21.同族嫌悪と阿吽

及川と二口くんって全く仲良くなれないか、言い合いをしならがらもなんだかんだ理解し合えるかのどっちかだと思う。
相性最悪、似た者同士、同族嫌悪。
こんな言葉が頭に浮かんだ。
なんとなくだけれど。

試合開始前に主将同士が握手をしてからサーブ権の先攻後攻を選んでいる時に遠くからでもなんだか穏やかではない様子で話していることがわかる。
今まで面識があったのかは知らないけれど、今朝みんなで集まってしまった時の空気もよろしくなかったもんなぁ。
あれは明らかに二口くんがあおっていたけれど、今握手した時の雰囲気は及川が妙に綺麗な笑顔を浮かべて二口くんが不愉快そうな表情をしていたからやり返したのだろう。
及川らしくて笑いそうになってしまった。

第二試合を見るために応援席に座って、選手は軽くご飯を食べている。
あんまり食べ過ぎると動けなくなるよと言おうとしたら澤村が「食べ過ぎるなよ」と先に言ってくれて、さっきまでの少し湿っぽかった空気はすっかりなくなっていた。

「青葉城西と伊達工かーそりゃ当たることもあるだろうけどなんか新鮮な組み合わせだな」
「そうだね、伊達工はだいぶメンバーも変わったし……」

三年生が全員残った青城と烏野と違って、伊達工の三年生は引退したみたいだ。
髪の毛が明るくて背が高い、一際目立つ子がレギュラーになっていて一層迫力が増した気がする。
隣に座っていたスガが選手の名簿が載った大会概要を見せてくれて「セッターだって」と教えてくれた。

どっちが勝っても強敵なことに変わりはないけれど、どっちに勝ってほしいかと聞かれたら、わたしは青葉城西だと答えると思う。
及川が負けるところは見たくない。
悔しそうに歯を食いしばってぼろぼろと子供みたいに涙を流す姿を最後に見たのはもう三年も前のことだけれど、あんな顔はできればもう、見たくない。
だからってこの試合が終わったあとに準決勝で青城と当たったら勝ちを譲ることなんてできないのだけれど。
矛盾していることはわかっていて、試合が進むにつれて胸が重たくなることにも気が付いていた。
及川と違う高校に行くと決めた時点で、こういうことが起こる覚悟はしていたはずだったのに。

「伊達工ブロックやばいな……」
「旭ビビってんなよー」
「黄金川くん、まだ一年生?これからどんどん手強くなるね」
「まだ未完成っぽいもんな、トスもブロックも」
「少し前の日向くん見てるみたい」
「たしかに」

三年生でかたまって試合を観ながらそんなことを話す。
烏野に進学したことを後悔したことなんて一度もなくて、このメンバーでここまで頑張ってきたことにも後ろ暗さなんてひとつもない。
数時間後の自分たちがどうなっていようと、今この瞬間にここでみんなといられるのは、わたしにとってかけがえのない時間だ。



観ている側が何を思っていようと試合は着実に進む。
伊達工のブロックは相変わらずすごかったけれど、最後には岩ちゃんが鉄壁を打ち砕いた。
ライバルチームなのに思わず「かっこいいー……」と言葉がもれてしまうくらいにその姿はエースの肩書が似合うと思う。

「次の相手、決まったな」と言ったのは誰だっただろう。
準決勝の相手は青葉城西。
みんなきっと心のどこかでそうなるような気がしていたんじゃないだろうか。
四か月前は伸ばした手が背中をかすめて届かなかった相手との再戦。
試合まではまだ時間があるのにどくどくと心臓が口から出そうなくらいにうるさい。
和久南戦のベンチマネは潔子だったから、今度はわたしがベンチに入ることになっていた。

「なまえ?」
「え、」
「大丈夫か、顔色悪い」
「本当?絶好調なんだけどな」

応援席からサブアリーナに移動して試合開始に備えてストレッチや軽く体を動かす時間を取れた。
スガに後ろから声をかけられて、振り向くと心配そうに眉を下げていたから驚いてしまう。

「なまえはさ、青城とも縁があるだろ」
「縁、ってほどでもないけど……」
「中学の同級生が主将と副主将って充分すぎるだろ」
「そうかな」
「うん。思うところとか、あんのかなって。今更だけど」

練習試合もインハイ予選もやってんのにな、と言うスガこそ少し無理をしているように見えて、選手に気をつかわせるなんて情けない。

「……さっきのさ、岩ちゃん、青城の四番の人ね。最後のスパイクすごかったでしょ」
「あぁ、鉄壁と真っ向勝負だもんな」
「昔からあぁなの。及川のトスで岩ちゃんの力が最大限発揮される、幼馴染だからかな」
「そっか」
「二人が並んでると頼もしくて、阿吽の呼吸ってこういうことなんだろうなぁって思ってた。岩ちゃんに言うとすごい嫌な顔されるんだけど」

スガは頷きながら、わたしの言葉に耳を傾けてくれる。
少し顔を上げると休みなさいってさっき言ったのに飛雄と日向くんが言い合いをしながら飛び跳ねていた。
疲れてないのかなぁと苦笑いをしたら何を見て言ったのかスガはすぐにわかってくれる。
頼もしい一年生が入った。
二年生が鼓舞してくれて、三年生が土台を支えている。
このチームが大好きだって胸を張って言える。

「岩ちゃんと及川は小学校からの仲なんだけど。ここにいるみんなはまだ半年、三年生だって二年半だけでしょ?」
「うん」
「なのに、負けたくないなって思うし、負ける気もしないんだよね」

隣のスガを見上げる。
目が合うとぱちりと瞬きをしたあとに目尻を下げて柔らかく笑ってくれた。

「相手が誰でも負けたくないなって思うよ」

スガもそうでしょ?なんて聞かなくてもわかることを投げかけた。



(2021.01.23)



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