聖夜の祈りを君に捧ぐ




大事な人、そばに居たい人。
そんなのずっと昔からたった一人だけで、俺にとっては当たり前の事だった。

他の誰かなんて有り得ない。今も、これからも、ずっと。



「メリークリスマス、神童」

「メリークリスマス、霧野」



軽く重ね合わせたことでチン、と澄んだ音を響かせたのはシャンパンの入ったグラスじゃない。リンゴジュースの入ったグラスだった。当たり前だけど、俺達はまだ中学生で飲酒出来る歳じゃないからな。


ぐいっと一口飲み、息を吐いてから俺は目の前で同じようにグラスを傾けてる神童に声を掛けた。


「今年も何とか2人で過ごせる時間があって良かったよな。もうすっかり夜だけど」

「そうだな。・・・ふふ、」

「どうした?」

「ん、いや、なんか・・・恋人同士みたいだなって」

「何言ってんだよ、俺達は元から恋人同士だろ」

「男同士だけどな」

「なに、神童やっぱりまだそういうの気にしてる?」

「いや、・・・確かに気にしてるけど、でも。・・・俺は、霧野じゃなきゃダメだよ」

「そんなの当たり前だろ!・・・なーんてな、好きだよ拓人」

「冗談じゃないくせに・・・」

「でも嬉しいだろ?」

「ばか。・・・・・・俺も好き、蘭丸」



そう小声で言ってくれたかと思うと、照れ隠しなのか神童が急に窓のほうに駆け寄って「雪が降って来たぞ」なんて言い出す。多分、火照った頬を見られたくないんだろうけど、珍しく髪を耳にかけているせいで耳まで真っ赤になっているのが丸分かりだ。可愛いなぁ、ほんと。

「ほら、霧野も見ないか?雪、結構降ってて綺麗だぞ」

「んー、でも俺が窓に近づいたら神童が赤くなってんのバレて困るんじゃないのか?」

「なっ、・・・もう赤くない!」

「へぇ。また赤くなってるけど?」

「・・・っ、外で雪だるまになってきたらどうだ」

「悪かったって。って言うかさすがにそこまでは降ってきてないだろ?」


神童と過ごすホワイトクリスマス。
これで一体何度目だっけな。確か去年は降ってなかった気がするけど、神童と過ごせてやっぱり幸せだったことを覚えてる。もちろん今年も、幸せ。


「そろそろケーキでも食べるか?部活の後だからお腹空いてるだろう?」

「腹減ってるからどっちかって言うとチキンとかのほうが先に食いたいけど・・・いや、やっぱケーキのほうが良いや。食う」

「俺はどっちでも良いんだぞ?」

「じゃあ神童食べたい」

「それじゃあケーキ切り分けるから待っててくれ」

「せめてリアクションしてくれよ・・・」


本気なのに、と言う俺の呟きが聞こえてるのか否か、神童は鼻歌交じりに楽しそうにケーキを切り出す。普段ならメイドさん達がやってくれてたり最初から切り分けられている(と言うか個体の?)ケーキなんだけど、誕生日とかクリスマスなんかのイベントの時は神童がホールケーキを切り分けてくれる。これもクリスマスの楽しみの一つだ。


「はい。何とか倒れなかったぞ」

「おー、サンキュ。ほんとだ、綺麗に載ってる。すっげー美味そう」

「どうぞ召し上がれ」

「いただきます」


パクッと一口頬張ると口の中に広がるクリームの甘い香りとフルーツの爽やかな酸味、そしてスポンジの柔らかな食感に魅了されて自然とフォークが進む。神童もご満悦なのか、頬が緩んでいて随分と嬉しそうだった。普段はあまり見せない表情や仕草の連発に、俺の心はどうしようもなく舞い上がる。ああもう、可愛すぎる。甘いのはどっちなんだか、なんて、分かりきってる事か。


「俺さ、今年も神童と一緒に過ごせてすごい嬉しいよ」

「ああ、俺もだよ」

「クリスマスだけじゃない。・・・誕生日も、バレンタインも、他の記念日も。全部。記念日だから特別なんじゃない、神童と過ごすから特別なんだよ」

「っ、・・・・・・それ、じゃあ。毎日が特別みたいじゃないか・・・」

「そ。俺にとっては毎日が神童との記念日なの」

「・・・き、りの。よくそんな恥ずかしいセリフを・・・」

「普段の神童のほうがもっと大胆な事言ってるって」

「えっ!?」


わたわたと慌てだしたり、怒ったり、挙句の果てには羞恥心から涙目になったり。ほんと、神童は全部が愛しい。ずっと一緒に居たい。ずっと一緒に居るけど、もっともっとそばに居たい。俺はとうとう自分の中の欲を抑え切れなくなって、静かにテーブルにケーキの皿を置いて後ろから神童を抱き締めた。


「きっ、霧野、何す・・・」

「名前。さっきは呼んでくれただろ?拓人」

「・・・・・・らん、まる。離して」

「よく出来ました。でもまだダメ。こっからが本番なんだから」

「なっ・・・!?」

「・・・はいこれ。今年のプレゼント」


そう言って俺は(自分で言うのもなんだけど)器用に神童の首にプレゼントをかけてやる。それはよくあるペアリングの片方を鎖に通したもので、もう片方のリングはもちろん俺の分で、服で隠れてるけど今もつけている。


このプレゼントは今までにも何度も悩んで結局は贈れなかった品なんだけど、今年はサッカー部の事で色々あって神童も俺自身も大きく変わった年だったから、改めて恋人の証としてどうしてもこれをプレゼントしたくて。
これから先どれだけ俺達が変わったとしても、2人の想いと絆は決して揺るがないように、いつまでも2人の気持ちが繋がっているように。そんな想いを込めて店の中を何度も往復して、たくさんあるデザインの中から悩んで悩んでやっと決意して買ったものがこのネックレスだ。


「神童、どう・・・?」

「・・・・・・。」


後ろから抱き締めたままだから神童の反応はよくわからないけれど、嫌がってない・・・とは、思う。でもあまりにも長い間神童が無言だったから俺は不安になり、しだいに神童を抱き締めている腕の力を緩めながらしどろもどろと頼りない言葉を紡いだ。


「あの・・・安物でごめんな?こんなプレゼント、自分でも女々しいって分かってるし、いくらチェーンに通してあるからって学校とか部活とかで着けられないのは分かってる」

「・・・・・・。」

「でも・・・どうしても神童に渡したくってさ。いつかちゃんと、本物の指輪を渡せるように頑張るからさ、だからこれはその約束の証って言うか・・・」

「・・・・・・。」

「勝手だって分かってるけど、その日が来るまでどっかに仕舞ってくれて良いから神童に持ってて欲しいんだ。・・・やっぱり、嫌か?」

「・・・ちがう」

「え?」

「・・・・・・違う、蘭丸・・・っ」


神童がそう大きく叫んだと思うと、突然身体の向きを変えて真正面から俺に抱きついてきた。俺はその衝撃を受け止めてもう一度抱き締めながら、神童の肩が震えている事に気づく。今までにも何度もあった、よく見慣れて知っている、神童が泣いている時の様子だ。


「嫌じゃないなら・・・なんで泣いてんの?」

「っう、嬉しい、から・・・」

「・・・それじゃあ、受け取ってくれる?」

「あ、当たり前だろ・・・!」


強気な発言なのに、やっぱり涙交じりの声で。だんだん落ち着いてはいるけど、時折漏れる嗚咽に俺はおかしくなってとうとう笑い出してしまった。
神童が喜んでくれて、泣いてくれて、受け取ってくれて。俺があげたのに、神童は俺の欲しいものを全部くれる。俺の事を大好きだって、体温が伝えてる。

それがこんなにも愛しくて幸せなことをクリスマスに実感できるなんて、これは聖夜の奇跡とも言えるんじゃないだろうか。


「・・・いつまで、笑ってるんだ・・・」

「ははっ、悪い悪い。拓人があんまりにも可愛いから」

「・・・・・・・・・蘭丸」

「ん?」

「・・・俺も、プレゼント用意してある。・・・けど、」

「けど?」



小首を傾げて腕の中の神童を見つめる俺に、神童がやっと顔を上げてそれでも躊躇うような表情を見せながら口を開く。
用意してある、けど。その先に続くのは一体どんな言葉なんだろう。


「・・・・・・とりあえず、俺がプレゼントじゃダメか・・・?」

「・・・っ!!?」

「う、嬉しかったから、俺も蘭丸に喜んでもらえるプレゼントをあげたい。・・・けど、用意したプレゼントだけじゃこの気持ちは返せそうにないから。だから、・・・こんなんじゃ、まだ足りないかもしれないけど・・・」



・・・あれ、おかしいな。
飲酒なんてしてないのに、ぐらりと視界が揺れる。


涙を瞳に溜めたまま少し震えながらも神童はぎゅっと俺にしがみついてきて。そのせいでより一層伝わる鼓動はさっきよりもずっと早くって、神童がどれだけ緊張しているか、どれだけ勇気を出して俺を誘っているのかが分かる。

・・・・・・いやいやいや、そんなのって。こんなのって。
今日は年に一度のクリスマスで、しかも雪が降ってるからホワイトクリスマスで。神童とジュースを飲んで、ケーキを食べて、甘い言葉なんかも囁いちゃったりして。俺の一大決心なプレゼントを受け取ってもらえただけで充分なのに、これ以上もあるなんて。
今年のサンタは俺に出血大サービスしすぎで貧血でぶっ倒れるんじゃないのか?

なんて、割と真剣に(いや大真面目に)そんな馬鹿な事を考えていると、今度は神童が待ちきれなくなったのか俺の服の裾を掴んで返事を急かす。


「ら、蘭丸・・・返事は?」

「・・・拓人」

「は、はい?」

「・・・・・・やっぱり、拓人のほうが俺よりずっと大胆な発言してるよな!」



そう満面の笑みで答えてから俺は真っ赤になって慌てだす神童にいただきますの意味を込めて甘いキスを贈った。


雪を見て月を見て花を見て、ずっと君と過ごしたい。


(たとえば、そんな奇跡だって)
(君となら不可能じゃない)
(約束の指輪は胸に抱いて)





>>あとがき

深夜テンションの産物、と言うかお馴染みの甘ったるいバカップル蘭拓文です(笑)
記念日がどうたらこうたら言ってるだけのギャグ風味な小ネタにするつもりだったのに・・・あれ(゜▽゜)?

とりあえず何と言いますか・・・・・・聖夜だろうとホワイトクリスマスだろうとサンタさんとトナカイさんがリア充爆発しろと言おうと、自分達だけの世界に入っていちゃつくのがこのサイトの蘭拓です(笑)
きっと京天とマサ輝と浜速と南倉もどっかでいちゃついてるはず!


そして最後の「雪を見て〜」はアレです、『雪月花(または月雪花)』のことです。
季節的にはちょっとずれてる(?)んですけど、この文章では『最も君を憶ふ』や『有り得ない奇跡(=雪・月・花の三大美が同時に見られる事はほぼ無い)』の意味で使用しているのでまぁ良いかな、と・・・。いや、そんな深く考えて下さってる方は居ないと思うんですけどね。書いた桜兎としてもそんな深い意味を込めた訳では無いので、さらっとそのまま素直に読んでくださったら良いんですけどね(笑)
でもまぁ、一応裏話と言うか豆知識です(笑)


それでは、だいぶ長々と書いてしまいましたが、
ここまで読んでくださったみなさまにハッピーメリークリスマス!


20121224:桜兎
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