星播きソノリティ
「夢の中でも一緒に居たい」
なんて我が儘は言いませんので。
歌うは、君を守る歌。
おやすみ。良い夢を。
「セッツァー?」
さっきから頻繁に行われている彼の寝返り。
銀髪が波打っては音を立てる。
「眠れないの?」
「…寝ないだけ」
問えば、おかしな返答。
なんという捻くれ者だろう。
先にベッドに入ったのは誰だと思っているのだか。
緩みかけた口元を戻し(笑えば彼が不機嫌になるのは目に見えている)、あくまで疑問を持っているだけのふりをする。
「何の為に?」
「…うっさいな」
フィガロ城、天蓋付きダブルベッドの上。
広いからか、砂漠の夜だからか。
「寒いのかい?」
「あーもう!俺に構わないでよっ」
体裁が悪いのか、セッツァーはぐいぐいと羽毛布団を引っ張り、頭から潜る。
その姿にますます笑いが込み上げてくる。
「羊、数えてあげようか」
「結構です」
ぴしゃり。
「じゃ、子守唄、歌ってあげようか」
「…人のこと馬鹿にしてんの?」
ひょこり。
セッツァーは布団から顔を出し、寝返りを打つ。呆れたような視線が飛んでくる。
まあまあ、そう言わず。
ベッドから出て淵に腰掛けると、エドガーは布団を掛け直してやった。
「寒いなら抱き締めてあげるのに」
「こっちから願い下げ」
「曲のリクエストは?」
「聞こえない聞こえない」
「…なんで耳塞ぐんだい」
「アンタの歌でなんか寝たら末代までの恥よ」
「そこまで言わなくてもいいじゃないか。つれないなぁ」
苦笑して、セッツァーの髪を梳いた。
「すいませんねェ…」
セッツァーは白いシーツの上に広がった自分の銀髪を眺めた。謝る気など更々無い。
そもそも、こうやって拒絶してもこの王様は全てわかったように飲み込んでしまう。
だから敢えての抵抗だった。
軽くも落ち着きのある低音は、さながら流れ星。
一瞬で消えてしまうので、耳が余韻を探す。
「じゃあ、私の十八番を…」
「あぁもう、勝手に歌えば良いじゃないの」
「ねーむれーねーむれー」
「ウザい」
エドガーはあからさまに不機嫌そうなセッツァーに笑いかけた。
「嘘。ちゃんと歌うから目、閉じて?」
「なんでアンタの自己満足に付き合わなきゃなんねえの」
渋々と目を瞑る。
セッツァーは何時まで経っても身体に馴染んでくれない布団の温度を疎ましく思いながら、ため息をついた。
その声を聞きつつ、睡魔は来るのか来ないのか。
反応が鈍くなっていく身体が睡眠を求めているのだと、意固地になったセッツァーは知る由もなかった。
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