「ベクは、俺のこと好き?」
夜、寝る前のやけに静かな時間だとか、俺がちょっとだけ冷たく当たった時だとか。
ふとした時間に問われる、言葉。
もう何度目かのそれに、俺はただ苦く笑うだけ。
「なぁ、ベク、」
いつもの自信はどこへやったんだよ。
思わずそう言いたくなるくらい情けない顔をしたチャニョルは、柄にもなく少し泣きそうで。
「俺は、ベクのこと大好きだよ。愛してる」
なのに何で、ベクは言ってくれないの?
そんなに難しいことなの?それとも俺が、きらい?
立て続けにそう捲し立てるチャニョルの目が、ゆらゆらと不安げに揺れる。
「何ばかなこと言ってんの、」
そう言って笑ってみても、やっぱり晴れることのない曇り。
なぁ、チャニョル。
それってさ、絶対に言わなきゃいけないことなの?
お前はいつも、ありのままの感情を伝えてくる。
だから、それを受け取ってばかりの俺に不安になるのだろうけれど。
好き、とか、愛してる、って言葉は、絶対に言わなきゃいけないものじゃないと思うんだ。
俺はお前しか見ていないし、ちゃんと愛していのだるから。
「ベッキョナが、そういうの苦手だってわかってるよ。ちゃんとわかってる。だけどさ、」
「…俺が言えないと思う?」
ぽつり、ぽつり、呟くように話すチャニョルの言葉を遮る。
真っ直ぐ彼を見つめたままそう言えば、チャニョルは一瞬驚いたように瞬きをして、すぐに少しだけ表情を歪めた。
「俺が、知らないと思う?」
感情を伝える言葉くらい俺だって知っているし、いつだって言えるんだよ。
だけどそれは、口先だけの言葉だろ?
上辺だけの言葉で、お前は満足するの?
繰り返せば繰り返すたび、意味や価値を失っていく言葉で?
「…じゃあ、どうして言ってくれないの?時々でもいいから、言ってよ」
でないと、俺、不安なんだよ。
耳を欹てていなければ聴き落としそうな程小さな声で、ぽつり、呟くチャニョル。
ついに項垂れてしまった愛しいこうべを、背伸びして胸に抱き寄せて。
小さく溜息を吐きながら、また苦く笑った。
「好き、大好き、愛してる。…これでチャニョルは満足するの?」
「、……」
「言葉ばっかに囚われてるお前は、ばかだよ」
ぎゅう、と俺の服を掴む手に力が入る。
いつも自信たっぷりで、底抜けに明るくて、変に真面目で。
ほんとにお前は、ばかだよ、チャニョル。
「チャニョラ、俺を見て」
黙って俺の目を見てみてよ。
俺の目は、何を映してる?
「チャニョルしか、見てないよ」
わかりにくいかもしれないけれど、ちゃんとお前のこと見てるんだよ。
「…ベク、」
今にも泣き出しそうな顔で俺を呼ぶチャニョルをぎゅうと抱きしめる。
ごめんね、チャニョル。
不安にさせて、ごめん。
俺は本当、素直じゃないけれど。
きっとずっと、傍に居て離れないから。
だからひとつだけ、約束させて。
「ずっと、おまえだけだよ」
ごめんね、愛してる。