Sweet?(前編)@
この時間がずっと続くと思ってた。
まだ慣れない私に、優しくしてくれた貴方はかけがえのない人だったの。
「なまえさん、今、手空いてる?」
皆がせわしなく働いている、ある会社のオフィス。
配属されているチームのおあいてリーダーから声をかけられる。
「はい!」
「ちょっと、新しい仕事を覚えてもらいたいんだけどいいかな?」
「お願いします!」
「ちょっと!なまえさんに、あの仕事を教えてあげてほしい。彼女なら多分すぐに出来る様になるから」
「わかりました。なまえさん、じゃあ、こっちへ来てくれる?」
先輩に指示を送るとリーダーはそのまま会議へと向かい、先輩が書類を用意し始めた。
この職場にきて4ヵ月が過ぎて、やっと馴染めてきたところ。
チームもいい人ばかりで、慣れない私にも丁寧に仕事を教えてくれる。
「こんな感じで進めていけばいいですか?」
「うん!なまえさん、要領掴むの早いから助かるわ」
先輩の言葉に、やる気が湧いて来る。
転職したばかりで、分からない事も多いけど色んな事に挑戦しようと思ってるから、こうして新しい仕事を教えてもらえるとすごく励みになる。
「なまえさん、この書類だけど…」
リーダーが私のデスクへやって来た。
「どうして、こういう風にしたの?」
昨日、私が決裁へ出した書類をデスクに広げる。
ミスをしてしまったらしく、ペンでチェックされた箇所を指で差される。
「この方が表が見やすいと思って…あと、いつものやり方よりもこの方が効率いいと感じたので…」
自分なりに考えてやった事だったので、素直にそれを伝える。
リーダーはそれを遮る事なく、顎に手を当てて真剣に私の意見を聞いていた。
「なるほど…でも、今回の場合はこの方法だとできないんだ。決裁通ったあとに、また別の部署との連携もあるから…」
「そうですか…すいません」
「でも、別のケースの時はこのやり方が合うと思う。今度から、事前に相談してくれると助かるな」
「ありがとうございます!」
自分の意見が採用された事が嬉しくて、つい大きい声が出てしまう。
「なまえさん、よかったね」
一部始終を見ていた先輩が、リーダーが戻った後にこっそりと声をかけてくる。
「はい!」
「ほんと、来たばかりなのにうちの部署にもすっかり馴染んでてすごいわよ」
それはこのチームの中心であるリーダーのおあいてさんのおかげだった。
私をよく見ていてくれて、こうしてアドバイスや仕事を覚える機会を与えてくれていたから。
「「「お疲れ様でした〜!!」」」
今日は、仕事終わりでチームの皆で飲み会。
リーダーの呼びかけでこうして毎週金曜は飲み会が行われる。
「なまえさん、おあいてリーダーとほんと仲良いいよね」
お酒が進んで盛り上がってきたころに、先輩が突然そんな事を言い始める。
「それ、俺も思ってました!もしかして…」
おまけに、他の先輩まで会話に入ってくる。
「違いますよ!」
いきなりの攻撃に慌てて否定をする。
「だっておあいてリーダー、結婚されてるでしょ?奥さんが羨ましいとは思いますけど…」
そう、それは事実。
仕事の上でもリーダーシップを発揮しているおあいてさんは、このグループ皆からも慕われている。
こうして、彼が主催する飲み会もほぼ欠席者がいないのがいい例だ。
眼鏡越しの真剣な眼差し。
整った顔立ちに、経験に裏打ちされた年相応の深みも加わった雰囲気。
惹かれないはずがなくて。
好意を抱くのに時間はかからなかった。
「なまえさん、勘違いしてるよおあいてリーダーって独身だよ!」
「え!?そうなんですか!?」
「俺もびっくりでしたよ。それ知った時!」
「それに、なまえさん来てからちょっと変わったよね」
「ですよね」
私が来る前の話は分からないから、そのまま先輩達の話を聞きながら唐揚げを口へと運ぶ。
「うん。前から仕事の上では面倒見はよかったけど、飲み会とかを積極的にしたりとかするタイプじゃなかったからさ」
意外…
そうだったんだ。
てっきり皆とこうして騒ぐのが、もともと好きな人なんだと思ってた。
「なんだ、お前たち俺の悪口か〜!?」
すると、生ビールのジョッキを持って、私達のグループへ噂の本人が乱入してくる。
「俺が厳しすぎるリーダーだって!?」
「誰もそんな事言ってませんよ!」
「綺麗で胸のデカい若い女の子だったら、優しく指導してやるぞ!」
そのクールな風貌からは想像もつかないオジサン発言を始めるリーダー。
「も〜!リーダーったら何言ってるんですか!」
「だってそうだろ?」
すかさず、ツッコミを入れると楽しそうに笑うおあいてさん。
私なんかが相手にされる訳はないから、仕事は頑張って少しでも誉めてもらえる様に、少しでも視界に入るようにと頑張っていた。
そんな中、こうして冗談を言ったりすることが出来る仲へとなった。
ねぇ、もしさっきの先輩の話が本当なら、もしかして私にもチャンスはあるの…?
なんて、嬉しい期待に胸が躍り始めた。
「なまえさん、ちょっと!」
それから暫くして、おあいてさんのさらに上司である広田課長に呼ばれる。
この人はいつも言葉がキツくて怖い。
入って日の浅い私は関わることはほとんどないけれど、役職者を呼びつけてみんなの前で怒鳴ったりとか、とにかく評判が良くない。
「えっ…異動ですか?」
「そうよ!来月から配置換えになるから!」
「…そうですか」
突然の通達に驚いて言葉が出ない。
課長の正面で呆然としてしまう。
「何?不満なの?」
席に座ったままの課長が私をギロリと睨み上げてくる。
「いえ…ただ突然過ぎて驚いてしまって…」
「これは決定事項なの!人事に文句はつけさせないわよ!」
冷たい言葉を浴びせられて、そのままデスクへと帰されてしまった。
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