※よるみょんin夢の国
 きむみょんすくんに夢見すぎ






「あれ?!財布がない!」


ワールドバザールの一角にある、大きなショップ。

パレードまでもう少し時間があるけれど、アトラクションに並ぶほどでもなくて。

中途半端な時間を過ごすために立ち寄ったお店で、そんよるが不意に声を上げた。


「え…お財布、落としたの?」

「わかんない…置き忘れ…?」


いやでも、ちゃんとカバンに仕舞った覚えあるし…。

そう言って、不安そうに辺りをきょろきょろ見渡すそんよる。

おれも同じように店内に視線をやるも、人が多くて見通しが悪い。


「よる、探そう?」


カバンの中をごそごそしているよるを見上げてそう言うと、うん、と頷いた。


「俺、ちょっと店員さんに聞いてくる」

「ん、わかった。じゃあおれは、店内を探してみるね」


少し忙しそうにしている店員さんの方へ駆け寄って行ったよるを見送って、床や棚を見ながら店内を歩く。

よるのお財布は黒色なのだけれど、黒というのは見つけやすそうで見つけにくい。

う〜ん、と目を凝らしながら練り歩いていると、よるがまだ落ち着きない様子でこちらに戻ってきた。


「届いてないって…」


どうしよう…。

小さくそう呟いたよるの顔を、ぐっと覗き込む。


「よる、探そう」


あるよ、ぜったい。

そう言って笑えば、小さくだけれど、よるも微笑んでくれた。


「俺、さっき行ったお店見てくるわ」

「うん。おれはもうちょっとここ探してみるね」

「わかった」


ふたりで手分けして探せば、きっと見つかるはず。

はやくしなきゃ誰かが持って行ってしまうかもしれないけど、慌てると見落としてしまいがちになるから。
ゆっくり、ゆっくり、店内を入念に探す。


「だっふぃーさんも、よるのお財布がどこ行っちゃったか知らないよね?」


腕に抱いただっふぃーさんに聞いてみながら、もう一度よく店内を探してみる。

でもやっぱり、黒のお財布は見つからなくて。

よる、見つけたかな…。
そう思ってスマホのディスプレイを見てみたけれど、よるからの連絡は入っていなかった。


「ん〜…」


たしか、よるが最後にお財布を出したのは、ここの前に立ち寄ったお店だ。
今、よるが探しているところ。

どうかそこにありますように…。
そう思いながら広い店内をぐるぐるしていると、すこし離れたところからよるの声がした。


「ミョンス!あった!」


心底安心したように笑いながら、駆け寄ってきたよる。

よかったね、と言って笑い返すと、ありがと、とちょっぴり照れくさそうに微笑んだ。


「そろそろパレードの時間だし、行こっか」

「うん、」


歩き出したよるの腕の服をすこし掴んで、気付く。


「…あれ?」


だっふぃーさんが、いない。

ばっ、と後ろを振り返って見るけれど、だっふぃーさんはどこにもいなくて。


「え、…。よ、よる、よる…」


くいくい、と掴んでいたよるの服を引っ張る。

ん?と振り返ったよるに、だっふぃーさんが居なくなっちゃった…、と言うと、驚いた声が上がった。


「え、いつ?!いつからいないの?!」

「わ、かんない…」

「ええぇ…!」


どういしよう…。
おれ、だっふぃーさんを置いてきちゃった…。
ひとりぼっちにしちゃった…。

そう思ったら、焦るよりなにより、なんだか悲しくなってきて。

すこし目が熱くなってきたおれを見て、よるがまた慌てはじめてしまった。


「ミョンス、大丈夫だって!絶対見つかるって!」


俺の財布も見つかったんだし!と慰めるように頭をぽんぽんしてくれるよるに、小さくうなづいて見せる。


「だっふぃーさん、探してくる…」

「うん、俺もあっち見てくるから」

「ん、ありがと…。ごめんね、よる」

「気にすんなって」


じゃ、向こう見てくるな。

そう言って走って行ったよるをまた見送って、おれももう一度店内を一周する。

床、商品棚、カウンター…。
すみずみまで探してみるけれど、だっふぃーさんは見つからなくて。


「だっふぃーさん…」


うなだれていると、ぽんぽん、と優しく頭を撫でられた。

振り向くと、いつの間にかおれの後ろに立っていた、困り顔のよる。


「大丈夫、あるって」


禿げましてくれているよるに、うん、と頷く。

もう一度中を歩いてみようと顔を上げたら、よるが不意におれの背後を指さした。


「ミョンス、あれ違う…?」

「え?」


あれ、とよるが指す方を振り返ると、ちょっとした出窓になっているそこに、


「だっふぃーさん…!」


ちょこん、とお行儀よく座っている、だっふぃーさん。
急いで駆け寄って、ぎゅうと抱きしめる。

ひとりぼっちにして、ごめんね。
そう心のなかでつぶやいて、そんよるみたいなぽかぽか温かいおひさまのにおいがするだっふぃーさんの頭に顔をうずめた。


「よかったな、ミョンス」


またぽんぽん、と頭を撫でられる。

だっふぃーさんから顔を離して、よるを見上げながらこくんと頷いた。


「…あ、もうパレード始まってる…」


そういえば、少し前からにぎやかな音楽が聞こえてきていたっけ。

だっふぃーさんに夢中で気づかなかったけれど、よるもおれもずっと楽しみにしていたパレードがもう始まってしまっていた。


「よる、ごめんなさい…」


おれが、だっふぃーさん失くしたから…。

そう言って謝れば、よるは明るく笑いながらおれの腕を引いた。


「まだ間に合うって!始まったばっかだし」


よるの明るい声に押されて、人がたくさん集まっているパレードまで走る。

きらきらと光るいくつもの結晶と、心をわくわくさせる音楽。

シンデレラ城広場の前で走っていた足を止めると、みっきーさんが乗った車も同じようにそこで止まった。


「あ…!」


思わず、よると顔を見合わせる。


「ほら、間に合った」

「…うん、」


まるで、おれたちを待っていてくれたみたいだね。

そう言って、二人で笑い合った。




きみと手を繋ぐ