Only

※ヤってます。ぬるいですが背後に注意。







セッツァーと身体を重ねる時、思うことがある。
彼とこのような関係になっていくらか経つが、同じ夜を過ごすにつれ、日増しに違和感が強くなる。本当のセッツァーがわからなくなるのだ。
はじめ、彼は遊び慣れたような、ただただ妖艶な笑みで私を誘った。私はその手を引く。広がる享楽を二人で貪り合う。
ところが、どうやら最近の彼はおかしい。
彼は「彼」を手放す時があるのだ。



快楽と行為独特の疲労感に解けきったその白い身体が、シーツと私との間で忙しなく呼吸をして震えている。
「セッツァー、平気…?」
「もっと…」
もっとちょうだい。あどけない口調はもう正体を無くしている。するり、と傷だらけの腕が首に絡む。
「なあ、もっと…」
惰性で腰を揺らす彼は、熱いため息を零して中の私を締めつけた。どうなったって、知らないからな。焼け焦げる理性を手繰り寄せながらその細い腰を掴む。

「…っあ、あ、陛下」
濡れた唇が弧を描く。
身体を撫でさするだけでひっきりなしに上がる声を、もう噛み殺す気もないのだろう、元より少し掠れた彼の声はどろどろに溶けて、なによりもあまい。
片足を担ぎ上げ最奥まで穿つ。内壁がぎうぎうと絡んで酷く熱い。乱暴に動いてしまいたいのを必死で堪えながら、跳ねる身体を宥めるようにゆっくりと行き来する。
「ひっ、あ、ァ、ん…っ」
へいか、きもちいい、もっと。舌っ足らずに繰り返される睦言は角という角が消え去っている。とろけたチョコレートのように甘い。普段のセッツァーからは考えられない。まるでこどもだ。

シーツをぐしゃぐしゃに掻き乱すその手を取って甲に口付けると、セッツァーは腕を指を精一杯に伸ばして私に触れた。抱え上げた脚を下ろして、彼を抱き寄せる。母親に縋るように全身を預ける彼は、息を乱しながら私を呼んだ。
否定と憎まれ口しか放つことのなかったその口が、今はまるで迷い子のように切実に私の名を呼ぶ。
「エド、エド…エドガー…っ」
しがみつく彼は全力だった。
「(ああ、もしかして…)」
これが彼の本当の姿なのだろうか。
何もかもわかったような薄い笑みは、あの意地の悪い笑みは、実は周到に用意された仮面だったのではないか。柔くて脆い部分をそうやって隠していたのだろうか。冷たく凍えたさみしがりの心を。

「セッツァー、大丈夫だよ」
だいじょうぶ、だいじょうぶ。
すべて君の思うままに。
乱れた銀髪を梳り、額に口付けを落とす。小さく零れた吐息を誘うように揺らすと、彼は白い指をさらに私の背に食い込ませた。
熱で潤んだ紫水晶が快楽に閉じかけ、彼ははっとしたようにまた目を開く。
いつもそうだ。
癖なのだろうか、力の抜けた身体で瞳だけを私に差し出す。
瞼の淵に口付け、目尻に溜まった涙を吸い取ると、彼はゆるゆると頭を振って目を閉じた。
「エドガー」
「ん?」
「きもちいい?」
「ああ、すごく」
首筋を唇でなぞりながら頷くと、そう、とセッツァーは小さく笑った。
胸が締めつけられる思いがした。
きっと彼にはこれしかない。
セッツァーがどのように生きてきたかを私は知らない。だけれど、彼はきっと、すごくさみしい思いをして過ごしてきたんじゃないだろうか。全てが杞憂だと笑えれば良かった。笑う術を持たなかった。
「じゃあ、もっと、」
もっと俺のこと満たして。アンタでいっぱいにして。
掠れた声で紡がれるひどく小さな呟きに、私は彼を抱きしめることしかできなかった。きっとこれしかない。今はこうやって伝えるしかない。その孤独を埋めて暖めるには、これしか。
「ああ…」



散々に私を煽って意識を飛ばした彼の身体を清めて、その寝顔を眺めていると、幾許も経たぬうちに小さく呻き声が聞こえた。
「おはよう」
「おはようじゃねえし」
其処にはいつもの、いつも通りの面倒くさいセッツァーがいるだけだった。
「…なに笑ってんの、気持ち悪ィ」
陛下調子に乗り過ぎ。腰も痛ェし喉も痛ェんだけど。彼は眉間に皺を寄せて呟いた。
「君があまりにかわいいものだから」
「はァ?」
いみわかんない。目ェ腐ってんじゃないの?
矢継ぎ早に毒舌が飛んでくる。酷い言い草である。
苦笑を取り繕おうとして、できなかった。自己防衛で否定を振りかざす彼に、身体だけを証として生きる彼に、私の言葉はあまりにも軽い。だから抱きしめるしか術が無い。
「…どしたの」
「なんでもない」
何でもないんだ。言うと、セッツァーは訝しげな顔をして私を見上げた。
「へんなの」
「…もう少し、こうしていてもいいかい?」
「勝手にすれば?」
ぎこちない様子でセッツァーは私の背に腕を回した。その腕の弱さを補うように力を込めた。だいじょうぶ、大丈夫だ。私は君を、君のことを。いつか伝われば良い。
今はただ、これだけ。



(2013.07.24)
抱きしめたい。抱きしめるしか、それしかない。



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