12月24日、深夜。
夕方からの馬鹿騒ぎもひと段落して、さすがに静寂が支配しつつある江戸の街を黒い隊服に身を包んだ二人組が歩いていた。
片方は煙草を咥えながらするどい視線を左右に走らせる、真選組副長土方十四郎。いま一方は同じく一番隊隊長沖田総悟である。

「ほんと、イブに見廻り付き合わせるたァいい加減にしてくださいよ。一緒に過ごす友達いなくて寂しいのはわかりますけど、こっちは楽しいパーチィ抜け出して来てんでさァ…」
「寂しくなんかないわァァァ!それに、警察がクリスマスにパーティなんてやってんじゃねえよ。こういう特別な日にこそ、お祭り騒ぎに紛れて堂々と攘夷派が動いたりすんだよ。せっかく楽しんでる一般市民を巻き込まねえためにも、俺らが取り締まりしとかなきゃなんねーだろ。」
「クリスマスにも騒げないたァ、ずいぶんと寂しい身ですねェ俺たちは」

言いながら沖田はパーティから持ち出したらしきサンタクロースの帽子をくるくると振り回した。夜目にも赤いそれは、少しパトカーの提灯にも似ている。

「しかしこの聖なる夜に不逞を働こうなんて不粋な輩ほんとにいるんですかねェ…」
「他人の考えることはわかんねぇモンさ」
「…あ、いた」
「何だと!」
「ほら、アレ」

沖田の指差すほうを見ると、サンタの格好をしたいかにも怪しい男が民家の玄関先でごそごそと身を屈めているところだった。

「まさか…あんな格好で堂々と泥棒働く気か!?」
「そうみたいですねェ…どうすんでさ?」
「テロには関係者なさそーだが、一応しょっぴくぞ」
「あーい。おいそこの怪しいサンタクロース、今すぐ武器を捨てておとなしく捕まりなさ〜い」

沖田が拡声器で呼びかけても、無視を決め込むつもりか当のサンタは動きをとめない。
イラついた土方は足元に落ちていた小石を拾うと、今まさに玄関から堂々と侵入しようとしているサンタに向ってそれを投げつけた。

「いってェェェ!」

小石がヒットした頭を押さえながら、ようやくサンタクロースがこっちを向く。と、それが見知った人物であることに気がついて、土方は途端に苦虫を噛み潰したような顔になった。

「…んでてめぇなんだよ」
「それはこっちの台詞ですう!何なんだよ、こっちは仕事中だっての」

頭をさすりながら身体を起こしたサンタクロースは、万事屋の看板を掲げる坂田銀時その人であった。

「不法侵入のどこが仕事なんだよ」
「不法侵入じゃねえよ!サンタさん!見りゃわかんだろ」
「嘘つけ。サンタさんは煙突から入ってくるんだよ…玄関から来るわけねーだろ」
「ええええもしかしてこの子サンタさん信じてるの!?いったいどういう教育してるんですか真選組ってのは…」
「毎年クリスマスは近藤さんが仮装して真夜中にプレゼント配るんでさ」
「馬鹿言うな、確かに近藤さんが若干サンタっぽいことは認めるが、本物のサンタさんはもっとオッサン臭い匂いがしたぞ」
「それがテメェの大将なんだよォォォ!何この子どんだけ夢みてんの!?」
「可哀想だからそっとしといてあげましょうや……ところで旦那、その格好ってこたァこっそりプレゼントを配る仕事ってことですかィ?」
「あ、逆逆」

逆?と沖田が首を傾げる。
銀時はかったるそうに赤い帽子越しに頭を掻くと、ぱんぱんに何かが詰まった白い袋をポンと叩いた。

「廃品回収」
「サンタじゃないんかーい!」
「沖田くんがツッコミなんて珍しいなオイ雪でも降るんじゃね?」
「いや、この場にツッコミがいなかったんで都合上」
「ほら見ろ、サンタじゃないだろ」
「テメェは少し黙ってろ!」

銀時は中身の詰まった重そうな袋を持ちあげると、石が当たったせいで少し曲がった帽子を被り直した。

「あーあ、テメェらのせいで今夜中に回収終わんなかったらどうすんだってんの…責任取れよな〜」
「知るかよ!」
「んじゃ、遅れ取り戻すために僕急ぐんで」
「あ、じゃあ旦那ついでに…」

ドン、と沖田が急に土方の背中を押した。よろめいた土方は煙草を口から落としそうになって、慌てて手で押さえる。

「コイツも、回収ってことでお願いしやす」
「おいちょ、何言って…」
「周囲の和が200センチ以上のものは特別料金戴いてますが」
「ソイツの財布から抜いといてくだせー」
「あ、わかりました〜じゃあお引き取りってことで」
「テメェら人を勝手にゴミ扱いすんじゃねェェェ!」
「は〜要らないモン捨てると気持ちまで軽くなるなァ〜」
「よっこらせっ、と」
「うわっ、ちょ、下ろせよ…!」

土方の背中に「規格外」と書かれたシールをぺたりと貼ると、銀時は空いている肩にひょいと土方を担ぎ上げた。

「じゃあメリークリスマス沖田くん」
「旦那も良いクリスマスをー」

沖田がとっとこ元来た方へ駆けていくのを見送って、銀時は民家の角に止めてあったソリのような台車の上に袋と土方を放った。

「っ、おい、てめいい加減に…!」
「ちょっと大人しくしてなさいな。お前は銀さんに買われちゃったの。俺のモンなの」
「…ッ」
「嬉しい顔すんじゃねえよこのドМ」
「してねェよォォォォ!!!」

叫ぶ土方を乗せたまま、銀時はジングルベルの鼻歌を歌いながらソリを引き始めた。

「プレゼントありがとうサンタさん!」
「俺にもサンタさん来いやァァァ!」


自室の布団の枕元に置かれたマヨネーズに土方が気付くのは、すっかり夜も明けた頃のことだった。




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