7.続GW合宿

「黒尾さん?!」
「よっ」

GW合宿の最終日。
音駒高校とは昔から因縁めいた縁があると聞いていたけれどこんなところでもご縁が発動したらしい。
練習試合会場である体育館の前で待っていた赤いジャージの集団の中に、つい先日道端で出会った人がいた。

「研磨くんまで。音駒のバレー部だったんですね」
「そ、お世話になります」
「…ていうか練習試合の相手だって気付いてたんなら言ってくれたらいいのに」
「ビックリするかと思って?」
「なんですかそれ……」

黒尾さんと澤村がなんだか不穏な空気で挨拶を終えたあとに駆け寄るとしてやったり、という風に口角をあげた黒尾さんがこの前と同じように話してくれる。

「なまえさん、お知り合いっすか…?」
「日向くんが迷子になったとき、探してる途中で知り合ったの」
「な、ナンパ…!!」
「いや、ちげーから」

田中が恐る恐るという風に聞いてきたと思ったら、音駒の髪の毛が派手な子…研磨くんも派手だけど、それよりもさらにヤンキー感が強い子が衝撃を受けたように誤解を生むことを言った。
即座に黒尾くんが否定してくれたけれど、彼の耳には届いていないような気がする。

にぎやかな雰囲気のまま始まった練習試合は一試合ではみんなの気が済まなくて、体力の限界がくるまで続いた。
みんなが倒れ込んでいるところに冷えたタオルとドリンクを配りまわるのも三回目。
音駒のみなさんには「マネージャーがいるとこんなことが毎日…」と拝むように感謝されてしまった。
体育館の隅のほうに座っていた黒尾さんに渡したら、ちょっとここ座ってと体育館の床をぽんぽんと叩いた。

「いやーまじでいいな、マネージャー」
「マネいないと選手たちでやってるんですか?」
「そう。一年が持ち回りでやってる」
「そっか…練習時間が削られちゃうのはかわいそうですね」
「まーいないもんは仕方ねぇけど。てかいつまで敬語使ってんの?俺ら同い年よ」

初対面の時は絶対に年上だと思ったから敬語で話していて、切り替えるタイミングを逃していたら黒尾さんに突っ込まれてしまった。

「多分また練習試合やると思うし、堅苦しいの苦手だから敬語禁止で」
「…じゃあお言葉に甘えて」
「あと呼び方も。黒尾さんってむずがゆいからやめて」
「黒尾くん?」
「鉄朗くんでもいいよ」
「黒尾くんで。改めてよろしくね」
「…まーいいけど。こちらこそよろしく、みょうじちゃん」

また練習試合、組んでくれるのかな。
今までの二年間はやる気があっても空回りしてしまうこともあって、定期的に練習試合をしてくれていた学校からお断りされることもあった。
烏野との練習試合に割く時間はないと言われたようで悔しかった。
先輩たちはどこか諦めたような顔をしていたけれど、澤村たちはぐっと唇を噛みしめて何かに耐えているようだったことも覚えている。
音駒との練習試合が決まってから、烏養さんがコーチに来てくれることも決まったんだよなぁ。
そう思うとなんだか涙腺が緩んでしまって、じわっと込み上げるものがあった。

「え、何?なんで泣くの」
「泣いてない、…けどちょっと思うところがあって」
「なれなれしかった?」
「今更…?」
「えっ」
「違うの…あの、わざわざ宮城まで来てくれて、練習試合してくれて、ありがたいなって」
「何それ、みょうじちゃん涙腺やばいな」
「あは、うん。そうかも」
「タオル使う?めっちゃ汗ふいたけど」
「遠慮しておきます」



体育館の片付けを終えて、音駒のみなさんが帰り支度のために着替えをしている間に潔子に断ってロビーの自動販売機まで走った。
スポーツドリンクと迷ってお茶のボタンを押す。
走って戻るとちょうど選手陣が挨拶をしているところで、なんだか話しかけに行きにくい。
こんなことならもっと早く、試合が始まる前とかに渡せばよかった。

一通りの挨拶が終わったようで、外に待機していたバスにぞろぞろとみんなが移動する。
追いかけるようにして慌てて体育館シューズから外用のスニーカーにはきかえてひときわ目立つ黒髪の人を追いかけ名前を呼んだ。

「黒尾くん」
「ん?おーどした」
「これ、昨日のお返し」

差し出したペットボトルをぱちぱちと瞬きをして見つめた後に、目を細めて「律儀だね」と受け取ってくれる。

「サンキュー」
「こちらこそありがとう!またね」
「おう。っつーか…」
「うん?」
「携帯持ってる?今」
「持ってるけど、」
「貸して」

ポケットから取り出したら、黒尾くんが流れるような手つきでわたしの携帯を操作して連絡先欄に「黒尾鉄朗」の文字が追加された。

「メールして」
「え、うん」
「じゃあ、またねみょうじちゃん」
「うん。気を付けて帰ってね」

黒尾くんがバスに乗り込むと、先に乗っていた山本くんの「やっぱりナンパじゃないっすか!」という大きな声がバスの外まで聞こえてきた。

「…みょうじ、連絡しなくていいぞ」
「えっ」
「そうですよ!あんなナンパ野郎!」

澤村に後ろから肩を掴まれて振り向いたらみんな見ていて。
まぁこんなタイミングで飲み物を渡してしまったから仕方がないんだけど、まるでわたしが個人的に黒尾くんに差し入れをしたみたいに誤解をされそうで慌てて訂正を入れる。

「日向くん探してた時に喉乾いたって言ったら飲み物買ってくれて。それのお返ししただけだから!」
「そうなのか?日向」
「いや、俺は知らないです!」
「日向くんそこは嘘でもそうですって言うところだよ、嘘じゃないけど!」



(2020.10.02.)



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