インスタント・ランデブー 2

「凛先輩!」
「おーおかえり」
「ただいま戻りました」

部屋でくつろいでいたら勢いよく扉が開いた。
同部屋の愛一郎は「ってそうじゃなくて」とやっぱり勢いよく話しを続ける。
おかえり、ただいまにそうじゃないも何もないだろと思うけれど愛はいつもこんな調子だ。

「どうでしたか?みょうじさんと!」
「どうって。駅まで送って解散した」
「え?それだけですか?」
「それだけってなんだよ」
「次会う約束とか」
「してない」
「連絡先の交換とか!」
「してない」

えぇー?!と大袈裟なリアクションもいつものことだ。
俺が合コンに乗り気じゃないことはわかっていたくせに一緒に帰っただけの女子とどうこうなると思っていたんだろうか。

「二人で抜けるなんて絶対何か起きてるって思うじゃないですか!」
「はいはい。愛は?良いと思う子いたのか」

話題を変えないといつまでも問いただされそうだから話をそらす。
掘られたところで何もないのだから仕方ない。

「ひとまず残ってたみんなはそれぞれ連絡先交換しましたよ」
「おーよかったじゃねぇか」
「けど美波くんはみょうじさん気になってたみたいです」

まじか。
顔がタイプだったらしいですよと愛が上着を脱ぎながら言う。

「凛先輩にとられたら仕方ないって帰り道で泣いてました」
「いや、まじでそういうんじゃねぇから」
「じゃあ誰か伝いで連絡先聞いても大丈夫かもって美波くんに教えてあげますね」

別にいい。
全然いい。
美波が水泳をおろそかにしないのであれば彼女を作ろうが好きにすればいい。
けれど結局そのあと美波が誰かと付き合うことになったという話を聞くことはなかった。



文化祭が近くなり鮫柄学園はいつもよりも活気づいていた。
水泳部も催しがあるから持ち回りで事前準備を行なっていて、俺も愛と並んで備品を運んでいるところだった。

「あれ、美波くん……と女の子が話してます」
「は?」
「紫乃学園の制服ですよね」

紫乃学園と聞いて浮かんだのはこの前の合コンで会ったみょうじさんで、今の今まで思い出すこともなかったのに我ながら不思議だ。
愛の視線のほうに目をやる。
美波が俺たちに気付いて、女子に何か言うと後ろを向いていたその子がこちらを振り向いた。
それが見覚えのある顔で、俺よりも先に愛が「あっ」と声を上げた。

「この前の……名前なんでしたっけ、食事会の子ですよね」
「みょうじさんだろ」
「そうだみょうじさん!凛先輩と帰った子!」

美波が軽く手をあげて、みょうじさんが会釈をした。

「なんで鮫柄に……」
「紫乃学ってうちの文化祭で毎年何かしてたような」
「あーそういや生徒会って言ってたな」
「みょうじさんですか?」
「そう」
「じゃあそれで来てるんですね。でもなんで美波くんと…連絡取ってるのかな」
「さぁな。てか俺らも仕事すんぞ」
「せっかくだから挨拶しましょうよ」
「は?」
「みょうじさんと」

おい、と止める間もなく愛がふたりのところに行ってしまうから仕方なくついていく。
なんの話をしていたのか知らないけれどなぜか気まずくて「お久しぶりです」と朗らかに挨拶をする愛に続けて軽く会釈をした。

「文化祭の用事とかですか?」
「そうなんです。生徒会がご招待いただくので打ち合わせに」
「そうなんですね!文化祭、水泳部は喫茶店やるのでよかったら来てください」
「おい」

喫茶店と言ってもただの喫茶店ではないのに気軽に誘うな。
思わず間に入ると「松岡さんも参加するんですね」と視線が向けられた。

「はい、まぁ」
「立ち寄れたら行きますね」

いや来なくていい、なんてことは言えずに曖昧に頷いた。



「美波くん、なんで今日みょうじさんといたの?」

文化祭の準備と部活を終え寮の食堂で飯を食っていたら同じテーブルに愛が座って、美波と岩清水もトレーを持ってやってきた。
不意に尋ねた愛の言葉に箸を持つ手が止まる。

「………」
「あぁみょうじさん?今日も可愛かったな」
「は?お前会ったのかよ、てか連絡取ってんのかよ!」
「連絡は返ってこなくなった」
「お、おぉ?」
「今日鮫柄にいたんだよ、なんか生徒会の用事とかで」
「みょうじさん生徒会なのか、しっかりしてそうだもんな」
「だよな。たまたま中庭にいたときに会えただけなんだけど運命かと思ったわ」

事情を知らないはずの岩清水と美波の会話がぽんぽん進んでとりあえず二人が会ったのは偶然だということはわかった。

「近くに紫乃学の他の子もいて紹介してもらったからまた合コンしましょうよ松岡先輩!」
「美波、お前懲りねぇな……」
「懲りるも何も嫌な目にあったとかじゃなくシンプルにみょうじさんには相手にされなかっただけですからね」
「美波くん潔く自虐するね」
「男子校にいたらあれくらいで凹んでられないのだよ、似鳥くん」

というわけで文化祭終わったらまた合コン組むんで日程教えてください、と言う美波の練習メニューを増やすかと心の中で溜息をついた。



(2023.01.23)



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