5.GW合宿

練習試合でわかったこと。
落ちた強豪なんて言われているけれどうちはまだ飛べる。
青葉城西との練習試合はお互いにベストメンバーではなかったけれど、勝てたという事実はわたしたちの背中を力強く押してくれた。
部活謹慎処分を受けていた東峰と西谷が復帰して、部の空気は今までになく明るいものになっている。

「GW合宿も今年で最後かぁ」
「だなぁ。旭と西谷もやっと戻ってきたし今年も騒がしくなりそうだな」
「澤村に怒られないように見張ってなきゃ…」
「頼んだ」

青城との練習試合前にスガと二人で帰ってから、こうして二人で歩くことが増えた。
話題は来週に控えたGW合宿についてだった。

「今年は最終日に練習試合もあるし頑張ろうね」
「おう。なまえは今年はどうすんの?」
「そうだなぁ…最後だし泊まりたい気もするけど」
「清水は帰るって?」
「うん」
「そっか…俺としてはなまえも一緒にいてくれたら心強いんだけど」

心強い?と隣を歩くスガを見上げると、いつもみたいに人の良さそうな顔でにっこりと笑った。
マネージャーにとってそんな風に言ってもらえることがどれほど嬉しいことか、スガはわかっているんだろうか。

「まぁもし帰るっていうんなら送っていく係は俺だから。他の奴らに送られないでね」
「え、大丈夫だよ」
「でも心配だし」
「保護者ですか?」
「二人で話す時間があるなら俺がその時間もらいたいじゃん」
「…どうしたの、スガ今日ぐいぐい来るね」
「あはは、ぐいぐい。うん、そうかも」
「東峰が戻って来た時そんな仲良かった?ってビックリしてたよ、勘違いしないでって言っておいたけど」

なるべく重たく聞こえないように冗談に聞こえるように言ってみたけれど、スガは相変わらず笑いながら「勘違いでもないと思う」とかいうから返事に困る。
最近一緒にいる時間が前より増えたな、と思う。
元々バレー部は仲が良いしスガのことを特別気にかけているわけではない…とは言い切れないけれど、マネージャーとしてひいきはしていない。
だから部活中にどう、というよりも普段の学校生活でとか、部活の前後とか、そういう時に気が付いたらスガが隣にいる、みたいなことが増えたような気がしていたのだけど。
勘違いじゃなかったみたいだ。
わたしは何も言えずにスガの真意を読み取ろうと顔をジッと見る。

「この前、青城との練習試合の時に思ったんだよね。後悔したくないなって」
「…どういうこと?」
「今はまだ秘密」




青城との練習試合から帰る時。
見送りのために整列してくれた選手たちと別れてバスを停めてある校門へ向かうと及川がいた。
飛雄や日向くんをあおるためにわざわざ待っていたみたいで、しょうもないなぁと思いながらも及川らしくて。
みんなは怒っていたのにわたしは内心笑ってしまった。
さっき「またね」と言いながらもまるで今生の別れみたいなんて思ったのに、その数分後に顔を見ることになるというのはなんだか締まりがない。

「なまえ」
「及川、お疲れ」
「さっき聞き忘れたんだけど、」
「うん?

及川がわたしの耳元にそっと顔を寄せる。

「なまえの好きな人ってバレー部?」
「えっ」
「だって気になるじゃん。なまえは俺の好きな子が誰か知ってるのに不公平じゃない?」
「俺の好きな子って、」
「まぁなまえのことだけど」
「ちょっと及川!」

声を潜めていたのは最初だけで、会話の後半は周りにいたみんな聞こえてしまったんじゃないだろうか。
及川のジャージを引っ掴んで抗議を伝えるけれど、けらけらと笑っている及川は本当に性格が歪んでいると思う。

「で、どうなの?」
「言うわけないじゃん」
「それがもう答えみたいなもんってわかってる?」
「…もうやだ及川嫌い」
「え?!俺はこんなになまえのこと好きなのに!」
「そういうとこだよ、バカ及川!」

開き直るってそういうこと?
勘弁してほしい。
好意を向けられることは嬉しいけれど及川と違って慣れてないんだから。
おそるおそる振り向いた烏野の面々は、あっけにとられたようにぽかんとしていていたたまれなかった。

帰りのバスは練習試合の疲れでみんな爆睡していたけれど、通路を挟んで隣にいたスガは難しい顔でジッと窓の外を見ていた。
スガはあの時、何を考えていたんだろう。



「日向くんが迷子?もう〜探してきます!」
「悪い、頼んだ」
「自転車借りるね」
「おう、気を付けて。もし先に日向が戻ったら連絡する」

GW合宿、早速というかはじめっからてんやわんやで。
ロードワーク中に迷子になって行方不明の日向くんを探すべく自転車にまたがることになるなんて思っていなかった。
学校の周りを走っているはずなのにはぐれて戻ってこないってどういうことなの…?
念のため、ドリンクの入ったスクイズボトルを自転車のカゴに入れてペダルを踏み込んだ。

一旦通常のコースを走って探すけれど日向くんの姿はない。

「あのわんぱく少年め…どこまで行ったの……」

五月とはいえ昼間の気温はおそれなりに高い。
着ていたジャージの袖をまくって大きめの独り言を発してしまったのは周りに人がいないと思っていたからなのに、返事が返って来て肩が盛大に跳ねた。

「そっちも人探し?」
「っ、は、え?」

曲がり角からぬっとあらわれたのは背の高い黒髪の男性で、「でけー独り言っすね」と笑われた。
まさか誰かに聞かれるとは思っていなくてめちゃくちゃ恥ずかしい。

「オネーサン地元の人?」
「そう、ですけど」
「この写真の場所どこかわかる?俺の知り合いも迷子でさ」

そう言うとその人は携帯の画面をこちらに向けてくれて、並ぶと背の高さがすごくよくわかった。
普段から平均身長の高い人たちと一緒に過ごす時間は長いけれど、それにしても高いしガタイもいい。
何かスポーツをやってるんだろうな、とすぐに思ってしまうのはマネージャー歴がもう六年目だからだろうか。

「あ、ここ。一本向こうの道だと思います」
「まじか」
「ここらへんの人じゃないんですよね?案内しましょうか?」
「え、いいの?」
「はい、わたしも別の道探しに行くところだったんで」
「遠い目んなってるけど大丈夫?」
「迷子くんのために持ってきたドリンク飲んでやろうかと思い始めました」

お財布持ってくればよかった、こんなに迷子探索に時間がかかると思わなくて…と自転車のカゴを指さして言ったらぶはっとふきだすように笑われた。
初対面なのに不思議と話しやすい人だな。

「なんか飲む?自販機のでよければおごる」
「えっいやいや、いいですよ」
「見つける前にぶっ倒れますよ、今日あちーし。てか俺も喉乾いた」

近くの自動販売機にすたすたと歩いて行った背中を慌てて追いかける。
背が高いから足の長さも比例していて、わたしは自転車を引いているし追いつくのにもたついていたらさっさと小銭を投入してペットボトルのお水を買ってしまっていた。

「はい、どーぞ」
「…ありがとうございます、すみません」
「どういたしまして。オネーサン、バレー部なの?渋いジャージ着てんね」
「はい。バレー部のマネージャーです。確かに渋いかも…」

真っ黒な生地に白字で「烏野高校排球部」と書かれたジャージは男子には評判がいいけれどおしゃれでは決してない。
二年以上着ているから愛着もあるし気に入っているんだけれど、渋いと言われて確かにとうなずく。

「ふーん。男子バレー部?」
「はい。えっと、すみません名前…」
「ん?あー黒尾です。黒尾鉄朗」
「みょうじなまえです。黒尾さんもスポーツしてるんですか?」
「どう思う?」
「バスケ?…かバレーですか?背高いですね」
「うん。まぁ秘密だけど」
「え?!」
「俺秘密主義なもんで」

何ですかそれ…と思わずジト目で見てしまうけれど、買ってもらった飲み物を飲んでいる手前、変なことも言えず。
「そろそろ行きます?あっちの道です」と促すとのんびりとした動作でついてきてくれた。

「みょうじ先輩!」
「いた〜日向くん〜!なんでこんなとこにいるの?!めっちゃ探した!」
「すみません!!!」

結論から言うと黒尾さんの探し人と日向くんはなぜか一緒に路上に座り込んでいた。
…研磨と呼ばれていた男の子は金髪がプリンになっていて見た目は不良なの?という感じだったけれど挨拶をしようとしたら思い切り俯かれて目すら合わせてもらえなかった。

「日向くん、はい。ドリンク飲んで。飲んだら走って戻れる?わたし先導するから」
「はい!お願いします!」
「うん。じゃあ…黒尾さん飲み物ありがとうございました」
「いーえ、またね」
「?はい、また」

また、なんてあるのだろうか。
わたしとは話してくれなかった研磨くんも日向くんとは打ち解けたみたいで少し微笑みながら「またね」と言っていた。
日向くんと二人して首を傾げながらも急いで帰らないとまた澤村に怒られる。

自転車のカゴにスクイズボトルとペットボトルを入れて、高校までの道を急いで戻った。



(2020.09.05.)



黒尾さんでしゃばらせるの好きなんですよ……。




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