4.こんなにも瞬く僕の宇宙

「…は?」
「だから、みょうじさんと友達になれたんスよ」
「すみません黄瀬くんもう一回お願いします」
「もー黒子っち耳遠くないっスか?!友達になったんだってば!」
「…誰と」
「みょうじさんと」
「誰が…?」
「俺が」

マジバでいつものバニラシェイクを啜っていた黒子っちが、信じられないという目で俺を見た。

「黄瀬くんがそこまで馬鹿だとは思ってませんでした…」

馬鹿というかヘタレ…いや、恋愛偏差値が小学生…とかぶつぶつ言っている。
え、なにその悪口、さすがに傷付くんだけど?


昨日、誠凛と海常の合同練習後にみょうじさんと一緒に帰った。
ふたりきりで、だ。
俺に嫌われてるかと思っていたと衝撃のカミングアウトを聞かされて、必死で否定したら安心したように笑ってくれて、思わず出た言葉が「友達になってください」だった。

だって連絡先すら知らなかったんスよ。
俺にしたらすっげー進歩。

とりあえず連絡先交換して、駅からは反対方向だったからそこで別れた。
みょうじさんを電車に乗せて見送ったあとの俺は確実にゆるっゆるの表情だった。


「友達になったって、じゃあ君たちは今まで一体なんだったんですか」

呆れて言葉もありません、とバニラシェイクを啜る。
そう言われてみればそうだ。

「みょうじさん、俺に嫌われると思ってたらしいんスよね」
「まぁそう思われても仕方ないような態度でしたから」
「え?!」

まじっスか…。
黒子っちから見てもそうだったんなら言ってくれていいんじゃないかって思うけれど、そこで黒子っちを責めるのはお門違いって奴だ。

「…でも、友達になったってことはその誤解は解けたってことですか」
「っそうなんスよ!」

よかったですね、って言ってくれる黒子っちは表情こそ変わってないけれど、声が優しい気がした。








昨日みょうじさんを駅のホームまで送った後、家に着くまで我慢できなくて帰りの電車に乗ってすぐ携帯のメール作成画面を開いた。
メールの文章も打っては消し、打っては消し。
何て言ったってみょうじさんへの初めてのメールだ。
ここは慎重になっても仕方ない。

未読になっている他の女の子たちからのメールなんて全部無視だ。

我ながら重症だなってくらいみょうじさんのことばっかり考えている。
今まで夢中になれたものなんてバスケくらいだったのに、人って変わるんだな。

いつもは電車で座れたら部活の疲れで爆睡だけど、今日は目が冴えてしまってメールの推敲をしていたらあっと言う間に地元に着いた。


「ん〜〜〜」

家に着いて夕飯と風呂も済ませた。
だけどまだみょうじさんへのメールは下書きフォルダに入ったままで、携帯を握りしめてベッドでのた打ち回る。

「なんて送ればいいのかわかんねぇ…」

いつも女の子に送るときってなに送ってた?
そもそも高校入ってから碌に遊んでないからそんな感覚とっくに忘れた。
あんまり長いメールは送りたくないし、かと言って簡潔すぎるメールでまた嫌われているかも、なんて思われたら堪らない。

「…電話、したらさすがに引かれるかな」

いくら考えてもメールの文章がまとまらない。
だったらいっそのこと電話したいな、なんて。

多分考え込んだら電話も同じようにかけようか、かけまいか悶々として時間だけが経つだろう。

(出ないかもしれないし…ってそれはそれでショックっスけど)

半ばやけくそ気味で、携帯に表示されたみょうじさんの電話番号をタップした。


プルル…と耳元でコール音。
コールの長さと比例して俺の心拍数も上がる。

『も、もしもし?』
「わっ」
『えっと、黄瀬くん…?ですか?』

…みょうじさんの声が耳に当てた携帯から聞こえる。
そりゃあみょうじさんにかけたんだから当然と言えば当然なんだけど。
本当にみょうじさんだ、と思ったらビックリしたような声をあげてしまった。
情けない。


「うん。遅い時間にごめん、今平気っスか?」
『大丈夫だよーどうかしたの?』

どうかしたって聞かれたらなにもないし、声が聞きたかっただけなんて言ったら間違いなく引かれるだろうし。

「メール、しようかと思ったんだけどなに打てばいいのかわかんなくて」
『え?』

とりあえずここは正直に言ってみたけれど、何を言ってもみょうじさんを戸惑わせることに変わりないみたいだ。

そりゃあそうか。
つい数時間前まで嫌われているかもしれないと思っていた相手から電話なんて、多分俺だって対応に困る。

『わ、わたしも、わたしもね、黄瀬くんにメール送ろうと思ってたんだけど…なんて送ろうか考えてたらこんな時間になってて、だから、電話ビックリしたけど嬉しかったよ』
「…そっスか」


あぁもう。

みょうじさんかわいすぎる。


「みょうじさん、」
『うん?』
「えーっと…今日はもう遅いし、切るよ。またかけてもいいっスか?」

そう言えば電話越しにガタガタっとなにかを落とすような音が聞こえて、大丈夫か、と問えば「だ、大丈夫!」と慌てたような返事のあと、本当に用事なかったんだねって言う声が妙に甘く耳に残る。

変だな、すっげードキドキしてるのに落ち着くこの感じ。

『うん、またね』

時間にしたら一分あるかないかくらいだろう。
たったそれだけの短いやりとりで胸がいっぱいだ。

電話を切って、ようやく指がスムーズに動いた。


(電話ありがと、これからも仲良くしてくれると嬉しいっス…っと)


それだけ打ってベッドに潜る。
勝手に顔がニヤけて仕方ない。

別に具体的な約束をしたわけではないけれど、「またね」って言葉がめちゃくちゃうれしかった。
次いつ会えるかもわからなかったときに比べたらすげー前進だ。

そういや、みょうじさんの腕細かったな…。
あの時は咄嗟にだったし深く考えはしなかったけれど、今になって思い出して顔が熱い。


いやいやいや、寝る前にこんなこと考えるもんじゃない。
寝よう、と目を閉じた、その数秒後。
携帯の着信音が鳴ってすぐに切れた。
メールだ。

このタイミング的にもしかして、と期待を抱いてメール画面を開けばやっぱり。

『黄瀬くん、こちらこそ今日はありがとう。今度はちゃんとした試合観たいな。おやすみなさい』




あーもう、みょうじさんかわいい。






ってところまで全部黒子っちに語ったんだけど、呆れたような顔をしながら最後まで聞いてくれて、あぁ俺は良い友達を持ったなぁなんて思った。

(2015.04.20.)


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