※長男と次男が喫煙者
まだ香水の方がマシだと思う。
あまり好きじゃない、否、大嫌いな匂いを漂わせながら横を通り過ぎて行った兄を、僕はくるりと振り返った。
「兄さん、煙草臭い」
背の低い彼を若干見下ろす形でそう口にすると、頭だけをこちらに向けた兄さんが、あ?と素っ頓狂な声を出した。
あ?じゃないだろうと思いつつ、もう一度繰り返す。
「煙草臭いです」
「…吸ってねぇけど」
少し眉間に皺を寄せた兄さんに僕も負けじとしかめっ面を見せてやれば、兄さんは完全に僕の方に向き直しながら、あー、とこれまた腑抜けた声で続けた。
「さっきまで喫煙所に居たからな」
「やっぱり吸ってたんだ」
「吸ってねぇっつの」
「じゃあどうしてそんな所に居たんですか」
わざと問い詰める様な口ぶりで、一歩兄に近づく。
するとユンギ兄さんは、何故だか僕から目を逸らせながらそれに答えた。
「…ソクジン、の、付き合い」
「、副流煙の方が体に悪いんですよ」
「だからお前らの前では吸わねぇじゃん」
「兄さん自身のことを言ってるんですけど」
「はぁ?」
色々と足りない僕の台詞に、ユンギ兄さんはこてんと首を傾げる。
どういうことだ?という顔をしている彼をじっと見つめたまま黙っていたら、ようやく理解したらしい彼が、嗚呼、と小さく笑った。
「そもそも俺だって毎日吸ってんだ。副流煙もくそもねぇよ」
「じゃあ禁煙してください」
「やだ」
「子どもか」
「何がだよクソガキ」
投げては返される言葉に、むすっと頬を膨らませる。
そうすれば兄さんはまた忍び笑いをして、徐に自分の服の裾を摘まんで鼻に近づけた。
「あー、タバコくせ」
「本当、まじで臭いです。近寄って欲しくないくらい」
「お前から俺に寄ってきたんだろ」
「禁煙してください」
「やだ」
「じゃあいい匂いの煙草に変えてください」
「そしたら吸っていいんだ?」
「ダメです」
「どっちだよ」
ふは、とついに噴き出した兄さんに、僕は相変わらずむくれたまま。
そんな僕の膨れた頬を両手でぷすりと潰して、やっぱり煙草の匂いをさせながらくるりと背を向けた。
「お前はタバコなんて吸うなよ」
「どうしてですか」
「“体に悪いから”」
ジョングガも早く戻れよ、なんて言いながら控室に向かって歩いて行くユンギ兄さん。
その小さな背中に向かって、僕は思いっきり舌を出してやった。
やっぱり僕は、兄さんの言う通りクソガキだ。
「ミンユンギ!これからあんたが煙草吸う時は、絶対僕が付いて行きますからね!」
叫ばずとも充分聞こえる距離だったけれど、わざとそう叫んでやる。
兄さんはまた頭だけをこちらに向けて、思いっきり。それはもう、気持ちがいい程鬱陶しそうな顔で、親指を下に向けて見せた。
はやく、はやく。
(大人になりたい。兄さんに釣り合うような、オトナに。)
煙草も嫌いだけど必ずと言っていい程ソクジンさんと一緒に吸いに行くユンギちゃんの方がもっと嫌いな末っ子くんと、そんな末っ子の気持ちに薄々気付いてるけど知らないフリをしているズルい大人なユンギお兄ちゃん。