店員×客パロ | ナノ


カフェ店員南沢×客倉間


曜日はバラバラだが毎回決まって夕方5時30分。
今日もそいつはやって来た。


「ご注文はお決まりでしょうか?」

「えーと・・・この季節のタルトとモンブラン、それからシュークリーム」

「畏まりました。お飲み物はいつものキャラメルラテで?」

「えっ、あ、はいっ」

「それでは、少々お待ちください」


いまだに驚いた様子の彼を横目に、俺はにこりと愛想良く微笑んでから背を向けてホールに戻る。キッチンの中にいるパティシェ兼店長にオーダーを伝えるためだ。このカフェを伴ったケーキ屋は街の中にあまりにも小さく静かに佇んでいて、つまりは寂れている。現にこの時間帯の店員(バイト)は店長を除けば俺ひとりだ。それでもスイーツの味は確かで、隠れファンや固定客も何気に多いから今もこうして何とか営業を続けていられる訳だが。

そうつまり、俺がついさっき注文を訊いた客もここの常連と言うことだ。いつも頼んでいる飲み物を当てることなんてそう難しくは無い。何より、彼は。


(俺がいつも待ってる客だもんなぁ・・・)


大通りに面した窓際の席。座る場所はいつも壁を背にした奥のイス。
見たところ年齢は俺と同じくらいで大学生か1つ2つ歳下の学生。ふわふわと自由にはねた柔らかそうな水色の髪と、長い前髪のせいで右目が隠れているのが特徴だ。他の特徴はと言えば普通の人より少し焼けた肌と、平均よりも少し低めの身長。それから、毎回必ず3つはケーキを頼む程の大の甘党だと言う事。名前は確か、“倉間”と言うらしい。いつだったか一緒に来ていたゴーグルとメガネの2人組がそう呼んでいるのを聞いた。


「お待たせしました」

「わぁっ」


コトリ、と目の前に置かれたケーキの皿を見て瞳を輝かせる倉間。男が甘党なんて今時そんなに珍しい話じゃないが(現に俺だってそうだし)、ここまで嬉しそうな表情を浮かべるのは希少だろう。さっそくフォークを握り締めケーキの形を崩さないように器用に一口サイズに切り分ける倉間はずいぶんと幸せそうだ。もちろん、そのケーキを口にした時の倉間はとびっきりの笑顔を見せる。そんな倉間の表情を何度も何度も眺めている内に、俺はしだいに倉間が店にやってくるのを心待ちにするようになった。


「・・・あの、すみません。キャラメルラテ頂けますか?」

「・・・あっ、申し訳ありません。すぐお持ち致します」


俺としたことが。
ケーキに夢中になる倉間のことばかり見つめていて肝心の飲み物をカウンターに置きっぱなしにしてしまった。これが他の客だったら文句言われるだろうな。ところが倉間は
微笑みを浮かべながら「ありがとうございます」とまで言ってくれた。
これじゃあどっちが店員か分からない。

そう思っていると、倉間が「あの、」と躊躇いがちに声を掛けてきた。
俺は追加注文かと思いペンを握るが、倉間の雰囲気から察するにどうやら違うらしい。


「・・・俺、さっきビックリしました。何で俺がキャラメルラテを頼むって分かったんですか?」

「・・・ああ、それはいつも注文を受けて作ってたのが俺だからですよ」

「えっ、これ貴方が作ってるんですか!?」

「はい。・・・まぁ、見てのとおり人手が足りてないんで」


そう告げるとカップを両手に持って見つめながら倉間が感心したような声を上げる。そう、ケーキはさすがに素人の俺には無理だが紅茶やコーヒーなら俺にも淹れられる。中でもキャラメルラテは俺のお得意で、注文が入るたびにいつも以上に気合を入れて作っているのだ。


「そうだったんですか・・・。俺、ここのケーキはもちろん好きですけど、このキャラメルラテが一番大好きなんです」

「っ、・・・あ、ありがとうございます・・・」

「いえ、俺のほうこそ。・・・南沢さん、ですよね?」

「はい。でも何で俺の名前・・・」


今度は俺が訊ねる番だった。俺は一方的に知っているが、倉間とこんなに話すのは今日が初めてで倉間は俺の名前なんて知らないはずだ。
だが倉間は面白そうに笑うとケーキが刺さったままのフォークの先をちょこっと俺の胸元に向けて、楽しそうに口を開いた。


「制服。胸のところに名札がついてます」

「あ・・・」


そうだった。白いシャツと細い黒リボン、同じく黒のカフェエプロンが基本スタイルのこのシックな制服は胸元に名前入りのバッジがついてるんだった。如何せん、倉間の前だとどうにも調子が狂う。いつもの落ち着いた態度はどうした俺。いくらなんでも浮かれすぎだろ。


「・・・南沢さんって、何か面白い人ですよね。良かったらもう少しだけ話しません?・・・あ、バイトの邪魔じゃ無かったらですけど・・・」

「とんでもない。喜んで。・・・俺も倉間の下の名前とか、いつもなんで同じ時間に来るのかとか色々聞きたいですし」

「えっ、何で俺の名前・・・」

「さぁ、何ででしょう?」


むぐっ、とタルトを喉に詰まらせそうになりながら驚く倉間に微笑みを浮かべて俺も倉間の目の前に座る。こんな至近距離で倉間を見つめるのは初めてだ。
可愛らしく口の横についてる生クリームを、指で拭い取ったら甘ったるそうな彼はどんな反応をするだろうか。


それじゃあ、召し上がれ
(この恋、テイクアウトで)




敬語使いまくりな南沢さんに全桜兎が吹き出しました。
書いててめっちゃ違和感(笑)
ちなみに倉間がいつも同じ時間に来るのは誰かさんのことが気になってたからです^^

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