*蘭→拓
君になんて伝えよう
この胸に抱いた切なさを、春の陽だまりに似た愛しさを
「神童、」
声は少し震えていたかもしれない。君は気づいただろうか。
「どうした、霧野」
ずっと何年も前から見てきた、優しい微笑み。変わらない態度。
俺の鼓膜を揺らす、胸に響く、たった一人の愛しい声。
「・・・・・・花びら、髪に付いてるぞ」
こんなにも心が揺れるから、髪に触れた指先も震える。
気づかれないように、そっと、触れるのに。何でもないように、親友として接しているのに。
離したくないと、抱き締めて俺のことだけ見て欲しいと、心の中でどうしようもなく叫ぶ自分も居て。
花びらを捕まえたら、また君に触れられない。
「ありがとう、霧野」
「・・・どういたしまして」
ふわり、ふわりと君が笑う。
風に揺れる髪は柔らかくて、きっとまたすぐに花びらが虜になる。
それにさえ嫉妬する自分と、それから、
花になりたい、
早く舞い降りてと、願う自分。
(春風は囁く)
(だけど僕は)
(まだ踏み出せなくて)
桜兎/20130309
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