真っ暗闇の中。
ベッドの上で体を小さくして震えているイーシンを、俺は只じっと見つめていた。

これで何度目なのかはわからない。
イーシンはいつも、宵深く街の灯りも寝静まった頃、声も上げずにひっそりと泣いていた。

俺はただそれを暗闇から眺めているだけで、実際彼が涙を流している姿を見たわけじゃない。
それでも何となく、否、確信めいたものがあった。

無意識に伸ばしていた右手を布団の中に閉じ込める。
彼の背中はあんなにも小さかっただろうか。
まるで子どものような、それでいて酷く大人びた悲しい背中。

温かい布団に包まれていると言うのに、惨い程に冷え切っている掌をぎゅうと握りしめた。



「イーファン、」


仕事帰りの車中、隣に腰かけているイーファンに声を掛けた。
彼は活字に落としていた視線をほんの少しだけ俺に移し、すぐにまた元に戻した。

俺はフロントガラスを見つめ、いつものようにふざけた笑顔で笑って見せる。


「わんわん泣き声を上げて自分に抱きつく弟と、涙を殺していつも静かに笑っている恋人。二人が苦しんでいたら、どっちに手を伸ばす?」


そう問うたと同時、イーファンの視線が突き刺さる。
フロントミラーに映る双眼と目が合って、そのあまりに醜い顔を嘲笑った。


「お前なら、前者を選ぶ。確実にね」


ぱたん、と本が閉じられる音がした。
宿舎の前で停まった車の後部ドアを開けながら、まだ中に居る彼に向けて囁いた。