*蘭ちゃん視点
どの季節が一番好きと聞かれたら、何でもいいと俺は答える。
神童が隣りで笑ってくれるなら、どんな季節でも構わない。
神童が大切だ。本当に、好きなんだ。
幾度目の春も、やっぱり俺の気持ちは変わらない。
「・・・桜餅って、」
「ん?」
「霧野みたいだな」
「・・・今完全に服の色で判断しただろ」
「そんなことは無いさ」
紅茶にケーキと、女の子の理想のおやつが行けば必ず振舞われる神童家で、和菓子が出てくるのは珍しい。
何でも、神童のおばあさまが大変気に入ってる和菓子店のだとか何とか。
どこの有名店までかは分からないけれど、それでもこの桜餅が本当に美味しいことは庶民派の俺にでも分かる。
まぁ、神童と食べるなら何でも美味しいってのが本音だけど。
「春は霧野によく似合うな」
「また色で判断してるだろ」
「・・・儚げな雰囲気が、」
「こんな見た目だけど俺は男だ」
「それこそわかってる」
少し膨れっ面の俺と、それを可笑しそうにクスクスと笑う神童。和やかな雰囲気、2人だけの時間。手の中の桜餅から、ふんわりと甘い春の香りが漂う。
「・・・・・・春になると、霧野のことをよく考えるよ」
「え、」
「桜はもちろんだけど、枝の蕾や草木の緑、周りを見渡すと霧野を連想するものでいっぱいだ。まぁ、いつも隣りに霧野が居るけど」
「・・・もしかして、口説いてる?」
「・・・何でそうなるんだ・・・」
相変わらず自覚は無いのか、この天然王子様は。
俺は若干染まりつつある頬を隠すように少し俯いて桜餅に視線を落とす。
神童が好きだ。とても大好きだ。
だから、
「・・・俺も、春は好きだ」
「・・・・・そうか。同じだな」
神童が笑ってくれる、俺のことを想ってくれる。
そんな季節なら、
君とずっと、巡る色
俺だって、好きになるに決まってる。
桜兎/20130309
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