※グクが記憶喪失
コンクリートの上を滑る音と、エンジンの音、それから時々すれ違う車の音。
誰も一言も発さない車内は、酷く息苦しい。
すぅ、と大きく息を吸って、心を落ち着かせようと体内に酸素を取り込む。
ちらりと視線を移し、おれの反対側に座っている兄を見た。
車に乗ってからずっと窓の外を眺めていたユンギヒョンを見ていると、兄越しに見えた景色で、車が病院の敷地内に侵入したことが分かった。
しばらくして、車が静かに停車する。
最初にドアを開けたのは、ナムジュニヒョンだった。
それから次々と降りて行く中、おれはもう一度、未だ窓の外を凝視しているユンギヒョンを見た。
「ひょん、行こう」
おれの声が聞こえたのか聞こえなかったのか、ユンギヒョンはそれには答えずにゆっくりと車を降りた。
その後ろに続き、おれも外へ出る。
他の兄たちは、既に病院内に入ろうとしているところだった。
「ジョングガ、」
彼に一番初めに声を掛けたのは、やっぱりナムジュニヒョンだった。
兄の声は少し離れた場所に立っているおれでも分かるくらいに震えていて、よくよく見ると、その男らしい肩も幾分か震えていた。
苦虫を噛み潰した様な表情をしているであろう兄に名を呼ばれた彼は、おれたちの突然の訪問に困惑していたけれど、すぐに他人行儀な笑顔を見せた。
「こんにちは。…あ、もう“今晩は”の時間ですよね」
えへへ、ときまり悪そうに笑う彼に、…ジョングクに、おれはこれでもかという程顔を顰めた。
嗚呼、彼の胸倉を掴んで罵声の一つでも浴びせてやりたい。
そんな理不尽な怒りにも似た哀しみを噛み殺しながら、彼と、他の兄さんたちやジミンとの会話をぼんやりと聞いていた。
「俺、帰るわ」
突然そう言って彼から背を向けたのは、おれより少し手前で立ち竦んでいたユンギ兄だった。
え?とみんなが困惑している中、兄さんはくるりと踵を返して個室と廊下を繋ぐドアまで歩く。
それはほんの数歩という距離で、扉を潜ったユンギ兄はとっとと歩いて行ってしまった。
衝動的に彼の後を追おうとしたおれの手を、誰かがぐっと掴む。
振り向くと、苦しそうな表情をしたホソク兄だった。
「なんですか、」
「だめだよ、テヒョナ」
行っちゃだめだ。
震えた泣きそうな声で、今にも泣き出しそうな顔で、この兄は残酷なことを言う。
追わせてよ。
今追わなければ、誰が彼を抱きしめるというの。
言葉にしようと口を開きかけて、ふと、彼と目が合った。
それはまるで被害者の顔で、腸が煮えくり返りそうな思いになる。
何故?
何故お前は、こんなことをしたの?
そう問うても、目の前の彼は訳も分からず首を傾げるのだろう。
嗚呼、本当に、腹が立つ。
たとえば僕が許せないのは、
(無力で身勝手な僕だった)
グクが記憶を失くしたのは、自らが望んで手放したのだと思っているテテ。