18

結局、土日はなまえから連絡が来ることはなかった。


平日は学校で会うから、普段こまめに連絡を取ることはない。
気にしたところで仕方がないし、どうせ月曜になれば会えるのだから…となるべく考えないようにして週末を過ごした。

…食事中にボーっとして味噌汁をこぼしただとか、試験勉強でもしようと机に向かったものの一ページも進まないまま二時間経っていたとかってことは誰も知らないことだからいいのだ。
いつもと変わらない週末を過ごしたってことにしておこう。
どうして先週末に限って部活がオフだったんだろうか…。

週末だけで何回溜息を飲みこんだことか。。

眠りも浅かったようで夜中に何度か目が覚めた。
そんなに不安ならこっちからもう一度連絡を入れればよかったんだろうけど、鬱陶しがられたらって思うとできなかった。

我ながらメンタル弱すぎるなぁとげんなりしながら迎えた月曜日。

「はぁ…寝た気がしない…」

起きて早々に溜息。
学校に向かう足取りが重たい。
会いたいけれど、会うのが怖いような気がして、通学路でなまえの後ろ姿を無意識に探すいつもの癖が憎かった。

ガラ、と教室の扉を開ければなまえは既に自分の席について、一時停止してしまったのは仕方がないと思う。


「あ、真琴おはよう」
「お、はよう」
「?寝ぼけてるの?」


俺が声をかける前になまえが先に挨拶をしてきて少し拍子抜け。
おはようって返すだけなのにどもってしまった。

「いや…金曜、返事なかったから…どうしたのかなってちょっと心配で…」
「えっあ、ごめん。返事してなかったっけ?」

あたふたとした様子で携帯をカバンから取り出そうとしているなまえに「忘れてただけならいいよ」と言った顔はちゃんと笑えていただろうか。


いいよ、なんて。
全然よくない。
いつも通りに笑いかけてくれるなまえに泣きたいくらい安心した。


「ごめんね…返したつもりだったんだけど…」
「大丈夫だよ。それより週末どうだった?江ちゃんと出かけたんでしょ?」
「あぁ……うん。普通だった、かな」

この話題を引っ張るのもどうかと思って違う話を振ったのはなまえへの気遣いっていうより自分の臆病さのせい。

弁当作りの材料を買いに行くんだーって話していたときはとても楽しそうだったし、なまえと江ちゃんは幼馴染ということもあって仲が良い。
週末の買い出しの話をすればいつものように嬉々として話してくれるのではないかと思ったのに、その思惑はどうやら外れだったみたいだ。

「普通だったって、何かあったの?」
「ううん、何もないよ。普通にランチしてお買い物して、楽しかったよ」
「そっか」

それにしてはいつもよりもテンションが低い。
考えすぎだろうか?
連絡が来なかったからってなまえの言動に敏感になっていると言われたらそれまでで、「普通」と言う相手に何度もどうしたのかと聞ける程、俺の不安は確証のあるものではなかった。

「真琴のお弁当作ってきたからお昼一緒に食べようね」
「え?!作って来てくれたんだ…ありがとう」
「だって約束したじゃん、なんでそんなに驚いてるの?」

不思議そうに笑うなまえのほっぺを抓ってやりたい。
情けないけれど、本当に不安で。
弁当なんて作ってきてくれないんじゃないかと思った。

「江ちゃんはみんなの分作って来るって言ってたから、そっちも食べてあげてね」
「うん、楽しみだなぁ。なまえのは食べたことあるけど江ちゃんの初めてだ」
「…あれ、そう言えば江ちゃん食材とか特に買ってなかったけど家の近くのスーパーとかで買ったのかな…?」





なまえの弁当が楽しみだなという浮かれた気持ちと、週末の憂鬱さを引きずるよくわからない感情でふわふわと地に足がついていないような心地で午前中の授業は頭に入ってこなかった。










「じゃーん!」っと江ちゃんが披露してくれたお昼ご飯たちは見た目はとても豪華で。
一人でこんなに作るなんて大変だっただろうなぁと感謝しながら「いただきます
」、と一口食べたところからは地獄絵図……。

いちご味、ココア味。
その言葉だけ聞けばなんの問題もないけれど、肝心なのはそれがおにぎりだっていうところであって。

危険を察知した怜以外は口いっぱいに甘ーいプロテイン入りのおにぎりを頬張ることになった。

どうしよう、飲み込みたいけど噛むこともできない。
でもまさか吐き出すなんてそんなこともできない。

江ちゃんがキラキラした目で俺たちを見ている…。


渚がおいしいー!と本当に嬉しそうに食べているのが意味がわからないけれど、江ちゃんが一生懸命作ったおにぎりが無駄になることはなさそうで安心もした。
俺はちょっと食べられそうにない。
ごめん、江ちゃん。

「ま、真琴、大丈夫…?お茶飲んで」

必死の思いで飲み下して、小声で江ちゃんに聞こえないようになまえがお茶を差し出してくれた。

「ハルもお茶飲んでね、あぁ意識飛ばさないでっ気をしっかり!」


……なんて騒動があり、なまえの作ってくれた弁当が余計においしくありがたく感じた。
江ちゃんが一生懸命作ってくれたのは伝わったのだけど。

渚に「なまえちゃんのもおいしそうっ」とキラキラした目で見られたけれど、これは断固譲れない。

「渚は江ちゃんの食べて」
「えー!」
「これは俺のだから。なまえが俺のために作ってくれた弁当だから」
「まこちゃんのケチー」

なまえが俺のためにバランスを考えて作ってくれたのだ。
なんと言われようと、いくら渚でもそれは無理。

俺用に買ってくれたという大きな弁当箱には、肉ももちろんだけど野菜がいつもの倍は入っていて、「緑の野菜とね、彩りのためにトマトとパプリカと、あとデザートに果物も入れてみた!あとタンパク質もいるかなって卵焼きと、」と説明してくれるなまえがかわいくて。
お弁当箱やっぱり買っちゃったって言われたら土日の鬱々とした気分もなかったことになった。




「そういえば、プロテイン買いに行ったスポーツショップでお兄ちゃんたちに会いましたよ」
「ひんひゃんに?」
「渚くん、食べ終わってから話してください。凛ちゃんさんたちって、鮫柄のみなさんですか?」
「うん、新入部員連れて買い出ししに来てたみたい!ね、なまえちゃん!」

江ちゃんの言葉になまえが大袈裟なくらい肩を揺らした。
凛たち鮫柄、と言われたらまぁ山崎くんもいたんだろうなぁなんて考えて、なまえがなんて返事をするのか待つ。

「うん、ビックリしたよね」
「お兄ちゃんが一年生に水着選んであげててなんか感動しちゃった!ちゃんと部長やってるんだなぁって」
「凛ってあんなだけど面倒見いいよね」

江ちゃんのキラキラした瞳と、なまえの曖昧な笑い。


あぁ嫌だな。


何かあったのはやっぱり山崎くん関係だろうか、そんなことばかりぐるぐる思考がまとまらなくて、せっかくの弁当の味もよくわからなくなってきた。

毎日感情の振れ幅が大きくて、でもそれは誰のせいでもなくて。
自分の気にしすぎだって目を瞑る。

聞きたくないなぁと思いながら耳を澄ませる自分が本当に嫌だ。


(2015.09.06.)



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