おやすみなさい


ねぇ、もし。
アタシが明日死んじゃったら、どうする?



「は?」

俺は火を付けたばかりの煙草を落とした。
慌てて拾い上げる。

「いきなり何言い出すんだよ…」

ダリルらしくない。
言うと、ダリルは笑った。

「アタシらしくない、ねェ…」



「アタシらしくない、か」

言葉を反復する。
口の端を上げて。
紅いルージュが、上弦の月。

「何ニヤニヤ笑ってんの?」
「別にィ〜」
「気持ち悪いなっ」

俺はよくわからないが、馬鹿にされたような気がして、拗ねて煙草の煙を吸い込む。
ぺたぺたと触れるダリルの手。

「なんだよ!」
「なァに怒ってんのー」

今日のダリルは変だ。
いや、前言撤回。
ダリルはいつだってヘンだ。

「たまにはおネエさんと遊びましょー」
「ぎゃー、喰われるっ」
「…アンタみたいなガキ、食べても美味しくないわよ」

ソレはソレで…ムカつく。

「ダリル…どうしたの?」

ちょっと真剣に聞いてみる。
ダリルの様子があまりに変だから、俺の調子まで狂ってしまう。
二人じゃないと均衡が保てない。

「…何でもないわ」
「嘘」
「アンタに言ったって、わかんないわよ」
「なんだよソレ…」

はいはい、どうせ、ダリルお姉様から見たらガキですよー。

「そうそう、ガキなのよ」
「ダリル…俺に喧嘩売ってんの?」

イチゴのショートケーキ。
どこか脂味、生クリーム。

ダリルは勝手に人のケーキのイチゴを奪って当たり前のように、食べた。

「あ、何すんだよ」
「アンタには、わかんない」
「意味わかんねぇよ!」

そんなケチなコト言ってたらイイ男になれないわよー。
ダリルは飄々と言ってのける。
さっきから笑ってばっかりだ。
俺は、怒ってばっかりだ。

「…眠りの時間が、決まってたら良いのにね」
「はぁ?」
「そしたら、誰も欲張らないし、哀しまないし、納得もするでしょうに」
「はぁぁ?」

ダリルの意図がさっぱりわからない。
眉間にシワを寄せながら、もう一本煙草を取り出す。
火を付ける、一瞬、ライターの香り。

「きっとアタシは夜遊びするから、アンタに会えないでしょうねェ」

するり、ダリルの腕がケーキに伸びる。
あ、俺のケーキ。

ぱくり。

ひとかけら、持っていかれた。
皿の上、ケーキは歪になって倒れた。

非難のひとつでも言ってやろうかと煙草を離した瞬間、甘い味が口に拡がる。


目を閉じないで、キスをした。
二人でケーキを食べた。
多分、ダリルの方がたくさん食べた。

ダリルの言っていたコトがわからない。
きっと、死ぬまで教えてくれない。
でも、それでいい。


「どうせ、寝たら忘れちゃうの」


ダリルは、いった。

「おやすみなさい」










「なぁ、エドガー」

俺が明日死んじゃったら、どうする?


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