ロッタラ ロッタラ



 君を幸せにするために、僕らは生きているんだよ。


「金時ー!銀時ー!」
 二人同時に振り向けば、肩にかけていた鞄がお互いにぶつかって、いて、という声が見事にシンクロした。
「バカ双子…」
「バカはこいつだけだから!」
「は、ふざけんなてめーだろ!」
 わあわあと言い争う俺たちの間に呆れた顔の土方が割って入って、
「…帰るぞ」
 へいへい、と大げさな溜息をついてみせるけれど、俺だって金時だって本気で喧嘩しているわけではない。土方もそれを分かっているから、いわばこれば毎日の習慣みたいなものなのだった。
 三人でこうして帰るようになって、もう十年が経つ。
 帰る、といっても、同じ方面だとか同じ駅だとかそういうことではなくて、まさに同じ家に帰るのだ。
 金時と俺、銀時は正真正銘の双子で、苗字の違う土方は小学校に入り立てのころにうちに連れて来られた。
 父さんの古い友人夫婦が事故でなくなって、身寄りのない土方を引き取ってあげることにしたのだ、と聞いて、俺も金時も兄弟が増えたようで単純にうれしかったのを覚えている。
 土方は俺たちと同い年だったけれど、小学校まではひとりだけ背が小さくて、散々バカにした思い出がある。その度に父さんに泣きつくから、俺らはずいぶん怒られもした。
 でもやっぱり、俺と金時のふたりだけじゃきっと知らなかった楽しさを、土方はたくさん教えてくれたんだ。


 銀時は俺よりすこしだけ頭が良くて、俺は銀時よりすこしだけ運動神経が良かった。
 そうやっていつも比べられがちな俺たちのことを、土方はいつも公平な目で見てくれた。それが思春期の不安定な俺たちをどれだけ救ってくれたか、気づいたのは最近になってからな気がする。
 初めてうちに来たのは土方も俺たちも六歳のときで、でも土方が何か複雑な事情を抱えているんだろうということは、幼いなりになんとなくわかった。
 優しくしてあげてね、という母さんの言葉通り、俺たちは、たぶんお互いのことよりも土方のほうをずっと大切に思って来た。
 生まれつきなのか、それとも事故のショックでなのか、土方はあまり笑わない子だった。その彼を、どっちが先に笑わせられるか毎日勝負していたこともある。
 そんなふうに接しているうち、土方は次第に心を開いてくれるようになって、高学年になるころにはまるで生まれてからずっと一緒にいるみたいに仲が良くなった。
 三人で同じ学校に通い、家に帰っても一緒にいる。
 すごく幸せで、すごく充実した毎日だった。
 こんな日々がずっと続けばいいのに、って、誰もが願っていた、願っているはずだった。
 でもそれでも、いつまでも今まで通りの関係ではいられないかもしれない、と、心のどこかでは思っていたのかな。


「金時ーっ」
 アイツを呼ぶ土方の声が、こころなしか弾んでいる。
 そのことに最初に気づいたのは俺の方だった。
 別にでもそれは、同じ双子だって人間としては別物だし、それですこしは相性の違いだってあるし、だからそういうことじゃね?と意味のわかるようなわからないような解釈を言ってきたのは金時だ。
 まあそうだね、と納得したふりをして、それでも俺はやっぱり心にひっかかるものがあった。
 俺は金時よりずっと先生に好かれていて、金時は俺よりずっと女子にもてた。
「銀時、今日金時は?」
「あ、えーとアイツは委員会。先に帰る?」
「いや、すぐ終わると思うし、待ってよっか」
「うん、そうだな」
「三人で帰ろ?」
「うん」
 土方が俺らを平等に扱ってくれるから、俺らも土方のことはひとりじめしない、三人で仲良くする。
 これは小学校からの、俺と金時との秘かな約束だ。
 幼くして両親をなくした土方のために、ふたりで同じだけめいっぱいの愛情を注いできた。時には本気で喧嘩もしたけれど、それでも寝て起きればすぐに笑ってごめんねと言い合えた。
 それは本当にかけがえのない、大切な関係だった。
 土方の家族になってあげることが、俺たちふたりの夢だったんだ。
 土方を幸せにしてやることが、俺たちふたりの幸せだったんだ。


 成長すれば、そりゃいろんなことを学ぶ。いろんなことを知る。
 時には、知りたくないことだって。
 芽生え始めたそれぞれの気持ちには気づかないふりをしながら、俺らはそれでも充実した高校生活を送っている。
 大人ほど上手に感情を隠して世の中を渡って行けるわけじゃないけれど、大人よりもずっと簡単なことでわらいあえる。
「金時!銀時!」
「おまえさ、それたまには逆にしてくんねえの?いつまでも俺は二番目なの?」
「しょうがねえだろ一位は絶対金メダルって決まってんだから」
「オリンピック委員会に殴り込みに行くか」
「ちょ、ごめんって!俺は銀も金も好きだから。ね?」
 はいはい帰るぞー、と土方が言って、俺たちはそれに続く。
 それぞれに行き場のない想いを抱きながら、それでも俺たちは今日も三人肩を並べて帰る。
 バカみたいに笑いながら、バカみたいにはしゃぎながら。
 何年経っても同じような日々が続くかなんてわからないけれど、いまこうして繋いでいる手の温かさは本当だと信じられる。
「ねえ土方、」
「ん?」
「いま、幸せ?」
「え、うん、あったりまえだろ!」
 君がそう言ってくれるから、俺たちは今日も幸せでいられるんだ。


 大好きな君へ、胸いっぱいの愛を。


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music by Buono!
ハロプロタイトル縛りといういおさんと私の誰得企画の結果でした!


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