ex.3 Merry Christmas


※拍手再掲、「花の名前」17話のあとのお話。
※聖フロの行事に触れていますがふんわり読んでください。




「…お疲れ」
「摂津さん、お疲れ様です。見学ですか?」

グッズ売り場のあたりで品出しをしていた小さな背中に声をかけてしまったけれど別に用事があったわけではない。
何かありました?なんて首を傾げられて口籠ってしまった。
用がなきゃ声かけちゃいけねぇのかよ。
なんもねぇよ。

冬組公演が開幕して数日、今日はクリスマスイヴだ。
劇場にも倉庫から引っ張り出してきたらしいツリーが飾られていて終演後には特別トークショーを行う予定になっている。
クリスマスだというのに…クリスマスだからだろうか、チケットは完売しているし数枚だけ出た当日券もすぐにはけたらしい。

「クリスマスなのにシフト入れられてんのな」
「お休み取りたい人多いみたいで。摂津さんは夜、寮でパーティーなんですよね」

兵頭に聞いたんだろうけど今日の予定がバレている。
パーティーなんてめんどくせぇと入団したばかりの頃なら適当にパスしたかもしれねぇけどやたらイベントごとに全力な奴らに囲まれていたらもう慣れた。
季節ごとのイベントも誰かの誕生日も毎回盛大に祝うから毎月のようにお祭り騒ぎだ。
毎月っつーか毎日騒がしいのも二十人で集団生活しているなら当然なのかもしれない。
そこにたまにこいつがいることにももう慣れてしまった。

「そう。お前も来んの?」
「いえ、夜は予定があって」

思いがけない返事が返ってきて思わずそらしていた顔を向けてしまった。
ぱちりと合った視線がなぜか気まずい。

「予定、」
「友達と約束してるんです。学校のチャペルで礼拝があるからそれに行こうって」

キャンドルとかツリーの装飾とかすごくきれいなんですよ、と言うから毎年行っているのだろうか。

「学外の人もクリスマスだけ入れるんです、今日と明日だけなんで摂津さんはもう難しいかもですけど」
「…チャペルって柄じゃねぇだろ」

明日は昼に秋組の稽古が入っているけれど夜は何もなかった。
実家に帰って来いだの遊びに行こうだの連絡はいろいろ来ていたけれど、クリスマスだからって特別なことをしようとは思わないし、大々的には寮のパーティーは今日だけどどうせ明日も何かしらするんだろう。
人混みにもみくちゃにされるくらいなら普段より豪華になるであろう臣の飯をのんびり食ったほうがよっぽど有意義だ。

「たしかに摂津さんがチャペルは違和感です」
「おい…お前が言ったんだろ」

目を細めて軽くにらむけれどおかしそうに笑ってている。

「……写真、」
「え?」
「見せろよ。明日でもいーから」
「写真って、え、チャペルのですか?」
「そう。きれいなんだろ」
「あの、」
「劇団のグループじゃなくていいから。俺のLIMEに送っといて」

さっきまでほころんでいた表情に困惑が混じって「いいんですか?」と何にかわからない疑問を投げかけられた。

「何が」
「個人的な連絡とか嫌いそう」
「んだよそれ。俺だって知り合いと連絡くらい取るっつーの」

知り合いっつーか劇団仲間っつーか、こいつと俺の関係性に名前とかないけど、用があれば連絡くらいする。
すっかり作業の手を止めてしまったから「邪魔して悪い」と謝ると何度か瞬きをしたあとハッとしたように「いえ」とか細い声が返ってきた。
らしくないことを言ったかもしれないとその表情と声を向けられて思った。



その日の夜、寮の談話室でゲーム大会が始まったあたりでポケットに入れていた携帯が鳴った。
すぐに既読つけんのもなんかシャクで席を立ったタイミングで届いていたLIMEを確認したらもしかしてと思い浮かべた相手からだった。

写真が数枚と「あんまり上手に撮れませんでした」という短いメッセージ。
教会の外観がライトアップされている写真と、明度の低い教会内でキャンドルのひかりが柔らかく灯されていることがわかる写真。
それと豪華に飾り付けられたツリー。
…もみの木の下で告白すると永遠に幸せになれんだっけな、なんてどこかで聞いた話が頭をよぎる。
誰かに告白する予定もなければ明日ツリーのある場所に行く予定だってないのにどうしてこんなことが浮かんだのか、イベントの空気にあてられているのかもしれない。
なんと返そうか迷ったけれど、迷うこと自体がおかしいだろと俺も短く「サンキュ」とだけ返した。

……俺から写真を送れと言ったのにさすがにそっけなかっただろうか。
談話室に戻ってゲームに参加しても携帯が気になってしまって至さんはおろかシトロンにまで負けた。


・・・


「どうしたの?撮った写真じっと見て」
「りっちゃん。チャペルの写真をね、見たいから送ってって言われてて」

これで伝わるかな?と携帯の画面を見せたら大丈夫と頷いてくれた。

「劇団の人?」
「うん」
「文化祭観に来てたけどみんな顔面偏差値めちゃくちゃだったね、さすが劇団員」
「それ褒めてるの?」
「もちろん。わたし紺色のジャケット着てた人が好きだったなぁ」
「至さんかな。髪の毛明るくてふわっとしてた人?」
「そうそう。なんか柄悪い人もいたけど」

もしかしなくても摂津さんだろうな。
思わず苦笑いになってしまったらりっちゃんが不思議そうに首をかしげた。

「全然喋ってなかったけどもしかして前に言ってた十座さんにケンカ売ってきたって人?」
「……うん」
「なんか機嫌悪そうだったよね。いまだに仲悪いんだ」
「最近はそうでもないよ。秋組の公演もバディ役で大成功だったし。わたしとも普通に話してくれるし写真も、」
「え?」
「この写真、その人が見たいって」
「あのヤンキーが?」
「摂津さんね」
「摂津さんがチャペルの写真見たいって言ったの?似合わなすぎる」

チャペルが似合うかどうかは置いておいて、けっこう優しいところもあるんだよ。
駅まで送ってくれたり意外と聞き上手だったり、あとね、と続けていたらりっちゃんが意味ありげに笑みを深めた。

「な、なに…?」
「そんな風に男の人の話してるの初めて見た」
「えっ」
「摂津さんは今日何してるの?一緒に来ればよかったのに」
「…寮でパーティーだよ」

用事がなくたって、わたしと二人でこんなところに来るわけがない。
チャペルの中にも外にも聖フロの生徒だけじゃなくて一般のカップルや家族連れがたくさんいる。
クリスマスイヴに誰と過ごすかなんて人それぞれだけど、家族ではない友達とも違う、まして恋人でもなんでもないわたしと摂津さんが一緒にこんなところに来るわけない。

明日の予定聞けばよかったのに、とりっちゃんに言われたけれどなんとなく、なんでだかわからないけど、知りたくないなと思ってしまった。



(2021.04.10)拍手掲載
(2021.12.25)本編ページへ移動しました。

万里くんはスパダリなのでお付き合いしてからはめちゃくちゃ素敵なクリスマスデートをしてくれると思います。
素直になるまでが長い(かわいい)。



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