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▼ 02

「映画、楽しかったね」

「すごく面白かった!みかげちゃん、この後どーする?ちょっとお茶でも飲む?」

とある休日、私達は映画を観に来ていた。
話題の映画は評判通りで、二人とも興奮冷めやらない。

「いいね!私、甘い物食べたいな」

「うん、行こう!」

真琴君の提案で、近くのオシャレなカフェに入る。

店内は混雑しており、真琴君と話をしていると他の何人かの女性客が彼に見惚れているのが目に入る。
今日の彼は、白のシャツにグレーのジャケットを纏い、黒のパンツを履いている。アクセサリーもシルバーの上品なネックレスと、さりげなく高価な腕時計を身に付けていた。
綺麗な顔立ちでその身なりも洗練されており、目立つ存在だから当然だと思うけど…

「どうかした?大丈夫?」

黙り込んでしまった私の顔を、心配そうに幼馴染みが覗き込んでくる。

「真琴君、私なんかと出掛けていいの?本当に今彼女いないの?」

平凡な私なんかじゃ釣り合わないと、不安をついに口にしてしまった。

「本当にいないから。仕事ばっかだし…それに、俺からしたらみかげちゃんだって…あっ、ごめん会社から電話だ」

途中で席を立ち、店を出て電話を始める彼。
彼と会っている最中によくある事で、本当に忙しい人なんだと思う。
応対している最中の表情は私と話をしている時とは全く違い、鋭く、真剣そのものだった。時折、強い口調で何か指示をしている様な時もあり、やっぱり、彼は本当に組織のトップなんだと思う。

実のところ、再会した幼馴染みがカッコよくて、しかも会社の社長なんて、あまりに話が出来過ぎていて、騙されているのではないかと思っていた。
けれども、何度もこの様子を見ている内にそれは私の杞憂だったと感じた。

ここ1年程彼氏もいなくて、枯れた生活をしていた私はもしかしたら、このまま付き合うことになるかもしれないと甘い予感に胸が膨らんでいた。


「じゃあ、そろそろ帰ろうか。送るよ」

「いつもごめんね。ありがとう」

その後、二人で買い物をして夕食も済ませて、駐車場へと二人で向かう。私の手には真琴君がプレゼントしてくれたアクセサリーの袋が携えられている。
楽しくて、幸せな時間を過ごす事が出来て満足感で一杯だった。

「おい、お前寺岡真琴だよな」

ところが、彼の車に辿り着いた所で不意に後ろから声をかけられた。

振り返れば、いかにもガラの悪い若い男性が二人立っていた。派手な柄シャツをだらしなくボタンを開けて着ている人と、ジャージを着崩して、太い金のチェーンのネックレスを見せている人。明らかに、普通の職業ではないと一目でわかる。

「何…この人たち…?真琴君、知り合いなの?」

ただならぬ雰囲気に足がすくむ。

「さぁ?知らないよ。気にしないで行こう?」

ところが、当の本人は彼らを一瞥すると、何事もなかったかの様に車の鍵を開ける。

「おい!てめぇ!逃げんのか!?」

「若頭だか何だか知らねえけど、みっともねぇな!」

それを遮る様な彼等の怒号に、真琴君がピタリと動きを止めた。

「若頭…?それって…」

「なんだお姉さんソイツの事知らないの!?その男は…」

突然のこの状況に頭が追い付かなくて戸惑っていると、たまにニュースでも聞く様な有名な組織の幹部だと聞かされた。

「本当なの…?」

彼を見つめて問いかける。

「私の事、ずっと騙してたの…?」

けれども、彼は無言のまま、ただ残念そうに微笑むだけ。

答えは明白だった。

「酷いよ…!」

震える唇から、怒りに任せて言葉を発する。
まだ詐欺師だと言われた方がマシだった。

「ごめん…でも、俺の本当の職業を知ったら君は…」

「ヤクザだったなんて…!そんな怖くて最低な人だと思わなかった!もう二度と会わないから!」

その弁解を無視して、込み上げる感情のままに、彼を睨み付けて詰る。

「これもいらない!」

先程買ってくれたアクセサリーの袋を突き返す。汚れたお金で買われたものを身に付ける気になんてなれなかった。

「みかげ…!」

真琴君の呼ぶ声を無視して、そのまま私はその場から走り去った。

ショックだった。
あんな素敵な笑顔の優しい彼が暴力の世界で生きている人間だったという事が。
そして、自分の恋愛感情が呆気なく砕け散った事が。

二度と関わりたくないと思った。

振り返る事なく、ひたすら走る。
駅に向かう道の途中、私は一人で涙を流した。



2015.6.2
天野屋 遥か




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