「ヒョン、彼女でもできたんですか?」
最近よく目にする、控えめに光る銀色のそれ。
隣でノートパソコンを操作していた兄の右手を凝視しながら問いかければ、彼は訝しげな視線を僕に投げて寄こした。
「そんな暇ねぇって、おまえが一番よく知ってんだろ」
ぶっきらぼうなその声に、確かに、と頷く。
只でさえ睡眠時間を削られているというのに、この兄は一体いつ寝ているのだろうかと皆が心配する程よく働いている。
ワーカホリック予備軍、否、既にそうかも知れない。
「そう…ですよね。彼女なんて作ってる暇ないか」
「つーかおまえさ、…やっぱいいわ」
相変わらず怪訝な表情で、しかもどこか不機嫌そうなユンギ兄は、一度何かを言いかけて止めてしまった。
何となく彼が言わんとしたことは解かっているから、僕は敢えて続きを促さないでいた。
そうして訪れた、無言。
ユンギ兄はやっぱりパソコンと睨めっこを続けていて、僕はやっぱりそんな兄の指に嵌められている銀色のそれを眺めていた。
真っ白で、華奢で、けれど決して女性のそれではない、ユンギ兄の手。
どことなく子どもっぽさの残る僕とは違う、大人の男性の手。
たった4つ違うだけで、こんなにも違うものだろうか。
それくらいユンギ兄の手と僕の手には差があって、なのにきっと僕の方が手も大きいし指も太いのだろう。
ふと、自分の右手に視線を落とす。
少し前に購入したシルバーリングが、僕の薬指を飾っていた。
それをゆっくりと引き抜いて、隣のユンギ兄の細長い指と見比べる。
兄さんの手なら中指でも入りそうだな、なんて考えながら、止まったり忙しなく動いたりしている綺麗な手を持ち上げた。
「、なんだよ」
兄の右手薬指で鈍く光っていた指輪を、ゆっくりと引っこ抜く。
それをころんと手のひらに転がして、ぎゅうと握りしめた。
何の飾りも無くなった、貧相なユンギ兄の手。
外した指輪の代わりにと、ついさっきまで僕が付けていたものを彼の薬指に嵌めてみた。
「…やっぱ、ちょっと大きいですね」
サイズ、直さなきゃ。
まるで独り言のように呟いた僕を、ユンギ兄がいつもと何ら変わりない表情で見つめてくる。
僕はそんな彼に小さく笑った。
「婚約指輪です」
「…安っぽいな」
「お似合いでしょう?」
「くそガキ」
ふふ、とまた笑って、握りしめていた元ユンギ兄の指輪を右手薬指に付けてみた。
やっぱり少し、小さい。
「ユンギ兄、これください」
「小さいだろ」
「僕の手は男らしい手ですからね」
「言ってろ」
僕の右手薬指の、第二関節の少し下。
さっきまでユンギ兄のだった指輪が、きらりと存在を主張する。
ユンギ兄はそれを見て満足している僕に呆れた様な溜息を吐いていたけれど、ふ、と小さく笑って、同じ場所に付けられた大きめのそれを眺めていた。
いつか、きっと
指輪お題第一弾のグクシュガちゃんでした。
グクシュガってどうしてあんなに可愛いのに甘くならないんでしょう…。