サマーヌードパロ

夏も、春も秋も冬も
ずっと君を見ていた。

あいつのことを見ている君の隣で、
今にも泣きだしそうな顔で笑う君の
幸せを願っていた。








海辺のサイクリングロード、そこに掲げてある地元の広告には
缶ビール片手にこちらを見て微笑む浴衣姿の男がいた。
なんとも夏らしい看板だけれど、季節に関係なく1年中変わらずにある看板だ。

…3年前からずっと、変わらずここにあり続ける。



「あっついねぇ」
「夏だからね」
「ビールの季節だね」
「音也くんわざと言ってるでしょ?!」
「あはは、ごめん!」

もー、と笑ってくれるようになっただけマシだろうか。
彼女は看板の中で笑う男に、一ノ瀬トキヤに恋をしていた。
いや、現在進行形で、恋をしている。


トキヤは俺達の幼馴染で。
俺、一十木音也と一ノ瀬トキヤと彼女は海辺のこの街で育った。


トキヤは小さい頃から綺麗な顔をしていて、
地元ではちょっとした有名人だった。
なぜかこんなでっかい地ビールの広告モデルの依頼が来るほどに。

気難しい奴だったけど、それは真面目さ故で。
冷めてるように見えて誰より優しい。
そんなトキヤに彼女が惹かれたのは至極当然のことだった。



彼女は彼女で、海が似合わないくらいに白い肌とか、
海風に揺られる綺麗な髪の毛とか、
屈託なく笑う顔とか、
そういうところがかわいくて。
気付けば隣にいてくれる安心感を愛おしいと思ったのは
俺だけではなかった。

トキヤも俺も、物心ついた頃から彼女が好きだった。

ずっと3人で育ったから、彼女は2人のものだという暗黙の了解みたいなものがあって。
だからこそ幼馴染っていう関係が成り立っていたのに。





3年前の夏、急にトキヤがこの街を出た。

バランスの取れていた三角関係の均衡が崩れたのはそのときだった。
自分の気持ちに気付いていなかった彼女は、
いなくなって初めてトキヤの存在の大きさを知った。

トキヤはなにも言わずにいなくなったけれど、
それはきっと彼女への想いに堪えきれなくなったからで。

俺は俺で、トキヤがいなくなって、この海しかないような街で彼女と2人になったことで、
この3年間、少しずつ彼女との距離を縮めようとしてきた。
笑顔が減った彼女に笑ってほしくて、ずっと一緒にいた。


いなくなったくせに、でっかい看板でその存在を主張しているトキヤのことを
ずっと忘れられずにいた彼女は、
新しい出会いのある春も
海しかないこの街が1年で最も賑わう夏も
海風が冷えてくる秋も
あいつがいなくなった寒い冬も
なにかあるとこの看板の前に来て、トキヤを見つめていた。

そんな彼女が心配で、傍にいたくて、
俺がいるんだって気付いてほしくて、
3年間、ただ隣にいた。
隣にいることしかできなかった。



あいつがいなくなってから3回目の夏。
今年も花火大会の日がやってきた。
砂浜で見る花火はいつ見ても鮮やかで、
海に反射する光の花びらはとても綺麗だった。

3人でずっと見てきたこの花火を、2人で見るようになって3回目。
いい加減この関係に終止符を…というか、
自分の気持ちを告げたいな、とは思うけれど。
なんだかそれはずるいような気がして。
お人好しだって笑われたらそこまでだけれど。

そんなことを考えながら、トキヤが広告塔を務める缶ビール片手に
今年も変わらずに隣に座り続けるよ。

まぁこういう関係も悪くはないよな、なんて自分を納得させるようにグイッと一口ビールを煽ると、隣から視線を感じて彼女のほうを見る。




「…どした?」
花火大会ならではの浴衣姿で、髪を結い上げた彼女のいつもと違う表情にドキドキする。



「音也くんは、いつも隣にいてくれるね」

酒で上気した頬をゆるく上げて、泣きそうな顔で笑った。


「わたし、音也くんのおかげで笑えるんだよ。

…いつもありがとう」






すりむいたままの昔の傷跡は、まだ少し痛むけれど
俺達は歩いて行かないといけなくて。

最後の花火が打ちあがったら、
少しは変われるような気がして、
変わりたいと思えて、
いつも同じ場所で、隣で見上げているいつもの空を、
何年経ってもきっと忘れない夜空にするのは、
自分達次第なのだと唐突に思った。


この花火大会が終わったら、君に打ち明けてもいいだろうか。
ずっと抱いているこの思い。





君が好きだよ。



(2013.08.08.)

ぱちぱちの日!

というわけで久しぶりに拍手更新です。
いつもありがとうございます!

月9、「SUMMER NUDE」のパロです。
最後のモノローグはフジファブリックさんの
『若者のすべて』の歌詞を少しアレンジさせていただきました。


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