※前作のスパイパロ続編。でも続いてるようで続いてない。
 ソンギュが鬼畜。みょんすが可哀想。ほぼエロ注意!















気配を消して、月明かりしか照らすもののない部屋に身を滑らせる。
広い室内をぐるりと見渡すも、目的の人物は居ない。

その中で窓に背を向けるようにして置かれている、漆黒の重厚なデスク。

その少し離れた左側に、開け放されたままの扉があった。


「…寝室、かな」


なんて不用心なのだと思わないでもないが、それがトップの威儀とでもいうのか。

右手に携えていた拳銃の安全装置を確認して、闇に紛れながらその豪奢な扉の前まで移動する。

目だけで室内を覗き込むと、やはりそこは寝室で。
キングサイズのベッドの上に、紛れもないターゲットの姿を確認した。


「……」


足音を殺して、殺気や気配も先程以上に注意深く払拭する。

元よりこういった行為など容易いものだったが、床に敷かれた毛足の長いカーペットがミョンスの味方をした。

息を潜め、目の前で穏やかに上下する体を観察する。

このまま直ぐに打ち殺しても構わないのだが、如何せん相手は組織のトップだ。

臓を撃ったとしても、万が一何か仕込んでいれば、形勢逆転。
一気にこちらが不利になる。

なるべくそういったリスクは減らしたい。
いや、リスクの無い手段で確実に仕留めなければならないのだ。

ぎしり。
小さな音を立てて、シーツの波がミョンスの右足を飲みこんで行く。

どく、どく、と早鐘を打つ心音を聞きながら徐々に体を移動させ、ターゲットの上に跨り込んだ。

黒く怪しい光を放つ銃口を、未だ眠り続ける男の額に当てる。

引き金に指を掛けた瞬間、ミョンスの口から重く熱い息が漏れた。


「っ、はぁ、」


がたがたと、己の手が、体が震える。

それは恐怖なのか、はたまた歓喜なのか。
今のミョンスには、もう何もわからなかった。

ただ、すぅすぅと穏やかな寝息を立てる男を見詰める。

不意に、ずきん、と左肩が痛みに疼いた。
この傷を付けた時の真摯な瞳を思い出して、ぐしゃりと顔を歪める。

(あの人はおれを、本気で殺そうとした…。)

何の迷いも躊躇いもない、真っ直ぐな瞳。
あの双眼に見つめられた時、自分は動くことが出来なかった。

いっそ、このまま彼に殺されても構わないとすら思った。

けれど、ようやくここまで来た。
やっと辿り着いたのだ。目的の人物に。


「おまえを殺せば、ひょんは…っ」


小さく唸るように呟いて、かたかたと震える右手をもう片方の手で支える。

目を閉じて、下唇を噛み締めた。

敵対する組織のトップ、キムソンギュ。
予てよりのターゲットであり、同時に、ウヒョンが忠誠を誓った人物でもある。

これが終われば、彼は自由になれる。
これさえ終われば…。

ミョンスは静かに息を吐いて、ゆっくりとベッドに乗り上げた。


「いつまでそうしてるつもり?」


突然下から上がった声に、ミョンスは閉じていた目を見開いた。

見つめる先には、つい先程まで寝息を立てていたはずの男が、はっきりと覚醒した顔つきでこちらを見上げている。


「お前がミョンス、…だっけ?ウヒョンが追ってる、」


まさか、ずっと起きていたとでも言うのか。

その口調は寝起きのものとはあまりにかけ離れていて、ミョンスは動揺したように引き金を引いた。


「…!」


けれど、銃声が響かない。

何故だ、と思うように動かない思考を必死に巡らさせていると、その様子をじっと見ていたソンギュの口元が楽しげに弧を描いた。


「確かに顔は綺麗だけど…」


使い物にはならないな。

そう言って可笑しそうに声を上げるソンギュに、ミョンスは手元の拳銃を見て顔を青くした。

安全装置を外していたはずのそれが、いつの間にかまた付けられていたのだ。

けれど、相手は見たところ生身。
銃器物も持っていない。

今ならまだ逃げ切れる。

そう思って体をずらしたミョンスだったが、にやりと妖しく笑んだソンギュを目に留めた瞬間、景色が反転した。


「あっ…!」

「残念でした、ミョンスくん」


反応するより早く、ミョンスの体は目の前でニヒルに微笑む男によってベッドに縫い付けられていた。

手にしていた拳銃もすでに無く、ソンギュに奪われたそれはベッド横のサイドテーブルに置かれてしまって。
手を伸ばそうにも、両腕は頭上で一纏めにされている。


「はな、せっ…!」


ぎりぎりと締め付けられる両腕が痛い。

自分の上に跨っているソンギュを蹴り上げようと足掻いたが、両足に彼の腰が乗っていてそれも叶わなかった。


「なに、泣いてんの?」

「泣いてないっ…!」

「腕無しの上に、泣き虫なんてな」


くすくすとミョンスを卑下するように嘲笑う声。
人ひとり殺せない自分が、ひどく腹立たしい。

あまりの悔しさに、口唇を血が滲む程噛み締めた。


「こら、そんなことしたら血が…。あーあ、やっぱり切れてる」

「んぐっ…」


突然口内に長い指を突き立てられて、口唇を噛めないように広げられる。

そのまま舌を弄ばれて、ミョンスは不快感に眉をひそめた。


「ウヒョナがのめり込むのも、わからないでもないな…」


ずるり。
指を引き抜かれ、彼の指さきと自身の口唇の間を、つぅ、と銀糸が伝う。

次いでソンギュの整った顔が近づいてきたかと思えば、今度は彼の舌が侵入してきた。


「んぅっ…!」


れろ、と少しざらついた生暖かい舌が、ミョンスのそれを舐め上げる。

歯列をゆっくりとなぞられ、舌を吸われ、口内を犯されている感覚にミョンスは身体を震わせた。


「ん、ふっ…」


つ…、と目じりから零れた涙に、ソンギュがようやく口を離す。


「泣く程悔しい?」

「っ…」

「違った?…ああ、わかった。泣く程キモチイイんだ」

「!っちがう…!」


声を荒げても、浅い呼吸を繰り返す自分の体では碌な反抗すら出来ない。

自分を見下し笑っているソンギュを睨み付けて、ぐっと身体に力を入れた。


「無駄だよ、ミョンス。お前に俺は殺せない」


一生かかっても、な。

そう言って心底楽しそうに笑い声を立てる男に、ミョンスは悔しさで顔を反らせた。


「このまま帰してやってもいいんだけど…」


すっと耳元に顔を寄せて、悪戯に息を吹きかける。

思わずぴくん、と反応してしまったミョンスに、ソンギュはくすりとほくそ笑んだ。


「やっぱ、やーめた」


低くて甘い声が、ミョンスの耳を淫猥に撫でつける。

ぱくりと耳朶を口に含まれて、付けていたピアスをきつく引っ張られた。


「あ゛ぁっ…!」

「…やっぱりこれ、ウヒョナとお揃い?妬けるなぁ」


ふふ、と笑いながら、少し血が滲んだピアスを舐める。
耳が千切れてしまうのではないかという程の痛みに、ミョンスはその綺麗な顔を歪め悶えた。


「やめ、ろっ…」

「お前が羨ましいよ、ミョンス」


首筋に口唇を這わせながら洩らしたソンギュの言葉にミョンスは疑問を抱いたものの、そんなことを考えられる余裕など既に擦り減らされていた。

脳は嫌悪に打ちひしがれているというのに、彼の熱い吐息に少なからず反応してしまう己の身体が浅ましい。

ソンギュの口唇から与えられる愛撫に耐えている間にも、その手はミョンスの服に掛けられていて。

ぷちん、と着ていたシャツのボタンが外れる感覚に、ミョンスは両の目を見開いた。


「?!いや、だ…!やめろ、離せっ!」

「人の好意は素直に聞くもんだよ、ミョンス」

「な、にが、好意だ…!」


顔を上げミョンスを見つめるソンギュの顔は、笑ってはいるものの、その目は氷のように冷たい。

何て非人道的な目をするのだろう…。

その冷徹な光を放つ瞳に射抜かれて、ミョンスはまた身体を戦慄かせた。

ごくり。
恐怖に息を飲んだミョンスに、ソンギュは満足そうに目を細める。


「可愛い、ミョンス…」


ちゅ、と以外にも優しく口唇を落とされて、脱力するように体の力が抜ける。

けれどその瞬間、肌蹴た上着の下で密かに主張していた敏感なそれを摘まみ上げられ、ミョンスは思わず声を上げてしまった。


「あっ…!」

「あれ?ここ、もう固くなってるんだけど。どういうこと?」


つつ…、と弄るようにその周りを撫でられて、溜まらず身悶える。

はぁっ、と熱く短い息を吐くミョンスに、ソンギュは口元を歪めた。


「厭らしい身体…。ウヒョナの所為?」


それとも、元から…?

意地の悪い、けれど艶のある声で耳を犯されている感覚。

不快なのに間違いなく快感を与えるソンギュの声に、ミョンスは臍を噛んで耐える。

きっ、と睨み上げると、ソンギュは狐目を更に細めてそれを見つめた。


「泣き顔もいいけど、そういう強気なのも好きだよ」


反抗的な、意志の強い目。

その視線に湧きあがる欲を感じながら、ソンギュは口角を上げる。


「…でも、もっと苛めたくなる」


ぐい、とミョンスのシャープな顎を掴んで無理矢理視線を絡めると、耳元に顔を近づけ囁いた。


「たっぷり感じなよ?可愛いミョンス、」


ぺろりと首筋を舐め上げられたかと思えば、身体を俯せにさせられ、後頭部をぐっと押し付けられた。

まるで目隠しをされているように、視界が黒に覆われる。


「ぅぐっ…!」


声を上げようとしても、虚しくシーツに飲み込まれてしまう。

碌に息も出来ないまま抵抗しようと暴れたが、腕は後ろで一纏めにされ、腰をぐいと引き上げられて無理矢理膝立ちをさせられた。

尻だけを高く突き出したような格好に、羞恥で顔を歪ませる。


「いいね。すごくそそられる」


そう耳元で囁かれたと同時、ソンギュの右手がミョンスの中心へと這わされた。


「あっ…!?」


ソンギュの冷たい手のひらが、じわりと熱を帯びていたそこをゆっくりと撫でる。

その感覚に粟立つ身体を抑えようとぎゅっと目を瞑ったが、ソンギュに熱を奪われるどころか更に熱さを増してゆく己の身体。


「いい子だ、ミョンス」


中心を這う手はそのままに、もう片方の手で優しく頭を撫でられる。

その手が、まるで愛する人に愛撫されているような錯覚にさせた。


あ、ぁっ、…」


殺さなければならない相手に触れられて、高められて、小さくも声を漏らす自分が忌々しい。

顔を埋めたシーツが淫らな声を隠してくれることだけが、唯一の救いだった。


「声、我慢してる?」


ぐちゅっ、と耳障りな水音がソンギュの声に続いて響く。

羞恥に耐えるためにシーツを噛もうとしたが、ひっきりなしに出てくる嗚咽にも似た吐息がそうはさせてくれなかった。


「我慢しない方が楽なんじゃない?」

「ぁ、…っ」


ぐっ、ぐっ、と絶妙な力加減で上下に扱かれ、立たされていた両膝が笑う。

自分を弄ぶ男に罵声を浴びせようと首を捻ると、サイドテーブルの上に置かれた黒いものが目に付いた。

ソンギュの両手は今、自分の身体に這わされている。

いつの間にかシーツの上にだらしなく落ちていた両腕に、ぐっと力を入れた。


「んっ、ぅ、…」


口唇を噛み、競り上がる快感を耐え凌ぐ。

きつくシーツを握り込んだ所為で青白くなっていた右手を、縋るようにピストルへと伸ばした。


「…往生際が悪いな」

「んぁっ!」


ぐじゅ、と根元から一気に扱かれて、先端から先走りがこぷりと溢れ出した。

ソンギュはそれを塗り込むように尚も中心を愛撫する。

快感と吐き気を堪えながらもう一度腕を伸ばした瞬間、ずちゅ、と嫌な音がした。


「ああぁっ…!」


少しも慣らしていないそこに突き立てられた、熱いソレ。

灼熱の刃のように鋭くミョンスの体内を傷付けるそれは、間違いなくソンギュのもので。


「なぁ、ミョンス」

「、んぐ、ぁっ」

「俺を、殺したい?」


ズッ、ズッ、と容赦なく叩きつけられる腰に、激しい痛みが襲う。

伸ばしていた手が、虚しくもまたシーツの上に崩れ落ちた。


「ころ、す…っ、ぜったい、殺す…!」


がくがくと身体を揺さぶられながらも、必死で言葉を紡ぐ。
するとソンギュが、ミョンスの髪をぐしゃりと掴んで引き上げた。

必然的に深くなる挿入に、悲鳴にも似た喘ぎが漏れる。


「あ゛あぁ…!!」

「痛い?ミョンス」

「あ、あぅ、っ…」

「そんなに殺したいなら、いいよ」


殺させてあげる。

ソンギュのその声に、ミョンスは何とか頭を動かして後方を見た。
視界に写った彼の口元は、酷く楽しそうに嗤っている。


「あっ、ぁ!」


足を取られ、ぐるりと身体を回される。

浅く挿入したまま仰向きに直され、快感に従順な中が、きゅう、と疼いた。


「淫乱」

「ひ、ぁああ…!」


ずんっ、とまた最奥まで突き上げられるソレに、背中が大きく仰け反る。

その瞬間ミョンスの浮いた背に両腕が回され、身体を抱き起された。

ソンギュの上に跨るような体制の所為で、彼のモノが深く突き刺さる。
その強すぎる刺激に、ミョンスは堪らず彼の肩口に顔を埋めた。


「もう声は抑えないのか?」


にやりと弧を描いているであろう口元を想像して、悔しさに奥歯を鳴らす。

これ以上ない屈辱に必死で耐えていると、ソンギュに掴まれている右手に固く冷たい物を握り込まされた。

見ると、それは紛れもない愛銃で。


「それで俺を打ち抜いてみな」


出来るならの話だけど。

そう言ってニヤリと笑んだソンギュは、ゆっくりと身体を後ろに倒した。


「、あっ!」


握った銃口を定める暇もなく、再び突き上げられるミョンスの肢体。

脳天を突き抜ける猛烈な快感に、思わずソンギュの上へと倒れ込んだ。


「ほら、早くしろよ」


言葉を投げかけられる間も、行為は続く。

身悶える程に腰を打ち付けられて、ミョンスは少しでも快感を逃がそうと小刻みに息を吐いた。


「ぁっ、はぁ、はっ」

「ミョンス、ほら。頑張って」


汗を滲ませながらも、余裕の笑みを浮かべるソンギュが憎くて仕方がない。

殺してやる。
早くこいつを殺して、あの人と…。

そう自分を奮い立たせ、ミョンスは必死に身体を持ち上げた。


「ぁ、う…」


厭らしく微笑みながらも尚腰を突き上げて来るソンギュに、漆黒の銃口を向ける。


「っぁ、はっ、は、」


がちゃり。

まだ付けられたままだった安全装置を解除して、握った拳銃に両手を添えた。


「そん、ぎゅ…っ」


今度こそ、殺してやる。

囁くように呟いた瞬間、口角を上げたソンギュがミョンスの腰を鷲掴んだ。


「あっ、ああああぁ…!」


逃がすまいと言うように腰を掴まれて、がくがくと揺さぶられる。

身体に穴が空いてしまうのではないかという程の激しい行為に、ミョンスは悲鳴を上げた。


「ぁっ、い、やだ…!やめろ…っ!」

「ふふ。やっぱりお前には無理だよ、ミョンス」


卑猥な水音と、肌と肌がぶつかり合う音が室内を支配する。

昂ぶる快楽に身を悶えさせながらも、ミョンスは拳銃を離すまいとそれを握りしめた。


「あぁっ、ん、ぁ…っ」

「誤射とかすんなよ?痛いから」


余裕な口ぶり。

それが酷く腹立たしくて、悔しくて、ミョンスは歯を噛み締めながら自ら腰を揺らした。


「っ、何?自分から腰揺らして…」

「っふ、ぅ…あ、」

「まだ足りないわけ?」

「ち、がう…!」


ミョンスの思わぬ行動に気をよくしたのか、ソンギュが愉快気に笑う。


「も、はやく、イけよっ…!」

「ああ、何だ、そういうこと」


残念、とわざとらしい表情を作るソンギュを、ぎゅう、とキツく締め上げる。

とにかく今は、一刻も早くこの忌々しい行為を終わらせたくて仕方がなかった。


「そんなにイきたいなら、イかせてやるよ、っ」

「んあっ!あっぁ、あ…っ」


やだやだと首を振っても、その打ち付けが止まることはない。

最大限に大きくなったソンギュ自身をガンガンと突き立てられて、ミョンスはぽろぽろと涙を溢した。


「あ、も、やだっぁ、あ…」

「、はっ、出すよ、ミョンスっ」

「や、だっ、やだ…やだ…っぁあああ」

「っ、…」


ソンギュの熱く硬いモノを最奥に感じて、ミョンスは堪らず白濁を飛散させた。


「っぁ、…」


最後に、ぐぐっ、と腰を突き上げられて、小さな悲鳴が零れる。

どぷどぷと体内に吐き出されている熱を感じながら、ミョンスは糸が切れたように崩れ落ちた。


「…殺合いはまた今度、な」


情事後の倦怠感に身を弄られながら、ソンギュは至極愉しそうにミョンスの滑らかな頬を撫でた。




艶麗

(緩やかにいま、墜ちてゆく)