愛を歌う

「あれ、翔ちゃんネイル変えた?」

珍しく2人とも夜、仕事が早く終わって家で食事をして、お茶を飲みながらテレビを見ていたらなまえが俺の手を取りながら言った。

「え?あぁ、今日雑誌の撮影でさ。メイクさんが整えて塗り直してくれたんだ。大して変わってないのによく気付いたな」

俺のネイルはいつも同じ、黒の単色ネイル。
黒だからこそ剥げると目立つからこまめにケアするようにしているけれど、塗り直したことに気が付かれることなんて滅多にない。

「今朝出かけるときにちょっと伸びたなってわたしも思ってたから…」
「ふーん、女の人ってよく気付くんだなぁ」

気を付けねぇとなとつぶやいたら、隣から返事が返ってこなかった。

「なまえ?」
「ん?」
「どうした?疲れたんならもう寝るか?」
「あーうん、疲れたっていうか…うん、」
「どした?」

歯切れの悪いなまえの頭をぽんっと撫でながら顔を覗きこむ。

「……なんでもないです」

子供みたいに唇をつんっとさせていかにも不満ですって顔しといてそりゃないだろ。

「おーい?なまえ―?」

繋いだままの手をくいっと引っ張って、何度か呼びかけたら「今日のメイクさん、女の人だったんだね」とぼそっと小さくつぶやいた。

「…妬いてんの?」
「妬いてます」

「お、素直じゃん」と言うとさらに「ふんっ」と顔を横にそむけてそっぽを向いてしまった。

「別に、他の人にお直しされるのなんて撮影のためだったら仕方ないもん」

それが女の人だからっていちいち気にしてたらきりないよ、と自分に言い聞かせるようにぶつぶつ言っているけれど、繋いだ手にはきゅっと力が込められる。

俺よりも一回り小さいなまえの手を、握り直して指を絡める。
なまえの肩がぴくっと動いたのを見逃さない。
その小さい肩をぐっと引き寄せて、なまえの頭が俺の肩にちょこんっともたれかかったら、機嫌が治りはじめた合図。

「ごめんな」
「…いいよ」

気にしないです、とようやくこっちを向いてくれた。

「こんなことで拗ねるなんて、めんどくさいって思う…?」
「思わねぇよ」

ごめんねと今度はなまえが謝る。

「俺だって、テレビに映るなまえが綺麗だと嬉しいけどさ、ヘアメイクって男多いから…この撮影のスタッフ誰だったのかなって気になるときある」

情けねぇだろ、と苦笑いしたら「似た者同士だね」となまえが笑う。

「翔ちゃんの手、好きだなぁ」

繋いだままの俺の手をまじまじと見つめながら、反対の手で手の甲を撫でられた。

「男の人にしては小さいけど、ちゃんとゴツゴツしてて骨ばってて、でも優しくて」
「手だけかよ…あと小さいは余計だ」

あはは、と笑いながら体全体を俺に預けてきたなまえの腰をぐっと引き寄せると勢い余ってなまえをソファに押し倒してしまった。

「わ、ごめんね」

すぐに起き上がろうとしたなまえの肩をぐいっと押し返す。
きょとん、としている無防備な頬にちゅっと唇を落とすと、「なっなに、」とうろたえるからいい加減慣れろよ…と思いながらも、いつまでも初心な反応を示すとこも好きだな、なんて、ほんとに情けない。

「かわいいなと思って」
「毎日会ってるのになにをいまさら…」
「好きなんだからかわいいと思うの当然だろ」

また照れ隠しの批判の言葉が返って来そうだったから、ついばむようなキスで口をふさぐ。

「お前かわいいし、ぼけっとしてるし、変な奴に引っかかんねーか不安」
「引っかかるって…翔ちゃんと付き合ってるのに、」
「そんなの関係ねーって奴もいんだよ」

男って馬鹿だから、と付け加えると「翔ちゃんも?」と予想外の返事。

「は?」
「翔ちゃんも、わたしと付き合ってても他の人にふらーっと行ったりする?」
そもそも話が違う気がしたけれど、さっきの今で、適当な返事はしちゃいけないなって感じた。

「んなわけねーだろ」

抑えたなまえの華奢な手首に、痛くない程度に力を込める。

「こんなに好きなのに」

テレビに映る華やかな姿はもちろんだけど、真剣に打ち合わせに取り組むとこも、家で化粧落として完全にオフモードの無防備な恰好で甘えてくるときも、全部かわいい。
こんなにお前のことしか見てないのに、他の女になんか。

「わたしだって、そうだよ」

抑えていないほうの手が、俺の首をぐっと引き寄せるとちゅっとかわいらしいキスをされた。

「翔ちゃんのことこんなに好きなのに、こんなにかっこよくて想ってくれる彼氏がいるのに、他の男の人になんて引っかかんないよ」

ずっと一緒にいるから、かっこ悪いとこも情けないとこも全部見られてる。
高所恐怖症なこと、女装させられてたこと、体が弱いこと、全部知られてる。
それでもかっこいいって、好きだって言ってくれる。
だから俺はお前のために強くなりたいって思うんだ。

「ん、サンキュ」

軽めのキスを落とす。
そのままじゃれ合うように抱き合って、朝が来るまで離してなんかやらない。

些細なことで妬いた夜は、愛を確かめ合うように言葉を交わして、想いを伝えて、体温を分け合って眠ろう。

まだ見ない明日へと、一緒に行こう。
この小さい右手をとって。



(2013.05.04.)



2000% idol song リリース記念その一。
翔ちゃんソロシングル発売おめでとう記念!

「TRUE WING」いいですね…大好き。
翔ちゃんに翼を与えたのは音楽で、春ちゃんで、ST☆RISHのみんな。
アニメ3話と一緒に聴くとより良いです。
ちっちゃいのに男気全開!な翔ちゃん大好きです。




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