だって特別だから

※STYLE FIVE の松岡凛です。泳ぎません。
なんでも許せる方向け。



「続いてはお忍び潜入企画です!」
「今回は俺が行ってきました」
「凛ちゃん、どこ行ったの?」

最近始まったSTYLE FIVEの冠番組の収録、怜がカンペを読んで俺が手を挙げたら渚が身を乗り出した。

「ハルと真琴は知ってるよな」
「うん、まぁVTR見てもらおうよ」
「凛のアイデンティティは髪と口元だってことがよくわかる」
「えっなにそれどういうこと〜?」
「ではVTRふり、凛さんお願いします!」

ハルの言葉にツッコミたくなるけれど事実そうだったのだから仕方がない。
VTRを見ながら俺もその日のことを思い出す。




ロケ当日は快晴だった。
撮影場所は都内にある小さなホールで、夜から真琴とハルがラジオの公開収録を行うことになっている。
ビルの外にはグッズ販売の開始を待つファンが列を作っていた。

「えー…今日は、え?まじで言ってます?」

出されたカンペを読み上げようとして聞くと、カメラの奥にいるスタッフたちは一様にニヤつきながら頷いた。
「いやいやさすがに」と言ったらADが「自信ないんですか?」とあおってくるからその流れに乗っかる。

「は?いや速攻で気付かれるわ。あー説明すると、今日開催の真琴とハルのイベントに俺がグッズ販売スタッフとして潜り込みます」

出された文字をそのまま読む。
棒読みっつーか不満があるとわかるように気怠げに読んだのはわざとだ。

「それでファンのみんなに気付かれたらアウト。なんだよアウトって」

変装しようがさすがにすぐにバレる、間違いなく。
俺が出演しないイベントだからって来る客は真琴とハルのファンで、ほとんどがSTYLE FIVEを応援してくれているはず。
だったら俺のことも認知してくれてんだろ。



「……はい、着替えました」

用意されていたスタッフパーカーとウィンドブレーカーみてぇなアウターを着てキャップを被った。
口元にはマスク。
目しか出ていないけれど喋ったらバレる気しかしない…と思っていたら売り場に向かう前に伊達メガネを渡された。

「らっしゃいませ」
「遙くんのブロマイド全種類と、遙くん真琴くんのツーショ全種類と、」

物販のスタッフから説明を聞いていざ本番。
みんな買うものは決めているようでスラスラと商品名を言われる。
慣れるまではベテランのスタッフと一緒に入っていて、テキパキと対応しているのを横目に俺も商品を揃える。
あっというまに会計を済ませていたけれど少し手間取ってしまって悔しい。

「……物販スタッフさんすげーっすね」
「慣れです!松岡さんも頑張りましょう!」
「っす」

そのあとは目まぐるしいほどに途切れずファンの人がやってくる。
この人たちみんなハルと真琴のファンなんだな。
こういう人たちに俺らは支えてもらってんだなぁと実感がわく。

だいぶ慣れて一人で任されるようになった頃。
次の方どうぞ、と手を挙げると早足で女性ファンが俺の前に来た。
さっきまでとなんら変わらない光景。

「お待たせしました」
「いえ、えっと…」

携帯のメモを見ながら希望の商品を読み上げているようだ。
友達のぶんも買い物を頼まれている人はこういうこともよくあるらしい。
目線を伏せている表情になんだか見覚えがあるような気がして、ジッと見る。
その間に言われたグッズは用意することも忘れずに。

「以上で!」
「はい……、あ」

伝えきったらしくパッと顔を上げたその子と目が合って思わず「あ」と声に出してしまった。
知っている顔だったからだ。
やべーここカットしてくれって言わねぇと。

「……?」
「…あー、すみません。商品用意しますのでお待ちください」
「はい」

なんでここにいんだ、と聞きたいけれど隣の列には他の客がいるし胸元にこっそりつけたマイクの向こう側では番組のスタッフが聞いている。
動揺を悟られないように商品を用意して、会計を済ませる。

「ありがとうございました」

さっきまでよりも丁寧に言うと、目をパチリとさせてほわっと笑顔が返ってきた。
……こいつ。
いつも握手会では俺んとこ来てたのに。
名前も顔も覚えてしまったファン。
こっちは気付いたのに、そっちは俺だって気付かねぇのかよ。
マスクに眼鏡に帽子と隠せるところは全て隠しているけれど正面から顔を見て声も聞いているのに。
しかもハルと真琴のイベントの物販って。
STYLE FIVE箱推し全員好きって人も一定数いることは知っているけれど、俺の知る限りあいつは俺の握手会のレーンにしか並んだことがないはずだ。

ロケはそこで終わりで、俺はインカムから聞こえたスタッフの「撤収してください」の声に従いバックヤードに引っ込んだけれどモヤついた気持ちのまま締めのトークを録った。
スタジオでその様子を観て他のメンバーと「案外気付かれないもんだな」「オーラがないからだ」とかそんな話で終わるはずが、VTRは俺のトークで終わらずに続きがあった。

カメラを持ったスタッフがグッズを買い終えた人にインタビューをしていたらしい。
呼び止められたのは俺のファン……のはずであるさっきの女の子、なまえだ。
俺が知らないVTRが流れて思わず黙る。
にこやかに対応している様子を見てやっぱり間違いなく俺が認識しているあいつだと確信ができてしまって妙にそわついた。

「すみません、ちょっとお話いいですか?」
「はい?」
「グッズ買われてましたけど何買ったんですか?」
「遙くんと真琴くんのグッズ…ほとんど全部買いました。友達に頼まれて」
「あっお姉さんのじゃないんですね」
「はい、物販来れない友達のお使いで。わたしはイベントも入らないんです」
「そうなんですね。お姉さんはSTYLE FIVEのファンではないんですか?」
「え!めちゃくちゃファンです!」
「あ、七瀬さんと橘さん以外の」
「はい、松岡くんが好きで…もちろん五人まとめて大好きなんですけど」
「松岡さん!じゃあさっき何か変だなって思うことなかったですか?」

スタッフの半笑いの表情が目に浮かぶ。
スタジオにいるメンバーやディレクター陣もニヤついていて俺は居心地が悪い。
自分のファンだと言ってくれているのに面と向かって対応しても気付かれなかったんだ、それなりにショックである。
てか普段は「凛くん」と呼ぶくせになんだ「松岡くん」って他人行儀か。
いや、まぁ他人と言えば他人だけど。
いつもより距離を感じてしまうなんて、ファンに思うことじゃない。

「さっき……あの、やっぱりさっきの物販スタッフさんて松岡くんでしたよね?」

スタッフが笑ってるのはともかくなんでこいつまで笑いを堪えてるんだ。
てか気付いてたなら声かけろよ、無駄に傷付いたわ。

「言わないほうがいいんだろうなってスルーしたんですけど」
「気付いてたのにどうして声かけなかったんですか?」
「だって何か番組の企画とかなのかなって。声かけちゃったらそこでコーナー終わりとか……」
「お姉さんめちゃくちゃわかってますね」
「あっ当たりでしたか?」

当たりも大当たりだ。

「物販に潜入という企画で。どのあたりで気付いてたんですか?」
「並んでる時からなんかスタイル良い人いるなって思ってて」
「じゃあ最初から?」
「第一声聞いて、あれ?って。そのあとなんか顔見にくくてすっごいドキドキしました」

……なんだそれ。
お互いに最初から気付いてたっつーことかよ。
てかバレようがバレまいがどうせこいつの対応で最後だったなら声をかけられたかった。
「なんでハルと真琴のイベント来てんだよ」と直接言ったらどんな反応をされたんだろう。

「松岡さんに何か言いたいことがあればぜひ」
「えっ言いたいこと…」
「なんでもいいですよ」

えー…とほんの一瞬だけ考える素振りをした後にカメラ目線ではなくスタッフのほうを見ながら言う。

「…凛くん顔のパーツ全部隠しても隠しきれないオーラがあったから変装するときは気をつけてね、とか?」

………最後の最後にいつものように名前を呼ばれてはにかみながらそんなことを言われるなんて思わなかった。
実際のオンエアでどこまで放送されるかわからないけれど俺がなまえに気付いたときの表情も今の反応も絶対にカットしてほしい。

「はい!というわけで結局バレバレな凛ちゃんのVTRでした〜!」
「実はこの方以外にも凛さんだと気付いてた方はいたそうですよ」
「は?まじかよ……」
「凛、全然気付かれなかったってちょっと落ち込んでたからよかったね」
「いや落ち込んでねーし!」
「俺と真琴の楽屋来たときに気付かれないもんだなって言ってただろ。黙ってくれてただけでよかったな」
「そうなんだけど腹立つのなんでだろうな」

直接ファンと話す機会があるってすげぇありがたいし、今回ハルと真琴のイベント物販に立ってみてファンの子たちが何時間も前からイベント会場に来てどんだけ楽しみにしてくれているかを肌で感じることができた。
ファンあっての俺たちだ。
支えられてんなぁ。
今度なまえが握手会に来てくれたらこのことを俺から話そうと心に決めた。
かなり照れくさいけれど、きっと言われたほうも恥ずかしそうにはにかんでくれると思う。



(2021.12.12)
初凛ちゃんでした。
泳いでる凛ちゃんとの恋愛も書いてみたいです。


(2022.06.05)
拍手再掲



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