キッカケは天馬くんのおせっかい丸出しの一言だった。


「ねぇ、狩屋と輝はいつになったら付き合うの?」

「は?」



たとえばそんな僕らの恋の話
(Side:Masaki)




「…ちょ、いきなり何言ってんの天馬くん」

「だって狩屋ってばあんまりにもじれったいからさー」

「おい。そこはもうちょっと黙っとくべきだろ」

「そうだよ天馬!触れたら可哀想だよー」

「いや、剣城くんも信助くんもニヤニヤしながら言っても説得力無いからね!?」


俺は思わず立ち上がって叫ぶように声を張り上げてしまう。
それを見た3人はやっぱりどこか笑いを堪えていて、俺は恥ずかしくって腹立たしくって仕方なかった。もう一度大人しくソファに座り直した時のこの屈辱的な感覚ときたら何とやら。膝の上で堅く握り締めた両手の拳まで震え出す始末だ。


「まぁまぁ、いいじゃん別に!今ここに居るのは俺たちだけなんだし」

「葵ちゃんは用事で帰っちゃったしね〜」

「…それに、監督たちもまだ当分来ないしな」


確かに今はまだ部室に先輩たちが来ていなかったから良かったけど(3年生は模試、2年生は学年集会の最中らしい)、話の内容がとんでもないことには変わりない。ちなみに、当の本人の輝くんは日直らしくって今もまだ日誌を書く為に教室に居残っている。


「だからって何でいきなり俺と輝くんの話になるんだよ!」

「え、何言ってんの?そんなの今更言うまでもないよね?」

「天馬は剣城と、神童先輩は霧野先輩と、他は省略ってことでサッカー部内のカップルでまだリア充になってないのは狩屋たちだけだもんね」

「…まぁ、否定はしないな」

「何この3人ものすごく腹黒いっ、て言うか言い方が容赦ないんですけど!!?」


何で俺こんなにもボロクソに言われてるんだろう。今なら泣ける様な気がする。俺って不憫。しかも3人共絶対に面白がってるし。


「でもさ、真面目な話、狩屋だってずっとこのままじゃ嫌なんでしょ?」

「う…」


こてん、と愛玩動物よろしく可愛らしく首を傾げて聞いてくる信助くんに俺は動揺を隠せない。そりゃあ、まぁ、確かに。本音を言えば俺だって。輝くんとずっと仲の良い親友で居ることは確かに心地良いけど、物足りない気持ちとか、我慢できないような欲望だってあるのも事実だ。このまま親友としてそばに居るのはきっと、遅かれ早かれいつかは限界が来ると思う。


「…だからって、そんな簡単に言えるわけないじゃん…」


輝くんのことが好き。大好き。
俺たちはつい最近小学校を卒業したばかりの中学生で、世間から見てまだまだ子供だって分かってる。しかも男同士だし。
・・・それでもこの気持ちは勘違いじゃなくって、ちゃんと本当に“恋”として抱いているものだから。だから友だちのままじゃ苦しくって、切なくって、だけどもっともっと君を好きになる。


でもだからこそ、そんな想いだからこそ、言えないんだよ。
もしも、拒絶されてしまったら。もう隣に居ることが出来なくなってしまったら。今までの日々も、これからの未来だって全部無くなってしまう。親友として、そばに居ることすら許されなくなってしまう。


そんなのは絶対に嫌だ。俺は輝くんを困らせたいわけじゃない。優しい彼にはいつだって笑ってて欲しいから。俺の気持ちを押し付けて、悩ませてしまうようなことなんてしたくないんだ。


だから、告白なんて。そんなの、絶対に両想いになれる100パーセントの保証が無い限り出来るわけ無いじゃん。



「・・・狩屋。お前は俺たちに限らず他の人達だってそんな簡単に上手くいったと本気で思ってるのか?」

「え?」

「……傷つくのは、誰だって怖いし嫌だ。傷つかない為に自分を守るのだって別に悪いことではないと思う。…でも、だからって自分を守る為に臆病になっていつまでもアイツを傷つけたままで良いのか?」

「ちょ、剣城くん…?」


笑い飛ばせるような雰囲気ではなかった。剣城くんの瞳は俺を射抜くかのように真っ直ぐで真剣だった。
傷つく?自分を守る?傷つけている?
………俺が、輝くんを傷つけている?


「なっ、んだよそれ…!」

「わっ、狩屋落ち着いて!」

「剣城も!今の言い方はちょっとよく無かったよ!?」

「……悪い。兄さんから電話掛かってきてるしちょっと出てくる」


カタン、そう小さく音を立てて剣城くんが自動ドアの向こうに出て行く。俺はそれを横目で見送ってから、大きく息を吐き出す。……今のは、俺だって悪かった。なのに、剣城くんは。
そう後悔していると、俺を挟むようにして座っていた天馬くんと信助くんが心配そうに俺の顔を覗き込む。


「狩屋、もう平気?」

「…あ、うん、ごめん…」

「良いんだよそんなの気にしなくって!俺たちだってちょっと調子に乗りすぎてたし、ごめん。…だけど剣城だって悪気があった訳じゃないんだよ」

「・・・それは、ちゃんと分かってるよ」


そう告げると天馬くんがほっとしたような表情を浮かべる。分かってるよ、大丈夫だよ。剣城くんだけじゃなくって、天馬くんも信助くんも俺のことを、・・・俺の輝くんへの気持ちを心配してくれてることは分かってる。だけど、俺が分からないのは、


「・・・なぁ、俺が輝くんを傷つけているってどういう意味かな・・・」



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