すきを繋いだ日
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伝えたいこと、伝えるべきことはたくさんあった。
だけど俺はそれをしてこなかった。

手段だって、機会だって、俺にはいつでもどこでもあったのに。“ありがとう”も“好きだ”も確かに天馬に感じる特別な想いとして抱いていたのに。

何も言わなかった。否、何もしなかった。

天馬はいつも俺に真っ直ぐでまぶしい程の好意を向けていてくれて、俺はそれをただ受け止めるだけだった。それで良いんだと思ってた。アイツもちゃんと俺の気持ちを分かっているんだろうと、そう勝手に思い込んでいた。

つまり俺は天馬の優しさに甘えていた。


変わらない関係と見えない気持ちに不安になりながらも笑顔で隠し通して愛情を注ぎ込む天馬に、俺はきっと随分と長い間気づかないで優しさに溺れていたんだ。


そんな俺が初めて、やっと天馬に疑問を抱いたのは付き合ってからもう何ヶ月も経った頃だった。


「狩屋と輝、最近すっごく良い雰囲気だね」

「・・・まぁ、付き合い始めたばっかりだしな」

「そうだよね」


そう言って天馬がまたにこにこと笑みを浮かべる。俺たちの視線の先に居るのは仲良く一緒にコーンを片付けに行く狩屋と影山で、狩屋が色々とちょっかいを出しながらも何だかんだで影山より多くコーンを運んでいるのだから、アイツも少しは彼氏らしくなったんだろう。・・・まぁ、影山は男でコーンの3つや4つで重さを訴える程か弱くは無い訳だが。


「おい天馬、俺たちは先に部室に―・・・」

「・・・ちょっとだけ、羨ましいな」

「は?」


思わず口から零れたという感じだった。予想していなかった一言に俺は歩みかけていた足を止めて後ろを振り返る。いまだにぼんやりと狩屋たちの姿を視線で追い続けていた天馬もやっと自分の言葉が声に出ていたことに気づいたのか、ハッとした様子で目を見開く。


「・・・天馬?」

「・・・えっ、あ、・・・ごめん何でもないっ!」


そう言い切ると気まずくなったのか、少しの間視線を泳がせてから天馬が「俺先に戻って着替えてるね!」とダッシュで俺の横を走り抜ける。風を纏う様にスピードを上げて部室へと走っていく天馬はよほど本気なのか、その幼い背中は今から追いかけるには遠すぎた。俺は棒立ちのままそれを見送り、頭の中で天馬の言葉をもう一度再生する。


“羨ましい”


アイツは確かにそう言った。
本人が意図した言葉でなかったとしても、いやそんな一言だったからこそ、さっきの言葉は天馬の隠された本音だったんだろう。


羨ましい、そう零した天馬の横顔は一瞬だけだったがとても寂しそうで、妙に胸がざわつく。


「・・・どういう意味だよ」

「それはこっちが聞きたいんだけど剣城くん」

「!?」

「どうしたんですか?天馬くんと一緒に先に部室に戻ったんじゃ・・・」


いつの間に戻ってきたのか背後には狩屋と影山が立っていた。2人の気配に気づかないくらい俺は天馬の事を考えていたのかと思うと驚きを隠せない。そんな俺を不思議に思ったのか、2人して首を傾げながら俺を見つめる。


「・・・天馬、最近どこか悩んでる様子だったか?」

「え、何いきなり」

「お前同じクラスなんだから何かあったなら知ってるだろ」

「・・・いや別に、そんな様子は無かったけど?ってかさ、普通悩みがあるんだったら俺じゃなくて先に剣城くんに相談してるでしょ」

「そうですよね、お2人は恋人同士なんですし」

「・・・・・・。」


恋人。その2文字にどこか引っ掛かる。眉を顰めながら訳が分からないと頭を掻く狩屋と、にこにこしながらそう答えた影山もつい最近付き合い始めたばかりの恋人同士。
俺と天馬だって恋人だ。なのに、コイツ等と何が違って天馬にあんな本音を漏らさせてしまったのか?


「・・・・・・西園、知らないか」

「信助くん?まだグラウンドだと思うけど」

「さっきまでゴール前で三国先輩と熱心に話してましたから」

「わかった」



分からないことは本人に訊くのが一番良い。だが、天馬の事に関してはまず西園に訊くべきだ。いつの頃からだったか、俺の中でそう言う順番の方程式が成り立っていた。



_____________


「2人はさ、変わらないよね」


グラウンドに引き返して思い切って訊ねてみたものの、少し考えるような素振りを見せてから西園が言ったのはこの一言だった。相変わらず、的確なのに遠回しな(言い換えれば回りくどい)言い方だ。案の定、俺は聞き返すしか無い。


「・・・何がだ」

「付き合う前と付き合ってる今。恋人同士になって2人の中で変わったことってある?」


変わったこと、そう繰り返すと西園が真剣な表情で小さく頷き返す。


付き合ってからの俺と天馬。恋人同士になってから変わったこと。
突然そう言われたって、互いに名前で呼び合うし(天馬は恥ずかしがって滅多に名前で呼ばないが)、登校は別でも下校は大体一緒だし、たまに兄さんの見舞いに行ったり休日は2人でサッカーの特訓をしたりもする。特にこれといって恋人同士として不自然なところは無いはずだ。


「でもさ、それって付き合う前からしてたでしょ。ある意味“友だち以上恋人未満”の関係のままだよね」

「恋人未満・・・」

「僕が思うにさ、天馬は寂しくって不安なんだよ。いつもいつも剣城の気持ちを引きとめようと必死になってる。でもね、天馬は優しくって“良い子”だから不安になってても絶対言わないんだよ。・・・剣城さ、いつも天馬に言って貰ってばっかりで自分から“好き”って言った事、付き合ってからある?」

「・・・・・・無い」

「でしょ。そう言う事だよ、分かった?」


念を押すようにゆっくりと話しながら問いかける西園に、俺は半ば放心状態になりながらも何とか「ああ」と返した。

天馬が羨ましがっていたのは狩屋と影山の“恋人”の雰囲気だった。あの2人は互いに好きを言動で伝え合っている。素直に好意を示しているのだ。それが一方通行のように返って来ない愛情を注ぎ込むだけの天馬には羨ましくて仕方なかったのだろう。


「ただ黙って隣を独占してるだけじゃ、伝わらないことなんていっぱいあるよ。ただでさえ天馬は鈍いんだから」

「・・・お前は相変わらず手厳しいな」


そう言う俺は馬鹿だ。不器用にも程がある。天馬なら分かってくれるだろうと勝手に思い込んで甘えていただけだった。西園の言うとおり、黙ったままじゃ俺の気持ちは伝わらない。伝わってないから、天馬があんな本音を隠し通そうとするんだ。


「・・・ねぇ剣城、“好き”って何回言っても良いんだよ」

「!」

「天馬は剣城の事が大好きなんだから、きっと絶対に嬉しそうに笑ってくれるよ」

「・・・・・・そうだな」


俺は小さく西園に礼を言いながら、天馬の元へと駆け出した。


______________


部室に戻ってみると先輩方はもちろんだが狩屋と影山も帰って居て、予想通りミーティングルームに居るのは制服姿の天馬だけだった。


「あ、剣城!遅かったね。信助と一緒じゃないの?」

「・・・・・・。」


どうやらさっきの出来事(発言)は無かったことにしたいらしい。
無理やり明るく振る舞う天馬に俺は今更違和感を覚えながら大股で近づき、天馬のすぐ目の前に立った。


「・・・剣城?」

「・・・・・・・・・好きだ」

「え、」

「・・・気づかなくて、傷つけて悪かった。俺だってちゃんと、天馬のことが好きだ」


シンとした部室に割と大きく響いた俺の告白に、天馬の空色の瞳が零れ落ちそうなほどに大きく開く。俺はその恥ずかしさやら気まずさやらで視線を逸らしたい衝動に駆られながらも更に言葉を紡いだ。


「・・・天馬が好きだ。だから、不安になってるなら隠さないで俺に言え。恋人だろ」

「だ、って、俺・・・つるぎに、鬱陶しいって思われたくなくって。・・・嫌われたく、な・・・っ」

「嫌うわけ無いだろ。・・・好きだって何回言えば分かるんだよ」


そうはっきりと告げると、天馬がとうとう泣き出す。ボロボロと大粒の涙を雨のように零しながらえぐえぐと泣く天馬は幼い子供のようだ。そんな天馬の頭を少し雑に撫でながら俺はヤケクソのように口を開いた。


「・・・ワガママ言え」

「っ、え・・・?」

「今まで我慢してた分、寂しかった分ワガママ言え。今日くらいは俺に甘えろ」

「つる、ぎ・・・っ」

「・・・・・・俺だってお前を甘やかしたいんだよ」


言い切った。多分今年一番素直になったと思う。鏡が無いから分からないが、きっと顔だって赤くなってる。それくらい俺は勇気を振り絞って伝えたのだ。こんな照れくさくって仕方ない気持ちを、いつだって真っ直ぐに俺に伝えてくれていた天馬に心の底から感心する。同時に、どうしようもない愛しさが募る。


「・・・おい、いつまでも泣いてないでなんか言えよ。俺にして欲しい事、1個くらいはあるだろ」

「・・・あの、ね。・・・・・・俺、つるぎにぎゅってして欲しい・・・」

「・・・もっと他に思いつかないのかよ・・・」

「や、やっぱりダメ・・・?」


拭いきれてない涙を浮かべたまま真っ赤になって恐る恐る俺を見上げる天馬に、俺は今度こそ隠し切れない愛しさが爆発する。もう限界だ。天馬が可愛すぎて勝手に頬が緩む。


「逆だバカ。・・・簡単すぎて全然ワガママになってねぇよ」

「!」


そう言って俺は抱き寄せるようにして天馬に唇を重ねた。
いつだったか天馬に言われた“少しだけ不器用だけど、優しい剣城が大好きだよ”って言葉に、優しいのはお前だろって想いを馳せながら。




だけど結局、これでいい
(不器用でも素直でも)(伝えたい気持ちはひとつ)(好きを繋いで恋するふたりになる)





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ぎりぎりですけど京天の日おめでとう小説!
本当は小ネタにするつもりだったんですけど長くなったので思い切ってフリー小説に。
次の京天の日(10/18)までフリーなので、こんなんで良ければどうぞご自由にお持ち帰りください!
報告は不要です(*^^*)

ネタが無い上に急いで書いたので誤字脱字がハンパないと思いますが、お持ち帰りしてくださった方はそっと修正してやってください(笑)

付き合いたてで初々しいマサ輝と、相変わらず良い仕事(笑)をする信助と、不器用で互いに素直になれない京天にいつまでも幸あれ!


20121008:桜兎

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