7.女神様の前髪

「次はデートにでも誘ったらどうですか」


マジバでバニラシェイクをすすりながら黒子っちがあまりにもさらっと言うものだから、実は黒子っちってめちゃくちゃ女性経験があるのではと思わされてしまう。
そのまま口に出したら「そんなわけないでしょう」と冷たい目を向けられた。

「練習試合もストバスも毎週できるわけじゃないんですよ」
「そうだよ!会いたいと思うならきーちゃんからガンガン行かないと!」
「確かに桃っちは黒子っちへのアピールブレないッスもんねぇ」
「え?やだなぁ、きーちゃんったら」

いや別に褒めてない…とは頬を染めている桃っちには言えない。

「デートって…どう誘えばいいんスかね」

我ながら弱々しい声が出た、と思ったらその場にいた黒子っちも桃っちも、青峰っちでさえハンバーガーを食べる手を止めてこっちを見るからいたたまれない。

「今までどうしてたんですか?」
「今まで?自分から誘ったことないッス」
「……聞いた僕がバカでした」
「テツくんはバカじゃないよ!」
「さつきはバカみてぇにうるせーけどな」
「大ちゃんは黙って食べてて」

俺の恋を心配して応援してくれているんだと思っていたけど、どうやらこれは半分は面白がっている。
まぁこうやってみんなで飯食うこと自体が楽しいからいいんスけど。
学校が違うから理由がないと会えない。
出会いも偶然で、友達になれたのは黒子っちのおかげ。
初めて恋をしたら何をどうすればいいとか順を追って誰か教えてほしい。
まさかこんなことで頭を悩ませる日が来るとは思わなかった。

「…デート……」
「おい黄瀬、顔面気持ち悪ぃことになってんぞ」
「青峰っちには言われたくないッス」
「あぁ?どういう意味だよ」
「てかいきなり誘ったらそれこそ気持ち悪いとか思われないッスかね?!」
「そんなこと思うような子ですか?」
「違うけど!」
「でしょう?戸惑うかもしれないですけど、好意を見せたら真剣に向き合ってくれると思いますよ」
「黒子っち〜…!」
「テツくんかっこいい……!」



みんなに励まされて(青峰っちにはディスられただけな気がする)意気込みだけらめちゃくちゃあったのに、一人になって風呂に入ってベッドの上で携帯の画面を見つめていたら勇気がだいぶしぼんでしまった。
マジバにいるときにメッセージ送っちゃえばよかった。
もういっそ黒子っちと住みたい。
そしたら二十四時間励ましてくれるのに。
とか言ったら全力で拒否されることはわかっている。

時計を見るともうすぐ日付が変わってしまいそうで、こんな時間に連絡したら迷惑だろうか。
もう寝てるかな、起こしたらどうしよう。
いろんなことに考えが巡ってしまって俺ってこういうとこほんっとA型だよな、とかどうでもいいことを思う。

うんうん唸りながらベッドに転がっていたら、メッセージの受信を知らせる音が鳴った。
桃っちから、この前のストバスメンバーへ一斉送信で写真が送られてきたみたいだ。
宛先にはもちろんみょうじさんも含まれていて、みょうじさんが写っている写真を探してしまう。

楽しそうでよかったと笑顔でバスケを見ている写真を見て思うけれど、その頭には高尾の貸したキャップが乗っかっていてなんか悔しい。
俺が帽子貸したかった。
スクロールしながら写真を確認していて、グループトークに一斉送信だったから自分が写っていない写真もけっこうあるけれど一枚の写真で手が止まる。
俺とみょうじさんが二人で話している写真。
何を話しているのかわからないけれど二人とも楽しそうに笑っていて、これを撮ってくれていた桃っちマジでグッジョブすぎる。

(…かわいいなー)

みょうじさんはコートのほうを向いているけれど、俺はみょうじさんのほうを向いている。
これ、見る人が見たら俺の気持ちなんてバレバレなんじゃないだろうか。
俺こんな顔してみょうじさんと話してるんだと思うと少し恥ずかしくなった。

前は話すときに緊張しすぎて…いや今も緊張はするんだけど、前は恥ずかしさが上回って冷たい態度を取ってしまっていて。
だけど客観的に見て今はそんなことないとわかってホッとする。
みょうじさんが海常生ならよかったのにと一瞬思ったけれど、多分海常生だったら親しくはならなかった。


会う方法…理由、口実。
なんでもいいから会いたいな、なんてこと女の子に思う日が来るなんて思わなかった。
うなりながら枕に顔をうずめて足をじたばたと動かすけれど感情のやり場がない。
人を好きになるってこんなに心臓がざわざわと落ち着かない気持ちになるんだな。

…今まで俺に告白してきてくれた子も、こういう気持ちになっていたんだろうか。
なかにはただのミーハー心でという子もいたと思う。
そういう子はなんとなくわかる。
だけど、真剣に伝えようとしてくれていた子もいた。
呼び出されてもラブレターをもらってもそれに真剣に向き合ったことは正直なくて、悪いことをしたなと今なら思える。
俺の何を見て知っているんだと捻くれた考え方しかできなかったけれど、その人の全部をわかっていなくてもこんなに好きだと思う気持ちがふくれていくんだと痛いほど実感してしまったからだ。

「会いたいな…」

ぽつりとこぼした独り言に自分で恥ずかしくなる。
黒子っちはあぁ言ってくれたけれど、いきなりデートになんて誘えるわけがない。
前に誠凛との練習試合の時に二人で帰れたのって今思うと奇跡だったんじゃないだろうか。
手の中にある携帯のメール作成画面は真っ白のままで何も打てない。
直接の方がまだ誘える気がする、って俺まじでめちゃくちゃ情けないな。
高尾とかこういうの悩まずにぐいぐい誘ってアピールしまくれるんだろうなとストバスの時のことを思い出してまたため息が出た。




『きーちゃん、テツくん!来月の土日で空いてる日ない?なまえちゃんと映画行くんだけど一緒にどうかな?』

そんな連絡がきたのはストバスから二週間が経った頃で、みょうじさんとはメッセージのやりとりすらできないまま過ごしていた俺には女神のオボシメシか何かかと思った。
宛先には俺と黒子っち、それからみょうじさんも入っていて、勢いのまま「桃っちありがとう絶対行く予定はこじあける!」と打ってから冷静になって慌てて消した。
こんな文章みょうじさんに読まれたら引かれる気しかしない。

一旦深呼吸をして部活のスケジュールを確認してから返事を打つ。
土日も部活はあるけれど一日中というわけではないから、午前中だけで終わる日を書いて送ると黒子っちからもすぐに返事が来てあっという間に映画に行く日は決まった。
みょうじさんは帰宅部らしいけど、休みの日って何してるんだろう。
今度会えたらそういう話もしたい。
映画観たら夜ご飯とかすんのかな、みょうじさん食べ物は何が好きなんだろう。


……ていうか、これってダブルデートじゃないッスか?




(2020.09.01.)



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