き無言のまま立ち去り、環も哀しそうに微笑んで"またね"と一言を残して踵を返した。


それ以来、二度と会う事がなかった。

連絡を取らなかった理由は社会人になってからは新しい環境に慣れる事や目の前の仕事に必死だった事もあるし、何よりもあんな風に終わってしまった友情を蒸し返すつもりもなかったからだ。 
あれから何年も経った今は思い出の一つとして、まるでショーウインドウに飾られたディスプレイをガラス越しに眺めるみたいに時折懐かしむ様になっていた。

ところが、つい数ヶ月前、携帯の着信音と共にディスプレイに表示された名前を見て驚いた。

あの日以来、初めて環から連絡が来たのだ。


「…もしもし?」

「しのぶ、久しぶり。元気にしてる?」

驚きながらも電話に出れば、受話器から聞こえる優しいテノールの声は学生の頃と同じだった。

あの時は、この電話が私の世界を大きく変える事になるなんて思いもしなかった。



2015.10.15
天野屋 遥か


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