「あ」
「んだよ」
「ポテト落とした」
「もったいねー」
「てめーが押すからだよ!」
「ざけんな俺だってケツ落っこちそうなんだけど」
「俺なんてケツ三分の一しか乗ってねーし」
「しょうがねーだろひとつしか空いてなかったんだから…じゃあなんだ、てめえ床で食うか?」
「てめえが床で食えよ!」

都内某所、某ファストフード店、平日、正午。
もちろん満席の店内はがやがやとうるさく、多少大声で言い返したところでギャルや学生集団の機関銃のようなおしゃべりにかき消されてしまう。
それでもすぐ隣に座ったサラリーマン風の男にはじろっと見られて、銀時と土方は黙って首をすくめた。

混み合った店内、ようやく見つけた席は窓際のカウンター席ひとつきりで、かといって購入した物を食べる場所も他になく、ふたりは仲良く椅子をわけあうことにせざるをえなかった。
まだ中学生のふたりにとって、男同士で席を半分こすることにさほど抵抗はなかったものの、やはりひとり用の椅子の大きさには限界があって、丸いスチール椅子を奪い合うようになるまでにさほど時間はかからなかった。

頼んだポテトをちびりちびりと食べながら、銀時はガラス窓の外を歩いてゆく人波を見つめる。
繁華街を楽しそうに練り歩く人々の大多数は他人になんて目もくれないで通り過ぎてしまうのだろうが、それでももし店内をちらりとでも見た人がいれば自分たちはどう映るのだろうか、と思った。

ちょうど目の前を通った高校生のカップルが、店内を指差しながら何やら会話をしている。
いつの日か可愛い女の子と手をつないで歩く自分を想像して、銀時は思わずにやにやと相好を崩す。

「…キモ。何笑ってんの」
「ちょ、人の顔勝手に見てんじゃねーよ!」
「見たくなくてもこんだけ近くにいれば見えるわ!」

土方が声を張り上げたせいで、ぎりぎり保っていたバランスが崩れそうになる。必死で机にしがみついて、銀時はサラリーマンにぶつかりそうな身体を支えた。
隣の土方は反対側が柱になっていてうまく寄りかかれるようだ。悠然とハンバーガーを咀嚼する横顔がどうにも憎たらしくて、銀時は土方がジュースに手を伸ばした隙に、右手に持ったままのハンバーガーにかじりついた。

「あ、ちょ、勝手に…!」
「ふへへほいひいー。」
「んだよ、俺が買ったやつだぞ!」
「だって俺お金ないんだもん…」

中学生男子がいかにお金を持っていない種族か、みなさんはご存知だろうか。マンガ一冊買えない苦悩。ポテトのSひとつでどれだけ粘れっているか。チュウガクセイダンシなめんな。

「じゃあてめえのポテトも寄越せよ…」
「いやだ!これは俺の…!俺のライフライン!」
「意味わかんねえよ不公平だろ!」

またしてもぎゃーぎゃー騒いでいると、ちょうど食べ終わったらしい横の男がそそくさとトレイを持って席をたった。
あ、と思ってふたりは同時に空いた席を見る。
しかしその瞬間、ずっと席を探していたらしい女性がすべりこむような絶妙なタイミングでそこにカタとトレイを置いた。

(あ…)

***

「てめーのせいだかんなてめーが俺の服掴んでたから動けなかったんだぞ」
「最初にしかけてきたのはてめえだろ」
「しかけてないですうハンバーガー味見しただけですう」
「あれが味見かよ!犬みてえにかぶりつきやがって」
「銀さんの一口は大きいんだよ土方くん」

結局早々と残りのハンバーガーを食べると、ふたりは騒音の充満した店内を出た。
急に気温が下がり始める夕方、土方はカバンに入れてきたらしいマフラーを首に巻いている。

「でもなんかいい匂いした」
「何が」
「あのねーちゃん」
「まじでか」

びゅう、と急に冬を予感させる冷えた風が吹いて、銀時は思わず暖かそうな土方に抱きついた。
赤いマフラーは、土方の頬をすこしだけ紅く照らす。

「あ、」
「何?」
「土方、あのねーちゃんとおんなじ匂いする」
「…まじでか。あねきのシャンプー使ってるからかな」
「うそ」
「うん、マシェリ」
「そうなんだ…」

いいにおーい、といいながら銀時は土方の髪に顔を埋めた。
「彼女」もたぶんいいにおいがするんなんだろうな、と銀時は思う。

(じゃあもう土方が彼女でもいいんじゃね?)

「土方」
「ん?」
「俺の彼女になってよ」
「…は?」

土方はまんざらでもない顔をした…、というのは嘘で、盛大に呆れた顔をすると、土方はマフラーを巻きなおしてずんずんと歩き出した。

「おい、ちょっと待てよ…!」
「おまえ、俺を『ひも』にする気なんだろー!」
「違うってええええ!」

ポテトのSしか買えない哀れな中学生坂田銀時が、好きな人と手をつないで堂々と歩けるのは果たしていつになるのであろうか。


いつかきみのとなりで!


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