「ソンギュ〜」


ぼーっとしていたら、後ろからがばりとウヒョンが抱きついてた。
不意打ちに慌ててスマホの画面をトップに戻したのだけれど、ウヒョンはそれをばっちり見ていたらしい。


「ツイッター見てたの?俺のツイート?」

「ちげぇよ」


悔しいことに、図星。
だけどそんなの素直に言えるはずもなくて、相変わらず俺の首に纏わりついているウヒョンを引っぺがす。

ぽい、と手にしていたスマホをソファに放り投げると、ウヒョンがそれを拾い上げ、ぽつりと呟いた。


「俺たち夫婦も3年目かぁ〜」

「誰が夫婦だ」


この間俺が雑誌のインタビューを受けた時に「僕たちは夫婦ですから」と答えたことが相当気に入ったらしいウヒョンは、ここ最近ずっと事あるごとにそれをネタにしてくる。

もうその話はいいよ、と呆れつつ、夫婦という単語にちょっとした面映ゆしさを覚えるのも事実で。

なんて、悔しいし馬鹿みたいだから絶対言ってやらないけど。


「3年間、色々あったよね」

「俺はお前のことが大嫌いだったよ」

「うわ、またそういうこと言う〜」


でも今は大好きなんでしょ?とかふざけたことを飄々と言ってのけるものだから、ふんっ、と鼻で笑ってやった。

まあ、そんな些細な抵抗なんてこいつが気にするはずもないのだけれど。


「そういえばさ、ソンギュっていつから俺のこと好きなの?」

「好きって前提かよ」

「だってそうじゃん」


にやにや、にやにや。
むかつく程ニヤけた顔。

そんな表情でずっとこちらを見てくるものだから、ウヒョンの柔らかいほっぺたを引っ張ってやった。


「お前なんか好きじゃない」

「ソンギュのうそつき〜」


みよ〜ん、と頬を伸ばされながら、それでも笑うウヒョン。

なんで俺、こんな奴のことを好きになったのだろう。
最近時々思う。


「で、いつからなの?」

「なにが」

「俺を好きになったの」


頬をつねっていた俺の手を外しながら問うてくるけれど、正直そんなこと覚えていない。

確かに俺はウヒョンのことが苦手で、大嫌いだった。
それなのにいつの間にか絆されていた…というか、何だかんだ支えてくれるのはいつもウヒョンで、そのくせ妙に繊細で傷つきやすい彼に自然と惹かれていた。

だからはっきりとした時期なんて覚えていない。
だけど、これだけははっきり言える。


「…何だかんだお前のこと好きだし、一番頼りにしてるよ」

「えっ、その“何だかんだ”ってなに!」


ソンギュ酷い!嬉しいけど!と複雑そうな表情のウヒョンが可笑しくて、ついくすくすと笑ってしまう。

流れで“好き”だなんて言ってしまったことを聞き流してくれたからよかった、と思ったのもつかの間、またウヒョンの表情がにたりと歪んだ。


「でもやっぱり好きなんでしょ?俺ばっちり聴いてたからね」

「……」


本当にこいつは…。
返事のしようがなくて、思わず少し熱い顔をウヒョンから逸らす。

するとウヒョンが腹立つ顔で覗き込んで来たから、ぺちん、とその頭を叩いてやった。


「いたっ。ソンギュの鬼嫁〜!」

「黙れこのすかぽんたんっ」

「え、何それ爺クサイ」

「シバくぞ」

「いってええええ!!」


失礼極まりない台詞を吐くウヒョンの足を、だんっ、と思い切り足先を踏みつけてやった。
ざまあみろ。

でもウヒョンときたら、ジタバタと痛みに悶えているくせに、やっぱりどこか楽し気で。


「お前ドMなの?」

「ソンギュにだけね」

「……」


うわ、引いた。
どん引きだわ、と目だけで返すと、それでもけたけた笑う。

呆れて物も言えずに黙っていると、ウヒョンがにこにことしながら口を開いた。


「やっぱ俺の目は間違ってなかったね〜」

「あ?」

「多分だけど、…いや、結構自信あるんだけどさ。ソンギュの方が先だと思うよ、」


俺のこと好きになったの。

そう言ったウヒョンに、ぽかんと面食らう。
少し間を空けて、はぁ?と声を漏らした俺に、ウヒョンはまたくすくすと笑った。


「俺がソンギュのこと可愛いなぁと思うようになったのって、ソンギュから熱し線が来るようになってからなんだよね」

「…は?」


え、何だそれ。
熱し線ってなんだよ、おい。


「ソンギュ馬鹿だから気付いてなかっただろうけど、俺のことすっげー見てたんだよ」


あまりの衝撃に言葉が出ない。
もしこいつの言うことが本当だとしたら、俺は当時からウヒョンを目で追っていたということか。
そしてそれを本人に気付かれていた。

考えれば考える程羞恥が込み上げてきて、ちょっとしたパニックだ。


「あはっ。ソンギュ、口パクパクしてる」


魚みたい〜、なんて呑気なことを言って人を馬鹿にしているウヒョン。
練習生時代から日々こんな奴に小馬鹿にされ、挙句心を見透かされていたなんて…。

あまりの衝撃に半分魂が抜けたみたいになっていると、ちゅ、と口唇に何か温かいものが触れた。


「?!」

「3年目って何かと節目っていうし、気を付けようね、ソンギュ」


ま、俺たちは大丈夫だと思うけど。

なんて、それはグループのことなのか、はたまた俺たち2人のことなのか。
馬鹿な俺にはさっぱり訳がわからなかったけれど、取りあえず、


「おまえむかつくっ!!」


人を弄ぶのもいい加減にして欲しいと切に願いながら、けたけた笑い声を上げるウヒョンの首を締め上げてやった。




終わらない恋になれ