2.練習試合

青葉城西との練習試合、思うところがないわけではない。
むしろありすぎる。
セッターに飛雄を指名したって、これは主将の意向なのだろうか。
さすがにそこまでの権限はないかな…ということは監督かコーチか、と考えたって仕方がないことに移動のバスの中は思考が停止されてしまいそうで、潔子との雑談で気を紛らわす。
当日になってしまったのだから練習試合が円滑に行われるよう、有意義なものにできるようにマネージャーである自分にできることをするしかない。

青葉城西の体育館に辿り着いて、くつを脱いで中に入った。
全員で横並びに並んで挨拶をすると青城バレー部の面々が一斉にこちらを向いて同じように挨拶を返してくれて、体育館の中を不自然じゃない程度に見回す。
何人かの選手と目が合って、見知った顔の一人が大股で近寄ってきた。

「みょうじ」
「岩ちゃん!久しぶり」
「あぁ、元気か」
「元気だよ、岩ちゃん大きくなったねぇ」
「まー中学ん時よりはな」

北一バレー部で一緒だった岩ちゃん、会うのは卒業以来だった。
烏野と青城が試合で当たることは今までなくて、会場がかぶることもなかったから姿を見ることもないまま二年も経ってしまっていた。

「今日はよろしくお願いします」
「おう。設備の案内は一年がしてくれるからなんでも聞いてくれ」
「ありがとう。こちらうちの主将の、」
「澤村です。よろしくお願いします」
「副主将の岩泉です。今日はお願いします」

あれ、こういう挨拶って主将が来るはずなのに…と首を傾げていたら一年生だという子が「早速ご案内してもいいですか?」と聞いてくれてドリンクを作る道具を持って後をついていった。



「みょうじ先輩」
「わ、わー!国見ちゃんと金田一くんだ!」
「お久しぶりです」
「大きくなったねーむきむきじゃん!金田一くんは!」
「え、」
「国見ちゃんはもう少し成長の余地がありそう」
「……頑張ります」
「うそうそ、バレーに必要な筋肉が綺麗についてる感じする。二人とも頑張ってるんだね」

わたしが三年生の時の、一年生。
中学に入学したての二人はこの間までランドセルを背負っていたとは思えないくらい背は高かったけれど、身体つきはまだまだ子供だった。
それがこんなに大きくなって…二年会っていなかったマネージャーの先輩に律儀に挨拶に来てくれるあたりも嬉しくて飛び跳ねんばかりに喜んでしまった。

「ドリンク作ってたんですか」
「うん。あと運ぶだけ」
「持ちます」
「えっいいよ!これから試合だし…二人ともさっきアップしてたから出るかもしれないんでしょ?」

一通りの場所を説明してくれた一年生くんはもう体育館に戻っていて、ひとりで黙々と作業をしていたら二人が話しかけてきてくれた。
手伝いの申し出はありがたいけれどこれはマネージャーの仕事だ。

「ドリンク持つくらいアップにもならないです」

有無を言わさない雰囲気の二人に推される形で結局重いドリンクの入ったカゴとジャグを持ってもらってしまった。

「ありがとう」
「全然です!」
「みょうじ先輩、烏野だったんですね」
「うん。二人は推薦で入ったの?」

わたしの問いかけに二人とも「はい」と頷く。
推薦組とはいえ一年生のこの時期に強豪校でレギュラーに食い込んでいるなんてすごいことだ。

「そっか。楽しい?部活」
「はい!」
「朝練は眠いです」
「あはは、二人とも相変わらずだね」

即答してくれる素直な金田一くんに、無気力に見える国見ちゃん。
二人がどんなバレーをしているのかスパイクを打つのか、二人にトスをあげる彼は今バレーを楽しめているのか。
結局思考が行きつくところはひとつだなぁと内心で苦笑いだった。

二人は烏野ベンチまでしっかりドリンクを運んでくれて、潔子にお礼を言われた金田一くんが顔を真っ赤にさせたものだから田中がメンチを切りそうになってそれを止めるのにまたひと騒動あった。
顔色を変えない国見ちゃんはやっぱり相変わらずだったけれど。

懐かしい再会を果たしても練習試合は真剣勝負だった。
スガはコートの外から誰よりも声を出していて、飛雄のセットアップは今日も目を見張るものがある。
金田一くんや国見ちゃんと何かあったみたいな雰囲気は気になったけれど試合は進んで最終セット。

ずっと何か考えているような表情だった飛雄が口を開いた。

「向こうのセッター、正セッターじゃないです」

思い浮かべた相手はきっと飛雄と同じ人物。
今コートに入っているセッターの子は見覚えのない子で、どうやら二年生らしい。
練習試合とはいえ青城で試合に出してもらえているのだから実力はある選手だろうけれど、正セッターが入ったらチームの威力はきっとこんなものではないはずだ。

誰よりも目立つ彼の姿が体育館にないことは最初から気が付いていた、
岩ちゃんが副首相なのに挨拶をしにきたということは、主将は今日不在にしているんだろうということもわかった。
中学の時も絶対的なチームの支柱だった人。
誰よりも苦しいくらいにバレーが好きで、それに押しつぶされそうになっていた人。


試合も終盤に差し掛かっているというのに呑気に登場したのは、二年ぶりに会っても人をおちょくるように話すその人で。
彼がいるだけでその場の空気がきらめくような気がしてしまう。

及川徹は、どこにいても人を惹きつける。



(2020.08.19.)



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