「うひょなぁ〜」


ソファに腰かけてテレビを見ていると、白くてむちむちした腕がにゅっと目の前に伸びてきた。
かと思えば、ずしりと背中に温かい重みを感じて、自然と笑みが漏れる。

どうしたの?と問うと、案の定「甘えさせろ」という答えが帰って来て、リモコンを握っていたのとは反対の手を伸ばしてソンギュの頭を撫でてやった。


「今日は甘えたさんの日?」

「うるせ」


自分で甘えさせてと言ったくせに、甘えん坊だと言えば頬を膨らませる。

本当、困ったリーダーだ。


「ソンギュったら、甘えんぼリーダ〜」

「リーダーじゃない」

「あ、そっち否定するんだ」


あはは、と笑い声を立てれば、またずしりと重くなる背中。

思わずぐえっと変な声を上げた俺を、ソンギュが可笑しそうに笑った。


「うひょん〜」

「なぁに〜」

「うひょなぁ〜」

「な〜に〜」


ぐらぐら、ぐらぐら。
体を船のように揺さぶられながら、ソンギュの温かい両腕を握る。

もちっとしたその掴み心地が最高に気持ち良くてぷにぷにしていると、俺の背中に顔を埋めていたソンギュがぼそぼそと何かを呟いた。

でも上手く聞き取れなくて。
彼の口元に耳を傾けようと首を捻ると、掴んでいた腕が離れ、俺にしがみ付くようにぎゅうと体に巻き付けられた。


「どしたの、ソンギュ。何かあった?」

「…」

「ソンギュ?」


問うてみても、返事がない。

一体どうしたのだと困っていると、ソンギュがより一層体重を掛けて圧し掛かってきた。


「わ、ちょっとソンギュ、」

「…甘えろよ」

「え?何?」

「お前も、甘えろよ」

「え、…?」


驚いた、と同時に、ソンギュを支えていた体から一気に力が抜けてしまって。

俺がソンギュの重みに潰れた所為で、いつの間にかずるずると俺の上の方にまで覆いかぶさって来ていたソンギュが、どすん、と派手な音を立てて床の上に落下した。


「いってえええええ!」

「うわっ、うわ、ごめ、ソンギュ大丈夫?!」

「大丈夫じゃねーよ、パボ!」


まるで背負い投げされたような格好でひっくり返っているソンギュを慌てて抱き起す。

ソファの手前に何もなくてよかった、と思いながら抱き上げてやると、頭を擦りながらキッ、と睨み付けられた。


「そんな怒んないでよ〜」

「怒るわ!」

「理不尽〜!」


そもそもソンギュが圧し掛かって来たのに、と思わないでもなかったけれど、言わずにおいた。
だって言うとまた怒りそうだし。

ぷくぷくと頬を膨らませているソンギュを膝の上に乗せて、子どもをあやすように背中を擦る。
こんなことをしたらまた怒るかなぁと思ったけれど、ソンギュは何も言わずにそれを受け入れていた。


「…ところでソンギュさん」

「んぁ?」

「さっきの、何?」

「え?」


お前も甘えろよ、なんて。
まさかこの人に言われるとは思わなかった。

だっていつも彼を甘やかせているのは俺で、彼が甘えるのは俺だけで。
そんな関係が心地よかったし、当たり前だと思っていた。

だから自分が甘えるなんて、


「…ウヒョナはさ、俺のこと甘やかしすぎなんだよ」

「え、なにそれ」


ソンギュの方から甘えてくるくせに。

思わず口に出してそう言えば、ソンギュはまた顔を真っ赤にさせて頬を膨らませた。


「お前なー!折角人が心配してやってんのに…!」

「え、心配?」


あ、と口を押えるソンギュを見詰める自分の顔が、鏡を見ずともにやにやしているのが分かる。

本当にこの人は、とことんまで可愛いから困ったものだ。


「ソンギュ、俺のこと心配なの?」

「ちっげーよ!」

「だって今、心配してるって言った」

「言ってない!」


じたばたと暴れる体をがっちりホールドしてやれば、諦めたように力を抜く。

ぷしゅう、と風船の空気が抜けるようにしな垂れて持たれ掛かってきたソンギュを抱きとめて、栗色の髪を撫ぜた。


「ソンギュ、俺嬉しい。今ちょーシアワセ」

「…うっせ」

「大好き」

「……あっそ」


そういう素直じゃないところも含めて、ぜーんぶ愛してるよ。

言葉にはせずに、心の中でそっと呟く。
真っ赤なりんごみたいな頬に小さくキスを落として、可愛い人をぎゅうと抱きしめた。




りんごのとなり