*たっくん視点
春休みはとても静かだ。
普段からあまり家に居ない両親と、用件があるとき以外滅多に部屋に訪ねて来ない使用人達。
この屋敷は、あまりにも広すぎる。
課題も無い、ピアノのレッスンも無い。
今日は客人が訪ねてくる予定も無い。
久しぶりに、何も無い休日だ。
(・・・霧野は、今何してるだろうか・・・)
もしも予定が空いているなら、二人でサッカーの練習をしに行こうか。それとも、いつもみたいにこの部屋でのんびりと過ごしてもいい。
(・・・電話、かけてみないと・・・)
それなのに、意思に反して身体が思うように動かない。ソファに沈めた身体は、春の気候にゆっくりと侵食されていたらしい。ひどく、眠たい。目蓋がだんだんと下りてくる。
こんなにも暖かいから、窓を開けたまま少しくらいうたた寝しても風邪は引かないだろう。
気になる事は、ただひとつ。
(・・・・・・霧野、)
声にならなかった囁きは、きっと夢に堕ちる合図だった。
*********
「・・・いつまでもこんなとこで寝てたら風邪引くぞ、神童」
「・・・ん・・・」
夢の続き、だろうか。
瞳に映るのは満開の桜に似た、いや、もっと透き通っていて美しい桃色の髪。
「・・・霧、野?」
よく見慣れた翠の瞳は、まだ寝ぼける俺の姿を覗き込んで優しく映してた。
「いつの間に・・・」
「30分くらい前かな。あんまりにも気持ちよさそうに寝てたから起こせなかった」
「・・・すまない」
「いや、勝手に訪ねてきたのは俺だし。それに結局、起こしちゃったし」
「俺が風邪を引くと思ったからだろう?」
「・・・嘘だよ。本当はもっと、別の理由」
「え?」
「そんな風に無防備だと、いつ襲われても文句言えないからな」
悪戯っぽく微笑む霧野は、風に舞う花びらよりも無邪気で、だけどとても
「・・・何言ってるんだ、馬鹿」
心が惹かれるから、愛おしい。
夢でも逢いたい、な
(優しくて温かい)
(好きだよって)
(柔らかく微笑んだ)
桜兎/20130309
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