24分割の恋心


だって、まさか、そんな。
この事態を、一体誰が予測できたと言うんだろう。


「倉間、俺にチョコは?」

「は?用意してないっすよ。だってアンタ去年貰いまくりでチョコにうんざりしてたじゃないっすか」

「・・・俺、今年は1つも受け取らなかったんだけど」

「え゛」



2月14日、バレンタイン。
テスト週間のため部活の休みだった俺は呼び出されるままに南沢さんの家に行った。受験勉強は?と一応気遣って聞いてみたものの、は、そんなの余裕だし、と鼻で笑われた。そうですか。


もうすっかり上がり慣れた南沢さん家の玄関で「お邪魔します」とだけ言ってからだいぶボロくなったスニーカーを脱ぎ、これまた上がり慣れた階段を登って南沢さんの部屋へと勝手に向かう。


南沢さんもそんな俺の様子に何とも思わないらしく「今日は母さん居ないから俺が茶出さなきゃなんねーんだよな・・・」と呟いてから台所へと姿を消した。ダルそうにスリッパの音を立てて足を引きずりつつも、何だかんだもてなしてくれるのが意外と面倒見の良い南沢さんらしい。そんなこと言ったら水道水を出されそうだから言わないけど。俺は苦笑しつつ階段を登りきった。



ガチャっと無遠慮に扉を開けて、相変わらず整頓された南沢さんの部屋に入る。俺の為にわざわざ点けといてくれたのか、ストーブのおかげで部屋はとても温かった。学校帰りに直で来た俺はかばんとマフラーと学ランを部屋の片隅に置き、ストーブの前を占領する。かじかんだ指先にストーブの熱が当たってちりちりと痛む。それでも離れられない。ああ、ストーブ最高。


「・・・倉間、そんな間近で当たってたら制服焦げんぞ」

「あ、南沢さん早かったっすね。ください」

「お前な、この俺が直々に用意してやったってのに礼も無しかよ」


そう言いながらも南沢さんはお盆に載った2つのマグカップのうちの1つを「熱いから気をつけろよ」と言って渡してくれた。俺は仕方なくありがとうございます、と返して両手でそのマグカップを受け取る。中には俺の好きな南沢さん特製の甘いカフェオレ。じんわりと両手に広がる熱を感じながらも南沢さんは何飲んでるんですか?と聞くと、「何って、コーヒーだけど」としれっと返された。そのまま平然とコーヒーに口をつける南沢さんを見て、俺は内心で舌打ちする。くそっ、こんなところにまで年齢差を感じるなんて。


南沢さんはコーヒーを飲みながら部屋の中央に置いてあるミニテーブルの前へと座り、片肘をつきながら「今日ってバレンタインだよな」と切り出した。


「そっすね。神童は今年も凄かったですよ」

「ああ、だろうな。あと何気に剣城も凄そう」

「あー・・・どうだったんでしょうね。確かに天馬たちが騒いでたような・・・」

「興味なしかよ。・・・まぁいいや、倉間は?」


そう言って俺の顔をじっと見つめる南沢さんに、俺は待ってましたとばかりにかばんの中からそれを取り出して見せ付けた。


「じゃーん!見てくださいよ!俺も貰いました!」

「・・・マネージャーたちから?」

「いえ、それとは別に。同学年の女子からっすよ」

「・・・・・・義理で?」

「さあ?いきなり呼び出されて何も言わずに渡されただけなんで」


俺は改めて手の中の小さなチョコレートの箱を見つめる。水色と白のドット柄の包装紙に茶色のリボンでラッピングされた小さな箱。渡されただけってのは嘘だ。いくら俺が女子と絡まないとは言っても、同学年ともなれば顔も知ってるし名前も知ってる。まぁつまり、告白された。俺よりも小さくって大人しくって、多分フツーに考えて可愛い女子。緊張で震えた声が未だに頭の中に残ってて、嬉しかったなと素直に思った。


「わかりやすい嘘ついてんじゃねぇよ」

「あ!」


そうぼんやりと考えていると、ミニテーブルから身体を乗り出して南沢さんが俺の手から箱を取り上げた。更にその上、包装紙をビリビリと破り中からトリュフチョコを1つ摘んで口の中に放り込む。


「甘。・・・でもまぁ、倉間好みだな」

「ちょっと!!なんてことするんすか!!」


わざとらしくペロっと指を舐める南沢さんからチョコレートを奪い返し、キッと睨みつける。うわっ、1番デカいヤツを食いやがったなこの人。


「倉間が嘘ついたのが悪いんだろ。デレデレしやがって」

「断ったんだからいいじゃないっすか!アンタだってしょっちゅう告られてるくせに!!」

「俺はモテるんだから仕方ないだろ。んで?なんて言って断ったわけ?」

「そ、れは・・・」


思わず口篭もってしまう。脳内に再生されるのはあの時のシーンだ。『今でもずっと忘れられない、大好きな先輩がいるんだ。だから、ごめんな』我ながら恥ずかしいセリフだったと思う。少なくとも俺の柄じゃない。でも、それでも納得してくれたらしく、それじゃあ勿体ないからせめてチョコだけは受け取ってと言われた。それでいいなら、と思って俺も了承し受け取った。


世の中にはあんなに性格の良い女子も居るって言うのに、よりによってこんな性格の悪い先輩(それも男)を好きになった俺ってやっぱ変なんだろうな。性格については俺も言えないけど。いつまで経っても言う気配のない俺に、南沢さんが首を傾げながら口を開いた。


「・・・よっぽど恥ずかしいこと言ったんだ?身も心も捧げた大好きな先輩が居るから無理、みたいな?」

「なっ!?んなこと言うわけないでしょふざけんな!!」


ニヤニヤとマグカップ片手に見つめてくる南沢さんはやっぱり油断できない。しかもあながち間違ってないのが尚更悔しい。絶対言わねーけど。


「ふぅん?断ったならもういいけど。・・・それよりも倉間」

「・・・っ、今度は何なんですか」


いいかげんに熱くなってきたのでストーブの前から離れて南沢さんの横に移動する。また勝手に食われないようにチョコレートは厳重にラッピングし直して、かばんの底に入れておいた。これでもう大丈夫なはず。そのことに気を取られすぎたのだろうか、俺はさっきまでの軽い調子とは違う南沢さんの声の変化に気づけなかった。


「・・・俺にチョコは?」

「は?」


そして冒頭に至るワケである。







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