つまみ食い


ねぇ、疲れてしまったんだ。
ちょっとくらい良いだろう?
…意地悪。

「はぁ…」
「さっきから何度目の溜め息よ、それ」

愛しの君はソファーでごろごろ。
私は机の上に山積みになった書類たちを見て、盛大に溜め息をついた。

「やる気ねぇなぁ」
「その通り」
「仕事でしょーが。ちゃんとやれって」

今日に限って真面目な彼は、何でもないような態度で言い放った。
いつもは私の仕事の邪魔ばかりするくせに。

「はぁ…」

つまらないし、疲れたのだ。
こんなになるまで放っておいた私に非があるのは勿論なのだが、それでも随分減ってこれなのだ。
溜め息の多さに呆れて、彼は上半身を上げて言った。

「左の。そう、それ。終わったらキスしてやる」

「右のが終わったら舌も入れていいぜ」

セッツァーはゆっくりソファーから降りて、こちらに近付いてきた。

「…もし今日までに」

「コレ、全部片付けたら」

誘うようにアメジストの瞳が光った。

「俺を好きなように抱けばいい」


そこまで煽られたらやってやるしかなく、私は再び書類に目を通し始める。
が、セッツァーが机に寄り掛かって私を見ている。
目を細めた妖しい笑みで。

「…早くやんないと終わんないぜ?」
「だったらもう少し離れなさい」
「俺の艇だもん。何処に居たっていーでしょーが」

こんな時に所有権を出してくるなよ!

「はぁ…」

結局、私はまた溜め息をついてしまった。
それでも渋々仕事を続ける。
なのに…

「陛下って手ぇ綺麗だよねェ」
「なんだい。話し掛けるなよ」
「まあ、冷たいじゃないの」

机にちょこんと顎を乗せて、上目使いで話しかけてくる。
止めてくれ。気が散るだろう!

「頑張って〜」

言われなくとも必死に頑張っているではないか。

「そぅいえば、今日の食事当番俺なんだけど、何食べたい?」

あーもう!うるさい!
構って欲しいならそう言えばいいだろう。
全く、何処まで不器用なんだ君は!

「…セツ」
「ん?」
「セッツァーが、食べたい」

不器用で意地っ張りな口が悪口雑言を喚く前に、私はその薄い唇を塞いだ。

「…!?」

無理矢理舌を絡めれば彼は抵抗を止め、すっぽり私の腕の中。
暫くその感触を楽しんで、ちゅっと唇を離してやれば、セッツァーは呆れたように呟いた。

「…つまみ食い禁止」
「君が誘ったんじゃないか」

疲れたんだ。
もう少し良いだろう?

「だめ。終わってから」
「…意地悪」

つまみ食いも一興だけど、美味しいモノは最後まで取っておくことにする。
ご馳走は逃げないよ。我慢して、我慢して。

戴きましょう。

END.


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