9.

「ユーリ、機嫌なおして」
「怒ってねぇよ」
「でも拗ねてるでしょ?」
「……まぁ、ちょっとはな」

そう認めるとくるっとこちらを向いたユーリの腕の中に閉じ込められた。
ヴィクトルが「なまえがオレのことしか見てなかった時」なんて言ったから、ユーリのご機嫌は少し斜めを向いてしまったのだ。
もう何年も前のことなのに。

「ユーリ」
「…ん」
「大好きだよ」
「……知ってる」

昔は身長も体格も変わらなかったのに、今ではすっぽりとユーリの腕の中におさめられてしまう。
とくんとくんと心臓の音が伝わってくる。
背中に腕を回してぎゅっと力を込めたら、大きな手が頭を撫でてくれた。

「ユーリは好きって言ってくれないの?」
「好きとかじゃねぇんだよ」
「……と、言いますと」

ここで突き放されるような言葉を言われるなんてことを思うはずもない。
ユーリは不器用だし素直ではないけれど、大切なことはちゃんと伝えてくれる人だ。

「…愛してる」

そっと顔を覗き込まれてキスをくれる。
普段口が悪いのに触れる唇はひどく優しい。

「なまえは?」
「愛してるよ、世界でいちばん」
「オレは宇宙で一番だけどな」
「ふふ、ユーリ子供みたい」
「うるせぇ」

笑うな、なんて言いながら言葉を遮るようにもう一度キスをされて、何度も何度も繰り返される。
ちゅっと触れたり食むように下唇をついばまれたりぺろりと舐められたり。
ユーリの指が髪の毛を耳にかけてくれるのが目を閉じていてもわかる。
そのまま耳の縁を撫でるように動くからくすぐったい。

「ユーリ、明日も朝から取材だよ」
「おー…」
「二人ペアでの取材申込みが多すぎてスケジュール調整大変だって言ってた」
「らしいな」
「早く寝ないとしんどいよ」
「……ん」

ぎゅうっと最後に強く抱きしめられる。
子供にするみたいに頭を撫でたらちょっと不服そうに見下ろされてしまった。

「ロシア戻ったら二人でゆっくりしようね」
「どっか旅行でもしてぇな」

おでことおでこを合わせて唇が触れそうな距離で話す。
鼻がちょんっとくっついたあとにやっぱりまたキスをされた。

「……シャワー浴びるか」
「うん。…ってえ、一緒に入る?」
「おう」

抱きしめられたままシャワールームに向かう。
肩にかかる腕に手を添えてユーリを見上げながら聞くと機嫌が良さそうに返事をくれた。

「…今日もわたしの部屋で寝るの?」
「当たり前だろ」

ぽいぽいと子供にするみたいに服を脱がされる。
今から行く先はシャワールームだし別にいいんだけど、恥ずかしげもなくこんなことするようになるなんて。
あの妖精みたいだったユーリが。



物心がついた頃からリンクで過ごす時間が長くて、それだけユーリと一緒にいて。
家族のように育った大切な男の子はいつしか愛を教えてくれるパートナーになって、手を取り合って生きていく約束を交わした。
無償の愛が美しいと思うこともあるけれど愛してくれた以上にわたしも愛を返したい。
寄り添って慈しみ合ってそばにいさせてほしい。
どうかこの先も、離れずに、ずっと。
だから、今夜も抱きしめ合って体温をわけ合うように眠りにつこうね。



(2021.10.05)

お読みいただきありがとうございました!
9話はおまけでした。




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